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病気の改善につながるようにと立ち上げた「ピットホプキンス友の会」。自身が医師であることを生かし、病気の解明と治療をめざして【体験談】

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ピットホプキンス

「ピットホプキンス症候群」という名前を知っていますか? 国内でも報告が少ない、非常にめずらしい遺伝子の病気です。

大阪府在住のKさんは、長男(5歳)、長女(2歳)、ママのMさんの4人家族。長男のTくんは3歳のときに、ピットホプキンス症候群と診断されました。

Kさんはそんなピットホプキンス症候群の情報提供・交換の機会を設け、少しでも研究が進んで、病気の改善につながるようにと患者とその家族のためのコミュニティー「ピットホプキンス友の会」を設立。今回は、そのきっかけと活動への思いについてお話を聞きました。全2回のインタビューの後編です。

▼<関連記事>前編を読む

医師でさえもピットホプキンス症候群を知らないという現状

診断が出た3歳ころのTくん
診断が出た3歳ころのTくん

Kさんは、ピットホプキンス症候群の患者と家族のための会「ピットホプキンス友の会」の代表を務めながら、家族同士の交流や情報交換を目的としたコミュニティーづくりをはじめ、少しでも研究が進んで、病気の改善につながるようにと取り組んでいます。

「私も妻も医師をしていますが、息子がピットホプキンス症候群と診断されたとき、私たち夫婦をはじめ、まわりの医師もだれも病名を知らなかった。産婦人科や小児科の先生の間でも、認知度が低いのが現状です。医師でさえも知らない、それほど非常にめずしい病気。

診断が出てからは、論文を探したものの、論文の数が少なくて、情報量も限られたものでした。

そこで、同じような方たちとつながって、経過や症状などを記録していくことで、病気の全体像が見えてくるんじゃないかと考えました。

息子の主治医からも、『ほかの患者さんたちも病気についての情報がなくて困っているのではないか』と聞いていたので、『じゃあ家族会を立ち上げて、みんなで集まる機会をつくれたらいいな』と思い立ったんです」(Kさん)

同じように困っている患者や家族のために情報共有の場を

ピットホプキンス友の会の交流会の様子
ピットホプキンス友の会の交流会の様子

家族会の設立を思い立ってすぐに行動にうつしたKさんは、Tくんの診断が出てからわずか半年でピットホプキンス友の会を立ち上げました。

「息子の診断が出たあと、インターネットでこの病気を調べていたら『子どもがピットホプキンス症候群と疑われたことがある』という方を見つけたんです。“2家族以上いれば、家族会がつくれる”という情報を得ていたので、その方と何とかつながって『こういう会を立ち上げたい』と相談し、2家族で家族会をスタートしました。

まず着手したのは、簡単なホームページをつくること。そのあと、全国の遺伝診療科の先生方に連絡し、協力していただきました。みなさんの協力のもと5~6人ほどの患者家族が見つかり、集まれることになって。息子が主治医の病院を受診するタイミングで、対面できる機会をつくっていただきました。

それを第1回目の集まりとして、ピットホプキンス友の会の交流会が始まり、今は年に2回ほど、オンラインを含めて全国から交流できるような機会をつくっています。家族会を立ち上げてから、『こういった場があってありがたいです』や『とても参考になった』といった声をたくさんいただけて、私としてもうれしい限りです。

また、実際に集まってわかったことは、皆さんもれなく情報がなくて非常に困っているということ。めずらしい病気のため、どこに相談したらいいかもわからないし、同じような悩みを共有できる相手がいないんです。

一方で私自身は、息子を育てる中でたくさんの人に手を貸していただき、恵まれた環境にいると常々感じていて。自分の受けた恩を、困っている人たちに何かの形で還元したいという思いが強くありました。そこで、医師としてできることの1つとして、ピットホプキンス友の会の会員さんから集めた簡単な生活歴や発達の経過などをホームページに載せています。まだ統計といえるほどではないですが、“これまでどんな生活を送ってきたか”や、“どんな経過だったか”といった患者の情報をまとめているので、これがだれかの役に立てば幸いです」(Kさん)

交流会で感動的なできごとが!大きな希望を感じ、根本治療をめざす!

