NICUとは?NICUでの赤ちゃんとママやパパ・家族のかかわり方
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NICU(新生児集中治療室)という名称のイメージから、「赤ちゃんがNICUにいる間、家族は保育器の外から見守ることしかできない」と思ってしまうかもしれませんね。でも、そんなことはありません。ママやパパは赤ちゃんに触れたりお世話したりできるし、施設によってはきょうだいや祖父母などの家族も面会に行けます。
NICUってどんなところ?過ごす期間や過ごし方について
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NICUに入院が必要な低出生体重児や早産児にはさまざまな医療サポートが欠かせません。そのために、赤ちゃんの状態をこまかく把握し、すばやく対処できる体制が整っているNICUで過ごします。NICUとはどのような場所なのか解説します。
NICUは赤ちゃんが安全に育つための場所
NICUは「Neonatal Intensive Care Unit(新生児集中治療室)」の略称。呼吸管理が必要な赤ちゃん、チアノーゼ(血流が悪く顔色や全身が紫色になっている状態)や先天性の異常やさまざまな病気を抱えた赤ちゃん、超・極低出生体重児たちが保育器の中で、呼吸、心拍、体温、栄養を管理して育てられていきます。最も重症の赤ちゃんが入院するNICUでは、医師は24時間態勢で診療にあたりますし、赤ちゃん3人につき1名の看護師の配置が義務づけられています。しかし、NICUは治療の場であると同時に、赤ちゃんにとっては発育の場、家族にとっては保育の場でもあります。NICUのスタッフは、入院中から育児が始まっていると考え、また家族の不安にも対応できるようにするため、家族を中心に据え、ともに赤ちゃんを育てているという気持ち(ファミリーセンタード・ケア)で、赤ちゃんやパパ・ママに接しています。
温度・湿度を管理した保育器で適切な体温をキープ
通常、小さく生まれるほど適切な状態で体温を維持することが難しくなります。栄養素の備蓄が少ない低出生体重児の赤ちゃんが、最小限のエネルギー消費量で体温を維持するために必要なのが保育器です。一般的に、1500g未満で生まれた赤ちゃんは保育器で育てられます。保育器の中は、赤ちゃんの体温が37℃に保たれるように温度と湿度が管理されています。最新の保育器では、心電図の波形や酸素飽和度、呼吸数が映し出され、赤ちゃんの状態が一目でわかるようになっています。
保育器は2種類あります。主に温度と湿度の管理が必要な小さな赤ちゃんが入っているのは閉鎖式保育器。加湿が不要な比較的大きな赤ちゃんや、手術が行われた赤ちゃん、極めて多数の点滴やモニターが必要な赤ちゃんは、処置のしやすさを考慮して開放型保育器(ラジアントウオーマー)に入ります。
●保育器にいる赤ちゃんに触れられます。
赤ちゃんの状態が落ち着いていれば、保育器にいる赤ちゃんに直接触れ、体をふいたり、おむつを交換したりできます。ママやパパにタッチされることで、赤ちゃんの安心感が高まりますし、ママ・パパもわが子であるという実感を得ることができます。
体重2000gを越えたら退院の目安
NICUで育つうちに状態が安定して人工呼吸器をはずせるようになったら、保育器を卒業しGCU(Growing Care Unit=継続保育室)や新生児室に移動します。NICUに入院している期間は赤ちゃんの状態によって異なりますが、赤ちゃんの体重が予定日に近づき、体重が2000gを越え、無呼吸もなく、安定して授乳ができ、ご家族の受け入れができるようになったときが、退院の目安です。
●NICUを卒業したらママと一緒に過ごす病院も
帝王切開で出産した場合、ママの入院期間は母体にトラブルがなければ6~8日程度ですが、平均すると8~10日程度。ママの入院中に赤ちゃんが回復し、GCUを経由しなくても赤ちゃんの育児が可能であると判断された場合は、NICUを卒業して直接産科病棟でママと一緒に過ごせる場合もあります。
●ママが先に退院する場合も
ママが退院するとき、赤ちゃんが自宅での育児がまだ難しいと判断された場合には、NICU内で赤ちゃんだけ継続入院となります。ママやパパはできるだけ病院に毎日通い、赤ちゃんに触れ、声をかけ、応援してあげましょう。
●GCUってどんなところ?
