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里子であることを伝えた友だちに「ごめんね」と言われたことも。「でも私はかわいそうな子じゃない!」【里子体験談】

更新

小春さんと直巨さん。

小賀坂小春さん(19歳)は、3歳のときに齋藤直巨(なおみ)さんの家族に、里子として迎えられました。直巨さんには、小春さんと年齢が近い二女と、小春さんより6歳上の長女がいます。
生まれてすぐ乳児院に預けられた小春さんは、現在実名で里親・里子の支援活動をしています。
齋藤直巨さんと小賀坂小春さんに聞く全3回インタビューの3回目は、小春さんに里子になってから今までのことや、実親との面会などについて聞きました。

▼<関連記事>第2回を読む

乳児院では大好きな職員さんを困らせないように、泣きたくてもがまん

直巨さんの家にきて、1年がたったころの小春さん。

生まれてすぐに乳児院に預けられた小春さん。齋藤直巨さんファミリーの里子になる3歳まで、乳児院で過ごしていました。

「乳児院にいたときは小さかったので覚えていることは多くはないのですが、今でも覚えているのは、担当の職員さんが優しくて、大好きだったことです。若い職員さんでママのような存在でした。1人で何人もの子どもを見なくてはいけなくて、泣いている子がいると、担当の職員さんはその子につきっきりになってしまうんです。

私は、2~3歳のときから“これ以上、担当の職員さんを困らせてはいけない”と思って、泣きたくてもがまんしていました。その代わり、みんなが夜寝たら、担当の職員さんのところに甘えに行きました。担当の職員さんは、一緒にお話をしたりして甘えさせてくれました。

また乳児院では運動会などのイベントがあって、子どもに会いに来る親もいるんです。でも私の親は来なかったので、“パパ、ママが来てくれる子はいいな”と思っていました」(小春さん)

「これが私の新しい家族」と自然と思えた

直巨さんの家族で、小春さんの中学卒業をお祝いしました。

里親の直巨さんには、2人の子どもがいます。3歳の小春さんを迎えたとき、二女は小春さんより半年ほど年長。長女は9歳でした。
小春さんを迎えるまで、直巨さん家族は何度も小春さんに会いに、乳児院を訪れています。

「初めて会ったとき、なおさん(直巨さんのこと)が1人ずつ家族を紹介してくれたことを、今でも覚えています。なおさんの家に泊まりにも行っていたので、だんだん緊張しなくなった感じです」(小春さん)

小春さんは、普段から里親の直巨さんを「なおさん」と呼んでいます。

「なおさんは“みんなが、お母さんと呼んでいるからといって、お母さんと呼ぶ必要はないよ”と言ってくれました。
また“小春にとってお母さんと言って思い浮かぶのはだれ?”と聞かれて、“自分を産んでくれた人がお母さんで、大好きな乳児院の先生はママ”と答えました。お母さんという存在を呼ぶための代名詞がうまっているということで、私は“なおさん”と呼ぶことにしました」(小春さん)

小春さんは、里子であることを隠していません。

「私は、里子のことは常にオープンにしています。私の苗字は小賀坂で、なおさんは齋藤です。

友だちからは“なんで苗字が違うの?”と聞かれることもありました。高校生のときにも、友だちから質問されて“私、里子なんだ”と答えたら、友だちに“ごめんね”と謝られてしまったことがあります。
そのときに初めて、“里子って、かわいそうって思われているの?”と思って、少しショックでした。でも私は、自分のことをかわいそうと思いません。なおさんの家に里子として迎えられて、すごく幸せです。
お姉ちゃんは“一緒に食べよう”と言っておやつを作ってくれたりします。下のお姉ちゃんとは半年しか歳が違わないので、年子のように育ちました。そういう普通のことが、本当に幸せなんです。愛されていると実感しています。

里子仲間と話していても、みんな楽しそうにそれぞれの家庭で暮らしています」(小春さん)

みんなと同じように取材に応じられないことへの疑問

家族でタイ旅行へ。年齢が近い二女と。

直巨さん家族と遠慮がない関係になるのに少し時間がかかった小春さんですが、「血のつながりがなくても家族なんだ」と小春さんが感じられるようになったころ、今度は里子としての別の制限にとまどうことになります。

「私が通っていた保育園に取材が来たときも、私だけ撮影に参加させてもらえず、とても寂しい思いをしました。児童相談所からは親権者の許可なしには出れないと説明されました。

小学6年生のときには、私が住む自治体の区長に、制服選択制の要望書を提出したことがあります。当時、私が住む地域では、女子の中学校の制服はスカートと決まっていて、私はズボンの制服がよかったので、アンケートで子どもたちの意見を聞いたところ“性別に関係なく、中学の制服はズボンをはきたい”という声が多数寄せられたんです。そのアンケート結果を区長に持って行きました。その後、区長が制服の自由化宣言をしてくれて、取材をされたのですが、そこでも私だけ里子だから写真やテレビに映ってはダメと言われたんです。

