小児科医が教える子どもの偏食を克服する5つのポイント。嫌いなものは「8~12回食べれば慣れてくる!?」
「野菜を食べてくれない」「無理強いはしたくないけれど、好き嫌いを直さなくてもいいの?」―― 昔と違って、幼稚園や学校給食の現場で完食を強要することはかなり少なくなってきていますが、本来は好き嫌いなくバランスよく食べてもらいたいもの。とはいえ、どうしたら食べるようになるのか、子どもの偏食は親にとって悩みの種です。
家庭でどのようにフォローをするといいのでしょうか? 栄養と子どもの発達に詳しい小児科医の工藤紀子先生に聞きました。
子どもの「野菜嫌い」はある意味自然な反応
――偏食のなかでも「野菜」を苦手とする子どもは多いです。どうして食べてくれないのでしょうか?
工藤先生(以下敬称略) 多くの野菜のもつ苦味や酸味は、毒性のある食べ物や腐ったものにも共通して感じられます。ですから人間は本能的に苦味、酸味は「不快」「食べないほうがいいかもしれないもの」、反対に体のエネルギー源となる糖質の甘味やタンパク質などのうまみは「快」と感じるようにできているんです。
つまり子どもが野菜嫌いなのは、本能的な反応として当然あることです。一方で野菜にはたくさん栄養が含まれていますから、食べられるようになっていってほしいですよね。
――苦手な野菜を食べさせるために、味がわからないようにみじん切りにしてあげることがあります。このような食べさせ方でもいいですか?
工藤 偏食の克服につながるかというと別ですが、栄養的には問題ありません。それでいえば、私は麻婆豆腐を「万能メニュー」としてよくおすすめしています。豆腐、ひき肉と一緒になす、玉ねぎ、ピーマンなどをみじん切りにし、すりおろしにんじんなども加えて調理するんです。野菜が苦手な子でも食べやすいですし、1メニューで栄養がたっぷりとれますよ。
もし食べられたら、「実はいつも食べない〇〇っていう野菜が入ってたんだけど気がついた? おいしかったよね。きっと今後も食べられるよ」と声をかけてみてもいいでしょう。
一方で、苦手な野菜そのものを「克服する」という場合は、形のある状態で少しずつ食べていく必要があります。味も形もわからないようにしてほかの食材に混ぜ込むのは「苦手克服メニュー」とは別物として栄養をとるためのもの考え、嫌いなものに慣れるまでの「移行メニュー」として取り入れましょう。
――嫌いなものを無理強いすると、ますます嫌いになるのでは?という心配もあります。
工藤 もちろん無理強いは禁物ですが、偏食は「食べないから食べられない」のも事実です。苦味のある野菜のカブやブロッコリーを毎日10日~2週間食べ続けたところ、苦味が気にならなくなり食べられるようになった、という報告(※1)があります。野菜を食べ続けたら、食べられるようになっただけでなく、その野菜に対する好感度まで上がったという報告(※2)も出ています。
つまり繰り返して食べることで偏食は克服できる可能性があるということ。そのためには、子どもが前向きに食べ続けられるように、おうちの方のサポートが大切です。
※1/The effects of taste sensitivity and repeated taste exposure on children's intake and liking of turnip (Brassica rapa subsp. rapa); a bitter Brassica vegetable
※2/Increasing children's acceptance of vegetables; a randomized trial of parent-led exposure
偏食を克服するには、5つのポイントがあります
――春から新生活が始まる子どもも多いです。偏食を直すコツがあったら教えてください。
工藤 子どもが嫌いなものをただテーブルに出しても、なかなか食べてくれないものです。無理強いすることなく、練習するにはコツがあります。以下に5つのポイントを紹介するので、できそうなところから試してみてください。
【ポイント1】できれば毎日、少量ずつ挑戦する
――1つ目のポイントを教えてください。
工藤 はい。まずノルマを低くしてあげましょう。たくさんの量を盛りつけて、少しでもいいから食べなさい、というよりも、あらかじめひと 口分だけにしたほうが心理的な負担が減り、トライしやすくなります。
――毎日練習したほうがいいでしょうか?
子どもの様子にもよりますが、できれば毎日がいいでしょう。ですが、苦痛になるくらいなら毎日続けなくても構いません。間隔よりも回数が大事なので、少量でいいので続けて食卓に出していきましょう。
【ポイント2】食べやすくなるように調理を工夫する
――2つ目のポイントは?
工藤 生野菜はダメだけど炒めると平気など、苦手なものでも調理方法を変えると食べられることも多いです。いろいろ試してみましょう。
――おすすめの調理法はありますか?
工藤 たとえば、野菜を素揚げや天ぷらなど揚げものにすると、カリっとした食感も相まって食べてくれる子は多いです。
なおビタミンAは油と一緒にとると吸収率が高まります。ビタミンAが豊富なにんじんやピーマンはとくに揚げものに向いています。
【ポイント3】子どもが食べたらママ・パパがニコニコ喜ぶ
――親のかかわり方で工夫する点はありますか?