GCUでは、保育器は卒業し、コットという赤ちゃん用のベッドで過ごすことが一般的です。ここは、赤ちゃんの成長や発達を支える場所。ママやパパは退院に向けて、沐浴や授乳、おむつ替えなどのお世話を積極的に行うことができます。また、スタッフに育児相談をすることもできます。GCUに移った赤ちゃんは、修正週数が予定日に近づき、体重が増えて体調が安定したら、退院の準備に入ります。
NICUでのママのかかわり方、カンガルーケアや母乳育児について
ママが「小さく産んでしまった」と自分を責める気持ちになることは、よくあります。でも、ケアに参加したり、赤ちゃんに触れたり、直接口から飲めなくても搾乳した母乳を与えることで、徐々に心が癒やされていくでしょう。赤ちゃんがNICUに入っている間から育児は始まっています。状態が安定したらママやパパがたっぷり触れることで赤ちゃんの安心感を高めたり、回復を促したりすることができます。ママやパパもご自身の子どもであることの実感が強くなります。
毎日、母乳を届けます
赤ちゃんがNICUにいる間、ママは直接母乳を飲ませられないことがしばしばあるので、母乳をしぼって届けます。赤ちゃんに吸ってもらえないと、母乳の分泌が減りがちですが、低出生体重児や早産児ほどママの母乳が必要です。助産師や看護師に搾乳方法を指導してもらい、母乳が出る状態をキープしましょう。ママだけ先に退院したり、赤ちゃんが別の病院にいる場合も、パパや家族に手伝ってもらい、できるだけ毎日搾乳した母乳を届けましょう。
でも、ママが服用している薬や一部の感染症のために母乳が与えられないこともあります。海外ではこのような場合は母乳バンクから供給された母乳を利用できます。しかし、日本ではこのようなシステムが確立していないため一般には利用できません(インターネットで購入することは禁物です)。そのため、低出生体重児用ミルクを使わざるを得ないのですが、在胎28週未満のとても未熟な赤ちゃんに対し、施設によってはほかのお母さんから提供された「もらい乳」がすすめられることがあるかも知れません。この場合、感染のリスクなどに注意が必要ですので、医師から十分に説明を受け、納得したうえで判断してください。
状態が安定したらカンガルーケアを
赤ちゃんの呼吸や循環の状態などが安定したら、看護師と相談しながら可能なときには保育器から赤ちゃんを出して直接の抱っこを試みてみてもよいでしょう。慣れてきたら、ママと赤ちゃんの肌をつけて抱っこする「カンガルーケア」に移行してみるのもいいと思います。保育器のそばで、専用の椅子に座って行います。ママと赤ちゃんの肌が直接触れ合うことで親子の絆(きずな)が強まります。赤ちゃんの頭をママの心臓の上に置いてあげると、ママの鼓動が伝わり、赤ちゃんが安心すると言われています。
一方、ママのほうも母乳の分泌が増加することが多いようです。カンガルーケアはパパも行うことができます。カンガルーケアは親子の絆(きずな)を強めるだけではなく、ママが赤ちゃんに直接触れることによってNICUの環境に存在する一部のウイルスや細菌がママの体内に入る(病気になるということではなりません)ことで、これに対する抵抗力をママが獲得し、母乳を介して赤ちゃんに与えられ、赤ちゃんを守る効果も期待できます。
ママが直接触れることで赤ちゃんが安心します
カンガルーケア以外にも、保育器にいる赤ちゃんの体をふいたり、おむつを交換したりして、直接赤ちゃんに触れることができます。保育器の外からながめているより、直接触れるほうが母親としての実感がわきやすく、ママにタッチされることで赤ちゃんの安心感も高まります。たくさん声もかけましょう。