現在のTくん
現在のTくん

2家族からはじまったピットホプキンス友の会。会員数が20数名となった今も、まだまだ周知活動や患者家族間の交流を続けています。そんな交流の中で、Kさんにとって感動的なできごとがあったそう。

「私が調べる限りでは、『ピットホプキンス症候群の患者は話すことがむずかしい』といった記述の論文ばかりでした。ところが交流会をとおして、 “簡単な会話ができる” 20代の患者さんがいるとわかったんです。

それを耳にしたとき、『素晴らしい!』と感動しました。それまで、この病気でしゃべれる子はいないと思っていたので、『こんな子もいるんだ』と大きな希望と可能性を感じました。このできごとは本当に印象的で。このような情報を得られたのは、まさに家族会を立ち上げて、交流があったからこそ。

それと同時に、『発語のある子とない子は何が違うのか』『どこに差があるのか』などを研究したら、今後の治療に生かせるのではないかという思いが湧きました。

『この治療をするには、こういう理由があって、今までの経験上これがよく効いたから、この薬を飲みましょう』といった根拠のある治療を進めるべきですが、日本ではまだ症例数が少ないために、治療の研究が進んでいないのが現状です。

内閣府所管の国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究事業にも、大学病院や大きな病院の遺伝診療科や小児科の先生方と協力して取り組んでいます。また、ピットホプキンス友の会をとおして、ピットホプキンス症候群の症例の経過が集まれば、今後の予防と対処療法の進歩の礎になります。

さらに、将来的には病気の根本治療をめざしてTCF4の遺伝子治療まで進めていければと思っています」(Kさん)

“起きたことはプラスにとらえる”。 1人で悩まず、みんなで一緒に歩いていけたら

現在のTくんとご家族
現在のTくんとご家族

ピットホプキンス友の会の立ち上げから約2年。Kさんは今後の展望についてこう話してくれました。

「とにかく、ピットホプキンス症候群という病気があることだけでも知ってほしい。そしてこの病気を知らない方の中には、症状があっても診断までたどり着けていない患者さんもいるはずです。

早く診断がつけば、リハビリや支援にも早く取り組めます。今すぐできる根本治療があるわけではありませんが、“同じ悩みを持つ家族がいる”ということだけでも、心の支えになるはず。

首のすわりがおそい・目が合いにくい・手を繰り返したたくような常同的な動きが多い・便秘症状・原因不明の精神発達障がいなど、気になることがあったら、かかりつけ医に相談するのはもちろん、ピットホプキンス友の会のホームページにある問い合わせフォームからでも構いませんので、ご相談いただきたいです。

家族会を立ち上げた際に、日本全国の大学病院・大きな病院に向けて『こういう団体をつくるので、困っている患者さんがいたらご紹介ください』とお話ししましたが、少しでも患者さんを見つけ出して、症例が増えることで、この病気の研究が進むことにつながると思っています。とにかく1人で悩まず、みんなで一緒に歩いていけたら。

さらに長期的な視点では、ピットホプキンス症候群の原因であるTCF4遺伝子の異常についての理解がもっと進んで、遺伝子改変や細胞の置き換えなどの治療が進んでくれればいいな、というのが大きな夢。そのためにも1歩ずつ活動を続けていけたらと思います」(Kさん)

最後に、たまひよ読者やお子さんを育てるママ・パパたちに伝えたいことを聞きました。

「息子との生活は、たいへんなこともあるけれど、この子がいてくれたおかげで今まで知らなかったことをたくさん知れたし、まわりの障がいのあるお子さんのことも少しずつわかるようになって、“自分の世界が広がった”という感覚があります。

正直なところ、人生何があるかなんてだれにもわからないと思うんです。でも、たとえ思いがけないことが起きたとしても、その中にも喜びがあったり、楽しさもあったりして、うちはうちで毎日楽しく暮らしていると伝えたい。

もちろん、不安に感じることもたくさんあると思います。だけど、『起きたことをプラスにとらえていくしかない!』という気持ちで、ときにはまわりの人にも頼りながら、育児を楽しんで欲しいです」(Kさん)

お話・写真提供/Kさん、Mさん 取材・文/安田萌、たまひよONLINE編集部

「ピットホプキンス友の会」を立ち上げ、ピットホプキンス症候群の周知活動や、ご自身が医師であるからこそできる病気の治療へ向けた研究など、活動を積極的に続けるKさんとMさん夫婦。私たちが関心を持ち、この病気を知ることだけでも、今後の研究の進展につながる大切な1歩になるはずです。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

Kさん

PROFILE
大阪の石垣クリニックの院長。2児の父で、長男のTくんは非常にめずらしい遺伝子の病気「ピットホプキンス症候群」。2023年にピットホプキンス症候群の患者と家族の会「ピットホプキンス症候群 友の会」を設立。当事者とその家族が暮らしやすい世の中をめざして、交流会の開催や情報発信、病気に関する相談支援などを行っている。

ピットホプキンス友の会のHP

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年6月の情報で、現在と異なる場合があります。

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