“何も悪いことをしていないのに、なぜ隠されなければいけないのだろう?堂々と自分の意見を発信したい!”と強く思いました」(小春さん)

小春さんの思いは、直巨さんも同じでした。直巨さんは「小春が、制服の自由化宣言でアクションを起こして、“壁を突破してくれてありがとう!”という声も寄せられました。でも里子だからといって、公に顔も名前も出せないなんて・・・。小春の気持ちを考えると、かわいそうだと思いました。なんで、こんなに当たり前のことが里子には許されないんだろう・・・」と思い、直巨さんは悲しかったと言います。

そして「なんで、こんなに悲しい思いをするんだろうね・・・。小春、頑張ったのにね。だったら特別養子縁組しちゃおうか」と直巨さんは小春さんに伝えたそうです。

「なおさんから、その話を聞いて、私なりに考えました。でも、“なおさんのお気持ちはうれしいけれど、私はこのままで生きていきたい”と答えました」(小春さん)

直巨さんは、小春さんの言葉を聞いて「短絡的に言ってごめんね」と謝ったそうです。

念願だった両親との対面が実現

家族みんなで小春さんの誕生日をお祝い。

小春さんは、2021年、中学校3年生のときに実の両親と対面しました。両親に会うことは、以前からの小春さんの希望でした。

「両親には、いつか会いたいと思っていたし、聞きたいこともたくさんあって、ずっと対面を希望していたんです。
なおさんからは、私が乳児院に預けられたのは、母が病気で育てることができなかったと聞いていたので、母の健康状態も気になっていました。

両親に会えるとわかったときは、うれしさと不安が入り混じった、複雑な思いでした。

私は緊張しやすいタイプなので、当日、頭が真っ白にならないように、事前に聞きたいことをまとめていました。

両親に会えていくつも質問をし、1時間ほど話をしましたが、名前をつけてくれた人と、名前の意味についても聞きました。名前を考えてくれたのは母で、名前の由来は、“かわいいから小春って名前にしたのよ”と教えてくれました。

また、これからは私自身の顔を出して実名で取材などにも答えていきたいということを実の両親に伝えると、“小春の好きなように生きてほしい”と言われました。

両親と会えてよかったと思います。実の親の了承が得られたことで、私の活動の制限がなくなりました。これはとてもうれしかったです。そして、私と同じような立場の子どもたちも思いを尊重されるような世界になってほしいし、そんな世界になるようにこれからも当事者としての声を届けていきたいと考えています」(小春さん)

里子として生活している子どもたちの中には、実の親から逃げている子もいて、取材を受けたりしたときに顔を出したりしてはいけない、というのが児童相談所の基本的な考え方なのだそう。
小春さんは、親権をもつ実の親と面会し、了承を得たことで、名前と顔を出して活動を始めました。

里親が増えて、子どもたちを助けてほしい、守ってほしい

一般社団法人グローハッピーのメンバーと、こども家庭庁を訪問して、“里親家庭が特別視されない日本にしたい!!”という提案を。

小春さんは、里親の直巨さんが代表理事を務める、一般社団法人グローハッピーが主催する「こども会議」の委員などを務めて活動をしています。

「2023年1月には、こども家庭庁を訪問し、里子の仲間たちと“里親家庭が特別視されない日本にしたい!!”という提案を、当時の小倉こども政策担当大臣に届けました。プライバシーの問題から、みんな仮装をしていたのですが“堂々と自分の声と、足で自分たちの思いを届けに行こう!”という希望に満ちた思いで、こども家庭庁を訪問しました。

ほかには里子と里親、専門家で里親の子育てを調査・研究する“ナイス!な親プロジェクト-こども&おとな会議”などに参加して、里子の立場から気づいたことや要望を伝えたりしています。

私は乳児院にいたときは、実の親と一緒にいられないという悲しみと、自分だけの甘えられる人がいないという寂しい気持ちがありました。3歳にならないうちからまわりの空気を読み、“職員さんを困らせたらダメ!”“泣いちゃダメ!”と自分に言い聞かせていました。
心から、安心して信頼し合える家族という存在を望んでいる子どもたちがたくさんいるので、里親が増えてほしいと思っています」(小春さん)

お話・写真提供/小賀坂小春さん 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部

令和7年6月、こども家庭庁が発表した資料「社会的養育の推進に向けて」によると、乳児院にいる乳児は2316人、児童養護施設にいる子どもは2万2162人にのぼるとしています。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

小賀坂小春さん(こがさか こはる)

PROFILE
大学生。生まれてすぐ乳児院に預けられ、3歳から里親家庭で育つ。2021年に実親と対面し、実名で活動する許可を得る。現在、里親の齋藤直巨さんが代表理事を務める、一般社団法人グローハッピーが主催する「こども会議」の委員、ファシリテーターなどを務める。

一般社団法人グローハッピーのHP

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年9月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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