目と耳に障害のある息子。どん底の状況の中、ある出会いに救われた。「障害のある息子に届けたい」と活動する母の思い【体験談】
東京都在住の山田月乃さんは、長男(8歳)、長女(6歳)、二男(2歳)、パパの5人家族。二男のそうきくんは生後7日後の発熱から細菌性髄膜炎(ずいまくえん)になり、交通性水頭症という障害をもっています。
山田さんは、障害のあるそうきくんのため、きょうだいたちのため、そして自分自身のため"何かできないか"とkashiko™発達色彩インストラクターの資格を取得し、2025年「kashiko™教室colorful moyai」を開設しました。今回は、kashiko™メソッドを始めたきっかけや、現在の活動について山田さんに聞きました。全2回のインタビュー後編です。
「この子にもやってあげられることがあるかもしれない」とkashiko™メソッドに救われた
kashiko™メソッドとは、色×言葉がけ×学習法で 感情(ka)・視覚(shi)・行動(ko)に 働きかける、脳科学・心理学・大脳生理学を基にした、一般社団法人日本こども色彩協会による教育メソッド法です。
山田さんがkashiko™メソッドを知ったのは、そうきくんが一時退院した生後3カ月ごろのこと。とあるSNSの投稿を見たのがきっかけだったそう。
「目と耳に疾患のあるお子さんの育児にkashiko™メソッドを取り入れている投稿を見て、『うちの子も、目や耳に障害があるけど、もしかしたらできることがあるのかな』と思って、調べ始めたのがきっかけです。
息子はそのとき生後3カ月で、まだ知育をするのには早い段階でしたし、息子にとっていいことなのかもわからなかったのですが、私の『何かやらなきゃ』という気持ちが強かった時期でもありました。
調べてみたところ、その当時、kashiko™メソッドの教室は関東に2つしかなかったのですが、偶然にもなんとそのうちの1つが、自宅から隣の駅にあったんです。それで、体験に行ってみたのが始まりでした。
kashiko™メソッドとは、主(おも)に色と言葉がけで学習する教育メソッドなのですが、体験に行った際、教室の先生が『色は光の電磁波の1種だから、盲目の人でも感じられるものなんだよ』『そーちゃんは目が見えなくて耳も聞こえないかもしれない。でも、色は感じられる。色って、世の中にあふれているから、わざわざ教材を用意しなくても、日常の中で自然に取り入れられるよ』と教えてくれたんです。
それまでずっと思いつめていた私にとって、『この子にもやってあげられることがあるかもしれない』と救われた言葉でした。
ところが教室に通い始めようと思ったタイミングで、また入院生活が始まってしまい、通いたいのに通えないという日々が続いて…。
それでも、先生に聞いていたとおり、kashiko™メソッドの教材は病院の中でもできるものだったので、自分なりに取り入れて過ごしていたんです。
そんなあるとき、息子に変化が見られるように。これまでずっと黒目が左からまったく動かない状態だったんですが、kashiko™メソッドを始めた影響もあるのか、黒目が少しずつ動くようになってきたんです!
『もしかしたら、息子の世界が少しずつ広がってきているのかもしれない』と思えて、自信につながった瞬間でした。それがきっかけで、『もっとkashiko™メソッドを学びたい』『講師をしてみたい』という気持ちが生まれました」(山田さん)
重度の障害のある子どもたちにも。kashiko™メソッドをもっと広めるために
当時、そうきくんは病状も悪化して入退院を繰り返す日々。山田さんも精神的に参っていた時期だったそうですが、kashiko™発達色彩インストラクターをめざすことで、少しずつ気持ちが前に向いたそう。
「息子の医療機器を見るだけで神経質になってしまう日々の中で、何か新しいことを学び始めるということが気晴らしになりました。家族も積極的にサポートしてくれて、とてもありがたかった。
上の子どもたちも、少しずつ前を向けるようになった私の様子を見て、とても喜んでくれました。私が学んでいる姿を見せることで、『何歳になっても、どんな状況でも、自分のやりたいことをやっていけるんだよ』というメッセージになれば」(山田さん)
そうきくんのケアと日常生活で忙しい中でも、山田さんは少しずつ勉強を進め、約5カ月かけてkashiko™発達色彩インストラクター資格を取得しました。
「2024年7月、二男が1歳になったころ、資格を取得しました。全国にはkashiko™メソッドの教室がいくつかありますが、障害のある子どもをメインにしている教室は1つもないんです。でも、kashiko™メソッドは障害のある子どもたちも、絶対に楽しめるものだと思っていて。
それに私自身、療育やリハビリなど、さまざまな施設に通っていたときに『もっとこういうアプローチがあったら…』と少しもの足りなさを感じることも多かったんです。だから私と同じような状況で『障害がある子どもに、もっと何かしてあげたい』と思っているご家族にも、kashiko™メソッドを届けたい。
資格を取ってからは、療育施設に行って体験会をしたり、親子で一緒に楽しめるようなイベントをしたりするなど活動をしています。
障害が重度で寝たきりの子だと『反応がないからどうせわからないでしょ』と思われてしまうこともありますが、そういう意識を変えていくのが、私の活動の役割かなと思って、今は準備を進めているところです」(山田さん)
共に助け合う“モヤイ”という言葉を掲げ、kashiko™メソッドを広めていきたい
山田さんは2025年4月に、「kashiko™教室colorful moyai」を開設。もっとkashiko™メソッドの認知が広がってほしいと、活動している最中です。
