1000g未満で生まれたひかりちゃん。早産児の早生まれのため、本来より1つ上の学年に入学。みんなについていけるのか不安で…~新生児医療の現場から~【新生児科医・豊島勝昭】
早産で生まれる赤ちゃんは、生後すぐから治療が必要なために新生児集中治療室(NICU)に入院します。テレビドラマ『コウノドリ』(2015年、2017年)でも監修を務めた神奈川県立こども医療センター(以下、神奈川こども)周産期医療センター長の豊島勝昭先生に、NICUの赤ちゃんたちの成長について聞く不定期連載。
第14回は、出産予定日より早産になったために、予定より1つ上の学年に入学することになった赤ちゃんの成長について聞きます。たとえば6月に生まれる予定だったのに3カ月の早産となり、上の学年になるような早生まれの早産児です。
1000g未満で生まれたひかりちゃん。今は大学生に
――予定日より早く、早産で生まれ、早生まれ(1月~3月生まれ)として育つ赤ちゃんの場合、学業面での発達について不安を感じる親もいますか?
豊島先生(以下敬称略) 在胎23〜25週で生まれる赤ちゃんは予定日より4カ月くらい早産です。本来の予定日が4月〜6月の赤ちゃんが、早産のために1月〜3月ごろに生まれると、本来より1つ上の学年に入学することになります。フォローアップ外来で親御さんたちと話していると、就学前はそのことに不安を感じる人が多いです。
――先生の患者さんで、早生まれとして育ったお子さんのエピソードを教えてください。
豊島 18年前の2月末に生まれたひかりちゃん。在胎25週のとき、1000g未満で誕生した超低出生体重児でした。NICUで1カ月間の人工呼吸器管理を必要とし、4カ月間入院していました。この記事冒頭の写真は、ひかりちゃんのNICU卒業の日のものです。お母さんは、スタッフたちにNICU卒業を祝ってもらいながら、「もうこの場所に来られないんだ」と寂しくも感じてくれていたようです。
本来の出産予定日どおりの学年より1学年上に入学するひかりちゃん、体格も小さく、学校生活で困らないかなとフォローアップ外来で心配していました。でも、小学校入学後のフォローアップ外来では、宿題を頑張っている様子や作文をいつも見せてくれました。本を読むことが大好きなひかりちゃんは、「将来はものを書く人になりたい」という夢を伝えてくれたこともありました。
3行詩コンクールで表彰されたひかりちゃんの作文は、「家族にしか言えない 家族だから言えない どっちも家族が大好きだから」というもの。NICUの卒業生らしい優しさを感じる作文に感動しました。
ひかりちゃんのお母さんは「(早産だから)お兄ちゃんやお姉ちゃんと比べず、過度な期待を持たず、結果的に娘が好きなことに自由に取り組ませてあげられた」と話してくれていました。
「おもしろそう」と思えるいろんなことに明るく取り組んできたひかりちゃんは、難関とされる大学に合格して、今年から大学生。1人暮らしを始めているそうです。
早生まれの早産児の就学状況を調査すると・・・
――早産児は体格が小さいことや発達がゆっくりなことなどの心配があり、就学を遅らせたほうがいいのでは、と考える人もいるようです。
豊島 学校教育法では、持病があって体調が安定しないお子さんや、心身の発達状況に配慮が必要なお子さん、そのほかやむを得ない事情がある場合、一定の手続きを経て市町村の教育委員会により「就学猶予」や「就学免除」が認められることがあります。病気の治療などのために入学が難しいお子さんが、義務教育を一時免除してもらい、まずは治療を優先できる制度です。
実際には、小児科主治医の診断書や意見書を準備し、市町村の教育委員会に申請して判断を受ける流れになります。判断基準や対応は自治体ごとに多少の違いがあり、早めに教育委員会に相談することが望ましいです。自分の担当患者さんではこの制度を活用したご家族はこれまでいません。
僕が25年ほどNICU卒業生のお子さんたちのフォローアップ外来を担当してきて、早生まれの早産児が上の学年に入って、必ずしも困っていないと感じていました。そこで、神奈川こどもで就学後外来を一緒に担当している野口聡子先生に、神奈川こどもの早生まれの早産児がどんな学校生活を送っているかを調査してもらいました。
2年かけて調査した結果を「在胎23〜25週で出生した『早生まれ児』の発達と就学状況」という医学論文にまとめ、日本新生児成育医学会雑誌に掲載されました。早生まれの早産児のご両親が、お子さんの就学を考える上での1つの情報になればと願って取り組んだ医学研究です。
――その研究でどんなことがわかりましたか?