工藤 嫌いなものを食べられたとき、ママ・パパが「できたね、よかったね」と ニコニコと喜んでくれると、子どもはやってよかった、次も頑張ってみようという意欲につながります。食べるときに「大丈夫、いけるいける!」と明るく声かけすると食べられる、ということも。
なぜニコニコ喜ぶ必要があるかというと、これは「社会的参照」を意識しているからです。社会的参照とは、心理学における概念の1つで、とくに乳幼児が新しい状況や曖昧な状況に直面したときに、周囲の大人の表情や反応を観察し、その情報を手がかりにして自分の行動を決定するプロセスのことを指します。つまり、「不快」な食べ物を食べたときに、大人の表情と反応を見て、今後食べ続けていいかを決めているのです。
ですから、子どもが頑張って食べたとき、大人がしかめっつらをしていたりイライラしていたりしたら、食べてよかったのか、次も食べていいのかどうか、子どもは不安になってしまいます。
子どもが食べられたらほめる、というのは頭でわかっていても意外とできないことも多いので、ポジティブなリアクションを心がけましょう。
【ポイント4】絵本やアニメを味方にして「栄養」に興味を持たせる
――子どもが少しでも前向きに、苦手を克服できる方法はありますか?
工藤 どうして栄養をとらないといけないのか、野菜に含まれている栄養がどんな働きをするのか、食事の大切さを伝えてあげられるといいでしょう。栄養の知識は将来、自分の健康管理をするときにも役立つもの。絵本やアニメなどで、親子で楽しく学んでみてはいかがでしょうか。
――どんな作品がいいですか?
工藤 絵本なら『むしばミュータンスのぼうけん』(かこさとし/童心社)はどうでしょう? むし歯の怖さや歯磨きの大切さだけでなく、栄養のはたらきについてもわかりやすく描かれています。
またアニメ化・実写映画化された『はたらく細胞』(清水茜/講談社)は擬人化が本当に見事だと思っています。物語の楽しさもあり、体って不思議だな、これなら食べてみようかなという気持ちになってくれるのかもしれません。いい教材になるのではないでしょうか。
【ポイント5】罰を与えるのはNG
――子どもが苦手なものを食べられるように練習する際、やらないほうがいいことは?
工藤 野菜を残したらおやつはあげない、など食事のことで罰を与えられたりしかられたりすると、食べることに対してマイナスイメージをもちやすくなります。ペナルティを課されると、もしかしたら恐怖から一時は食べるかもしれませんが、それは克服にはなりませんよね。苦なく食べられるようになって初めて克服、になります。
またお食事の時間にしかられると悲しい気持ちになりますし、心が沈んでいるときは食欲がわかないもの。しかられながら、罰におびえながらの食事は大人だっておいしく食べられません。
「栄養が不足しないか心配」「せっかく作ったのに」という親の不安はぶつけないようにして、子どもに寄り添いながら、少しずつ食べられるように練習していきましょう。
お弁当通園なら「嫌いなもの」はあえて入れなくてOK
――お弁当を幼稚園などに持っていく子もいます。この場合、子どもの好きなおかずだけを入れるか、栄養のためには嫌いなおかずも入れたほうがいいか、どちらでしょうか?
工藤 お弁当は子どもが食べられるもの、食べきれる量を用意してあげるのがいいと思います。この時期は「できた」という成功体験を積むことが大切。「お弁当を残さず全部食べられた」という経験をさせてあげましょう。
嫌いなものが入っていても食べないでしょうし、先生によっては「お弁当をピカピカにしようね」と完食を促す場合もあるかもしれません。そうすると本人にとってお弁当の時間がプレッシャーになってしまいます。嫌いなおかずは入れないほうがいいでしょう。
ビタミンがたりないかな、など栄養バランスが気になるときは、おやつを工夫します。おすすめしているのは、冷凍フルーツをのせたヨーグルトです。フルーツは生と冷凍で比較しても栄養価はほぼ変わりませんし、乳製品のカルシウムもとれます。これにバナナ、はちみつを組み合わせるとボリュームアップできるし、ヨーグルトの「プロバイオティクス」、バナナのオリゴ糖の「プレバイオティクス」、これら2つを摂取する「シンバイオティクス」(※3)により、腸内環境を整えられますよ。
※3善玉菌となる「○○菌」がつく食べ物(=プロバイオティクス)と菌のエサになるもの(=プレバイオティクス)、この2つを一緒にとることにより、相乗効果が得られ、腸内の善玉菌が増えやすくなるという考え方。
幼児食の後期ごろからどんどんチョコレートやあめ・グミ・スナック菓子などの「お菓子」のおやつが増えてしまいがちですが、市販のお菓子やジュースは糖質が多く、栄養はほとんどありません。親の目が届くうちはおやつ=補食として、食事でとりきれない栄養を補うものをあげるようにしたいですね。
――おやつでお菓子を食べさせるのをやめるにはどうすればいいでしょうか?
工藤 目の前にあるものを我慢するのは難しいので、お家にお菓子を買い置きしないのがいちばんです。ただしお出かけの際はOKにするなど、完全に食べない、としなくてもいいとは思います。
小学校高学年以降になると、塾に行く前にコンビニエンスストアに寄って自分で食べ物を買う、ということも出てきます。自分で買い物をするようになる前に、体のことを考え、より栄養のあるものを選べるように教えていくことが大切です。
食事は習慣ですから、幼いころから栄養バランスを意識づけることは、子どもの将来の健康を守ることにつながっていきます。
お話・監修/工藤紀子先生 取材・文/中澤夕美恵、たまひよONLINE編集部
子どもが嫌がるものを食べさせるのは至難の業。でも好き嫌いがないと、苦手意識をもつことなく食事ができるようになります。少しずつ、子どもの食べやすい調理法から、トライしてみてはいかがでしょうか? 「嫌い」が「好き」に変わることもあるかもしれません。
●記事の内容は2025年3月の情報で、現在と異なる場合があります。