4人の子のパパでプロバスケ選手。ワンオペで子育てする妻のために、手作りのおかずをクール便で送ることも【谷口大智・インタビュー】
B1リーグ島根スサノオマジックに所属している、プロバスケットボール選手の谷口大智さん。谷口選手は6歳、5歳、2歳、1歳の子どものパパでもあります。島根に単身赴任をしている谷口選手に、子育てやスラムダンク奨学金で奨学生に選ばれ、アメリカ留学をした経験などについて聞きました。全2回インタビューの後編です。
単身赴任でバスケを。オフは、家族が暮らす周防大島へ
谷口選手は、チームがある島根県に1人で暮らしています。家族は自然豊かな山口県の周防大島に住んでいます。
――結婚について教えてください。
谷口さん(以下敬称略) 妻とは同じ歳で、プロ1年目のとき友人の紹介で知り合いました。妻はバスケットボールのことはあまり詳しくない人で、だから僕も一緒にいてつらいバスケのことなどが忘れられる瞬間もあり気が楽でした。
また「あなたはプロバスケットボールの選手だから優遇されている面があるけど、一般の人は違うからね!」と言われたこともあり、常識をもったところにひかれました。結婚したのは27歳のときです。
――4人の子どもがいますが、出産は立ち会えましたか?
谷口 6歳になる長男の出産のときはちょうどオフシーズンだったので、立ち会うことができました。でもほかの子は、シーズン中で立ち会うことはできませんでした。
唯一立ち会えた長男の出産時には、陣痛がきて産院に行き、妻の背中や腰をさすったり、励ましたりしたのですが、あのときは、かなり自分の無力さを感じました。
――今の暮らしについて教えてください。
谷口 僕はチームがある島根県で1人で暮らしています。妻と子どもたちは、山口県の周防大島に住んでいます。試合や練習がない休みのたびに、車で片道4時間かけて帰っています。帰るたびに子どもたちの元気な姿と豊かな自然にいやされています。
――奈良県出身の谷口選手ですが、周防大島に住もうと思ったのはなぜですか。
谷口 僕は秋田、広島、茨城、そして今の島根のチームでプレーをしてきましたが、コロナ禍のときは広島ドラゴンフライズに所属していました。コロナのためにシーズンが途中で終わってしまって時間をもてあまし気味だったときに、周防大島にキャンプに行こうと思ったんです。SUPにもはまっているころで「キャンプとSUPができる」と周防大島のことを知人に教えてもらいました。
周防大島は瀬戸内のハワイと言われていて、海がきれいですごくゆったりとした時間が流れているんです。何度か訪れているうちに島の雰囲気が、僕も妻も気に入って「こういうところに住みたいね」という話になって、土地を探しました。
家を建てたのは今から3年前ですが、目の前に美しい海が広がっていて、家族みんなが心地よく過ごせる家にしたくて、家作りにはかなりこだわりました。
――周防大島は子育てがしやすいですか。
谷口 僕が住んでいるエリアは、子どもが少ない地域なんです。まわりは高齢の方が多いので、うちの子どもたちを孫のようにかわいがってくれます。木登りやカブトムシのとり方などを教えてくれる人もいて、穏やかな気持ちで子育てができます。
シーズン中、僕は島根の生活がメインになるので、妻はワンオペで子育てに向き合うことになります。4人いるとどうしても煮詰まってしまうと思うんです。でも「子どもたちが、多少大きな声を出しても大丈夫」「みんなやさしく声をかけてくれる」という島の雰囲気にも助けられていると思います。
子どもの成長はあっという間。将来、笑顔で「頑張ってきてよかったね」と言える夫婦が理想
谷口選手は「自分がプロバスケットボール選手をやっていられるのは妻のおかげ。単身赴任でも、できるだけ妻の力になりたい」と考えています。
――4人の子どもをワンオペで日々見ているのは大変だと思いますが・・・。
谷口 家に帰ると、妻から「毎日、大変だよ・・・」と言われます。ある日、妻が「料理作るのも大変なんだよね・・・」と言うので、「おかずを作って送ってあげたら少しは助かるかな?」と思ったんです。一緒に暮らしていないので、洗濯や掃除をすることはできません。でも「食事作りならできるかな?」と思ったんです。
それから時間があるときに、子どもたちが喜びそうな豆腐ハンバーグや豚の角煮などを作って、クール便で送ることもあります。料理は今まであまりしてきておらず初心者なので、ネットのレシピとにらめっこしながらですが・・・。
――子育てをしていて、大切にしていることを教えてください。