豊島 野口先生は、神奈川こどもで早産で1月〜3月生まれになったお子さんたちの発達経過や就学状況について、1月〜3月生まれ「早生まれ群」と、4月〜6月生まれの「非早生まれ群」で比較しました。3歳時では発達検査のスコアの平均値に差はありませんでした。それが、6歳・9歳時の知能指数(IQ)は「非早生まれ群」より「早生まれ群」で高く、就学後にIQが10以上増加した人も37%に認められました。個別差は大きいのですが、発達スコアの平均値からみると「早生まれ群」で6歳・9歳の発達の伸びが大きかったという結果です。「早生まれ群」の通常学級進学は74%。就学後に支援追加が必要となったのは1名でした。1学年上に入ったことで困り感が生じたというよりは、早期の就園・就学が発達を伸ばした可能性もあります。
――早生まれの早産児が人より早く集団生活に入ることが、発達にいい影響があるということでしょうか。
豊島 早生まれのお子さんたちは、必然的に人より早く集団保育などに入ることになります。その結果、3歳までは4月~6月生まれと発達検査のスコアは変わりませんでしたが、6歳・9歳になると知能指数が少しよくなるとわかったことは、少し早く集団生活を始め、刺激を受ける環境が成長発達にいい効果があったかもしれないとは考えられます。
早産児は、愛されキャラが多い?!
――神奈川こどものフォローアップでは、できるだけ早く療育や就園などの集団に入ることをすすめることが多いそうですが、その理由を教えてください。
豊島 早産児は肺が弱い子が多いので、昔は僕たちもなるべく集団生活には入らないほうがいいと助言していたんです。保育園や幼稚園に行くと感染症をもらいやすくなりますから、幼稚園に入るなら年中くらいからがいいでしょう、とお伝えしていたこともありました。4歳~5歳になってから、ということですね。
けれど、多くの早産児のお子さんの成長を見続けているうち、2歳〜3歳ごろから同年代の子どもの中で過ごして、お友だちからも刺激を受ける環境で過ごすことが、子どもの心身の発達にも大切と感じるようになりました。成長や発達に不安があるからこそ、ご家族だけでなく、保育園や幼稚園の先生や子どもたちからの刺激がある環境が大切と考え、現在では、2歳以降は健康状態が許す限り、集団に入ることをすすめています。
早生まれでもしっかり発達を支援して、早めに療育などを受ければ、上の学年に入ることでさらに伸びる要素があるかもしれません。早期に教育を受けられるメリットがあるとも考えられます。
――早産児は体が小さく発達もゆっくりなために、上の学年に入ると自信をなくしてしまうんじゃないか、学校に行きたくなくなってしまうんじゃないかと心配する親もいるようです。
豊島 僕もそのような不安の声をよく聞きます。たしかに、小学校入学当初は、早産の子は比較的体が小さいので、お友だちと一緒に遊んだりするなかで、差を感じることはあるかもしれません。ただそれが、下の学年に入れば解決するかというと、そうとも言い切れない気もします。
保育士でもある早産児のお母さんが伝えてくれた言葉が印象的でよく覚えています。「早生まれで幼稚園に入るとほかの子と比べて悩むこともあるけれど、子どもが自分より発達が進んだ子どもたちに混じって、妹・弟キャラになってかわいがられることで伸びる要素やメリットもあるんじゃないか」というものでした。
成長・発達は個人差が大きいので、必ずしも上の学年に入ったほうがいい、と言うことではありません。先ほど紹介した論文は「早産で早生まれなのを不安に感じるのは自然なことですが、不安になりすぎなくて大丈夫」というメッセージを届けられたらと思っています。
もし、1年間の就学猶予を受けて下の学年に入ることを希望する場合には、その1年間をどこでどう過ごすかもとても大切に思えます。就学のタイミングや通常級と支援級などの選択以上に、それぞれの発達の特性や状況に踏まえた就学後の環境調整をご両親・学校の先生で相談するのが大切と感じ、フォローアップ外来でその応援をしています。
お話・監修/豊島勝昭先生 写真提供/ブログ「がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2」 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
早産児であり、さらに早生まれになると、親としてはわが子より体が大きい子たちの集団で過ごすことが心配になるかもしれません。しかし、少し早めの集団生活が発達に良い影響を与える可能性があるなら、希望も感じられるのではないでしょうか。
●記事の内容は2025年8月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。