「私の生まれは東京都ですが、高校の3年間だけ、伊豆諸島の新島(にいじま)というところに、親元を離れて1人で行って通っていたんです。その島にはモヤイ像というモニュメントがあるんですが、モヤイという言葉には地元の言葉で『共に助け合う』や『力を貸し合う』といった意味合いがあって。
高校1年生で1人新島に行ったとき、その言葉のとおり、いろんな人に力を貸してもらって助けていただいた。そこでの思い出が、自分の人生の中で本当に大きくて。そんな経験から、 “モヤイ”という言葉がすごく好きになりました。
今、私たちのように障害のある子どもを育てている人たちにとって、“共に助け合う”というのはいちばん必要なものだと思うんです。教室を開設するときに『ぴったりの言葉だな』と思い、この名前を屋号にしました。
教室は、健常のお子さんも障害のあるお子さんも通っていただけますが、やはり主(おも)には障害のあるお子さんとそのご家族に向けて、活動を広げていきたいという目標があります。
障害といっても、息子みたいな重度の精神障害もあれば、発達の特性を持った子もいて、本当にいろんな子がいます。療育の現場で見ていて思ったのが、障害の種類によって、子どもたちの感じ方や伝え方も全然違う。でも、kashiko™メソッドは、その違いにすごくオールマイティーに対応できるんです。
だから、障害のある子どもたちやその家族はもちろん、療育施設やインクルーシブ保育の現場のような、支援者側の方々にもぜひ知ってもらって、支援の一環として取り入れてほしいなと思っています。
今後は、息子が通っている療育施設で、イベントを担当させていただく予定があります。また、私たち親子は引き続きいろんな施設に母子入所することもあると思うので、そこでkashiko™メソッドをアイスブレイク的に生かすなど、少しでも役立てられたらうれしいです。
kashiko™メソッドについては、まだ認知度が低いのが現状。全国に講師は150人ほどしかおらず、さらにその中で、ベビー向けのインストラクターをやっている人は本当に少ない。まずは『知ってもらうこと』が私の大事な役割かなと思っています」(山田さん)
「どうせ…」と思うのはやめた。kashiko™メソッドを続けたからこそ見えた光景
kashiko™メソッドを始めたことで、そうきくんに対する考え方がすごく変わったという山田さん。現在の育児への思いを聞きました。
「kashiko™メソッドを本格的に始める前までは『息子はどうせ見えないし、聞こえないし』と思ってしまって、意識しないと家の中が静まり返っていました…。視覚の刺激になる絵本なども買いましたが、正直むなしくなって続けられなかったんです。
でも、“色の刺激がほかの感覚に影響する”ことが科学的に証明されていると知って、すぐに効果は感じられなくても、『この子はどう感じているかな?』とか『脳ではわかっているのかも』『反応がなくても、やってみよう』という気持ちになれたんです。
なので、今はkashiko™メソッドだけでなく、以前だったらつくろうとも思えなかった知育玩具を自分なりにつくってみたりしています(笑)。最近では息子も、触り心地があるものや、キラキラしたシールやホログラムに反応するようになってきました。
そんなこともあり、kashiko™メソッドの勉強や活動はもちろん、必死に“何かできることはないか“と模索し続けてきて本当によかったと思うんです。もし、当時のまま『どうせ息子はわからない』と何もやってなかったら、こういった光景は見えていないと思うし、今ごろ後悔していたはず。
今は『私や家族ができることを模索し続けていたから、息子はこんなこともできるようになったんだよ!』と自信を持って言えます。今後ももっといろんな変化が見られるかもしれないと期待していますし、それを発信していきたい」(山田さん)
最後に、たまひよ読者やお子さんを育てるママ・パパたちに伝えたいことを聞きました。
「出産や育児って、すごく壮大なことをしていくわけだから、だれでも不安になるのは当然のこと。生まれた子どもに障害があろうとなかろうと、思いどおりにいかないことはどの家族も同じ。でもそんなときにいちばん大事にしてほしいのは、やはり『自分自身』です。
子どもを優先しなきゃいけない場面ももちろんあると思いますが、ママパパたちも、仕事や好きなこと、私みたいに『ちょっと新しいことやってみようかな』という気持ちを大切にしてほしいと伝えたい。
『自分の機嫌は自分で取る』くらいの気持ちを持って!そうしたら、結果的に子どもにもポジティブな気持ちが伝わって、明るい家庭になるのではないかと思います」(山田さん)
お話・写真提供/山田月乃さん 取材・文/安田萌、たまひよONLINE編集部
障害のある子どもを育てながら、kashiko™発達色彩インストラクターとなった山田さん。kashiko™メソッドを通して、障害に対してだけでなく、育児や人生に対しても前向きになったことが、山田さんの表情や口調から伝わってきました。病気のことだけでなく、障害に対してこのようなアプローチもあるということに私たちが関心を持つことは、山田さんのめざす“共に助け合う”社会につながる大切な一歩になるはずです。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
山田月乃さん
「kashiko™教室colorful moyai」のインストラクター。二男が、生後7日後の発熱が原因で細菌性髄膜炎になり、交通性水頭症に。障害のある子どもを育てる中で、子どものため、きょうだいのため、自分自身のため"何かしてあげたい"とkashiko™メソッドを通して活動をしている。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年8月の情報で、現在と異なる場合があります。