谷口 子どもの成長はあっという間です。まだ、言葉が出なかった娘が、次会ったとき「ママ」と言っていたときは、子どもの成長って早いな~とつくづく思いました。
子育てって、子どものことだけに力を注ぎがちですが、子育てが落ち着いた先にあるのは夫婦の時間です。子どもから手が離れたときに、夫婦で「あのとき大変だったけど、頑張ってきてよかったね」と笑って言えるように、妻との関係を大切にしたいと思っています。
『SLAM DUNK』の作者である井上雄彦さんが、「この作品をここまで愛してくれた読者とバスケットボールというスポーツに、何かの形で恩返しがしたい」という志から始まった、スラムダンク奨学金。奨学生に選ばれると、アメリカのプレップスクールでの学業およびバスケットボールのプレー機会が提供されます。谷口選手も奨学生に選ばれています。
――高校卒業後のアメリカ留学について教えてください。
谷口 僕は、スラムダンク奨学金の第2期奨学生に選ばれて、高校卒業後にアメリカに留学しました。スラムダンク奨学金はプレップスクールの14カ月をサポートしてくれるプログラムです。僕はプレップスクール卒業後に、2年制大学と4年制大学に入りました。英語が話せないまま渡米したので、かなり勉強しました。奨学金で学んだあとは、両親が学費を払ってくれたのですが、両親は「4年制大学をきちんと卒業するまでは帰ってくるな!」と思っていたようです。
アメリカでの経験は大きかったです。渡米によってスリーポイントシュートという武器などをもてたことで、現在までプロでプレーできていると思っています。
――子どもたちは「将来、バスケットボールの選手になりたい」と言っていますか。
谷口 バスケットボールの選手になりたいとはまだ言いませんが、将来、もし「〇〇がしたい!」という夢が出てきて、実現が難しいものであっても、僕は全力で応援してあげたいと思います。
わが子はかわいいので、なるべく苦労はさせたくないのが親としての本音ですが、自分のことを振り返るとアメリカで努力したから、今の自分があるんです。
子どもが夢を語ったら、一緒に最善の道を考えられる親になりたいですね。
谷口選手がプロデュースするWORLD ANIMAL NARRATIVEの絵本が誕生
谷口選手は、WORLD ANIMAL NARRATIVEというブランドのプロデューサーでもあります。
――WORLD ANIMAL NARRATIVE(以下WAN)について教えてください。
谷口 僕は動物が好きで、周防大島の家では犬を3匹飼っています。単身赴任している島根の自宅では、猫2匹とトカゲや陸ガメを飼っています。
WANは、架空のバスケットボールリーグで、選手は僕が好きな動物たちです。グラッフィックアーティストの左右田薫さんと一緒に、アートやアパレルを展開しています。2024年10月には、WANの絵本も発売しました。
――2024年秋に出版した「はいるかな」の絵本について教えてください。
谷口 絵本用にチームALOHA‘Sの動物たちをかわいく描いています。みんなでおそろいのユニフォームを着て、思い思いにシュートを放つお話しで、ルール上はNGのシュートでも、絵本の中ではみんなOK! 飛べる鳥をうらやんだり、小さい身長を悲しんだりする必要なんてないよ! というメッセージが伝わればうれしいです。
お話・写真提供/谷口大智さん 協力/株式会社バンダイナムコ 島根スサノオマジック 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
取材中、夕方6時に谷口選手のスマホが鳴りました。電話をしてきたのは子どもたちです。谷口選手が作った豚の角煮が届き「パパおいしいよ~。明日も作ってね」とリクエストされて、「明日は、沖縄に行って試合だから無理だよ。また作るね~」と言って電話を切ったそうです。谷口選手の子煩悩な一面が見れて、ほっこりしました。
●記事の内容は2025年3月の情報であり、現在と異なる場合があります。
谷口大智選手(たにぐちだいち)
PROFILE
プロバスケットボール選手。高校時代にはウィンターカップ3連覇を達成し、その後スラムダンク奨学金の第2期奨学生として、アメリカに留学。2025年現在、Bリーグ島根スサノオマジック所属。3男1女の父。
『はいるかな』
動物たちがバスケットボールにチャレンジ。うさぎや猫、きりんなどいろんな動物がそれぞれのシュートを放つ、ほのぼのとした繰り返し絵本。谷口大智監修・字 はっとりひろき・左右田薫作・絵/1430円(ニコモ)