NICUにいる赤ちゃんと、パパや家族のかかわり方
施設によっては、パパはもちろん、じいじ・ばあばや、きょうだいもNICUにいる赤ちゃんに会いに行けます。パパはママの支えになり、家族はママとパパのよき協力者になりましょう。
パパも積極的にお世話を
保育器の中に手を入れて赤ちゃんの体に触るタッチングや抱っこ、カンガルーケアは、パパもできます。保育器を出たら、パパもおむつ替えや授乳(冷凍母乳やミルクを哺乳びんで飲ませる)が可能ですし、退院前は沐浴させることも可能。入院中から育児が始まっていると考え、そのときにできることは何でもやってみてください。
ママの支えになりましょう
「赤ちゃんが低出生体重児や早産児で生まれたのは私が悪いのではないか」と、産後のママは自分を責めてしまいがち。パパがどっしりと構え、支えになってあげましょう。そうすることで、ママは現実を少しずつ受け入れ、子育てに向かう心の準備ができていきます。また、赤ちゃんが退院したあと、ママは赤ちゃんのお世話で手いっぱいに。家事の分担がスムーズにできるように、赤ちゃんが入院している間に練習したり、シミュレーションしておくといいですね。一方で、ママはあまり気負わずに、必要なときにはパパやまわりの家族、あるいはご近所に手助けを頼みましょう。
時には、夫婦二人で食事や買い物に出かけましょう。子どもがNICUに入院して頑張っているのに、とてもそんな気持ちにはなれないと思うかもしれませんが、知らず知らずに精神的・肉体的疲労が蓄積するので、気分転換も必要です。そうすることで夫婦の絆も強くなりますし、夫婦の強い絆は赤ちゃんのためにも重要です。
きょうだいや祖父母も赤ちゃんに会えます
子どもの面会は赤ちゃんへの感染リスクを考慮して、ガラス越しに行うのが一般的でした。しかし、上の子の精神面に配慮して、きょうだい面会が大事という考えが広がり始めています。また、じいじ・ばあばがNICUの中に入り赤ちゃんに面会できる施設も増えてきました。低出生体重児や早産児をパパとママだけで育てていくのは大変なこと。じいじ・ばあばは、母乳を届けるのを手伝うなどの直接的な手助けはもちろん、ママやパパの支えとなり、退院後の育児をサポートしてあげましょう。
NICUスタッフとのコミュニケーションの取り方
NICUのスタッフはママやパパと一緒に赤ちゃんを育ててくれる医療者であり、ママやパパを支えてくれる人たちでもあります。コミュニケーションを円滑にして、スタッフに対して不安や心配などを抱え込まないようにしたいものです。
不安なことは何でも聞く
赤ちゃんの命を助けることだけでなく、ママやパパの気持ちをサポートすることもNICUスタッフの大切な仕事です。不安なこと、わからないことなどは遠慮せず何でも聞きましょう。直接聞きづらいときは、連絡ノートや面会日誌に書いておくのもいいでしょう。また、面談の予約をとってじっくり説明を聞くことも大事です。
●スタッフと気が合わないときは?
NICUのスタッフは「低出生体重児や早産児をなんとか育てたい」という熱い気持ちで働いていますが、どんなにすぐれたスタッフでも時に相性が合わないことはあるもの。そんなときは、NICUに配属されている臨床心理士や看護師長に遠慮なく相談を。ママやパパが気持ちよく赤ちゃんのお世話をできるように調整してくれるでしょう。
●退院時の謝礼は?
退院時、金品などの謝礼は不要です。NICUで働く医師やスタッフにとっていちばんうれしいのは、低出生体重児や早産児が元気に成長してくれること。仮に障害が残った場合も、家族がそれを受け止め、明るく元気に生活していくことがいちばんのお礼です。
状態が安定したらGCUへ
赤ちゃんの状態が安定したら、重症度の低い赤ちゃんや回復期の赤ちゃんのための病室であるGCU(継続保育室)へ移ります。GCUではママやパパが授乳やおむつ交換、沐浴などのお世話を行い、おうちでの生活に向けて準備します。そして、体重が2200~2300gを超えたら退院です。
「ママ・パパのNICUへの通院とカンガルーケアについて」体験談
早産児や低出生体重児で生まれたわが子が入院しているNICUへママやパパはどのくらい通院していたのか、そしてカンガルーケアをしたときにどう感じたのか・・・・。実際に赤ちゃんがNICUの入院を経験したママにコメントをいただきました。
●心配だけでなくうれしい変化も多く、毎日通院しました
私は毎日通いました。NICUにいる以上、突然なにが起こってもおかしくないし、反対に1日で〇〇ができるようになったなど、うれしい変化も多いので、見逃せませんでした。なにより、わが子がNICUで頑張っているのだから、どんなときでも会いに行きたかったです。パパも同じ気持ちでしたが、仕事のため、行かれる日はできる限り通院していました。(2才6カ月男の子、出生体重:1545g、在胎週数:30週2日)
●入院中は、傷が痛くても毎日3回面会に
私が入院中は、毎日3回会いに行きました。傷が痛くても車いすで会いに行きました。退院後は病院が遠く、傷も痛くてなかなか行けませんでした。「若いママだから、帝王切開だから」と私がいないときに、息子が言われたりするのが嫌だったので、夜でも朝でも少ししかいられなくても、赤ちゃんに言葉が伝わらなくてもニュアンスは伝わると思って、意地でも通いました。(2才2カ月男の子、出生体重:1638g、在胎週数:30週5日)
●最初は、パパが平日の朝と夜の2回面会
パパは平日、毎日朝と夜。会社に行くときと帰りにNICUに寄ってくれました。私は帝王切開だったうえに上の子がいて、しかも病院まで車で片道2時間かかったので、週末のみ。数カ月たって、近くの病院のNICUに転院してからは、私が平日に毎日、週末は家族で通いました。(3才女の子、出生体重:1117g、在胎週数:27週2日)
●カンガルーケアで「この子は大丈夫」と思えました
私の退院の日に、初めてのカンガルーケアをさせてもらいました。胸の上に全身が乗ってしまうくらい小さくて、あまりに軽くて申し訳なくなりました。でも弱弱しいと思っていましたが、思ったよりも力強くて、「この子は大丈夫」って思えました。(1才女の子、出生体重:1158g、在胎週数:28週6日)
●最初のカンガルーケアは緊張で汗だくに
最初にカンガルーケアを行ったときは、首はぐらぐらだし、チューブ類がたくさんついていたので恐怖が先立って、緊張で汗だくになってしまいました。徐々にリラックスできるようになり、抱っこしていて私も眠くなるように。面会に行ったときは、抱っこしたいなと思うようになりました。(1才6カ月女の子、出生体重:644g、在胎週数:23週4日)
●「やっと抱っこしてあげられた」と安心しました
NICU入院後しばらくは、呼吸が安定せず、抱っこもできませんでした。初めて抱っこをして胸の上にわが子を抱いたときには、「やっと抱っこしてあげられた」と安心しました。(3才7カ月男の子、出生体重:1533g、在胎週数:28週6日)
NICUは、スタッフと一緒にママやパパが赤ちゃんを育てる場所。赤ちゃんとたっぷり触れ合い、スタッフとはたくさんコミュニケーションをとり、おうちでの生活に備えましょう。(取材・文/東 裕美、ひよこクラブ編集部)
監修/板橋家頭夫先生
昭和大学病院病院長。専門は、小児科学、新生児学。極低出生体重児の成長・栄養管理に詳しく、低出生体重児・早産児の生活習慣病リスクを研究。赤ちゃんや家族の幸せをモットーに診療をされています。