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506gで生まれ、動脈管開存症があった赤ちゃん。「次から次へと壁が立ちはだかる日々」に向き合った両親~新生児医療の現場から~【新生児科医・豊島勝昭】

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生後2〜3週間で心臓の手術をしたてんなちゃん。NICUの保育器で眠っています。

生後すぐから治療が必要なために、長期間を新生児集中治療室(NICU)で過ごす赤ちゃんたちがいます。テレビドラマ『コウノドリ』(2015年、2017年)でも監修を務めた神奈川県立こども医療センター(以下、神奈川こども)周産期医療センター長の豊島勝昭先生に、NICUの赤ちゃんたちの成長について聞く不定期連載。第18回は、早産児の赤ちゃんに多く、心不全を引き起こすこともある「早産児動脈管開存症」についてです。また2026年4月に神奈川こどもに開設された「エコー管理センター」についても聞きました。

506gで生まれ、早産児動脈管開存症の手術をしたてんなちゃん

保育器にいるてんなちゃんにやさしく触れるお母さん。

――早産で生まれた赤ちゃんには、動脈管開存症という病気が起こりやすいそうです。この病気のエピソードを教えてください。

豊島先生(以下敬称略) 早産とは妊娠37週未満で生まれたことをさします。2025年2月に神奈川県内の大学病院で体重506gで生まれた、てんなちゃんという女の子がいました。生まれた大学病院のNICUで集中治療を受けていましたが、なかなか動脈管が閉じず心臓への負担が強くなってきたため、神奈川こどものNICUに転院してきました。

動脈管は胎児特有の血管です。胎児は肺呼吸をせず、お母さんの胎盤から酸素や栄養をもらっています。そのため、肺ではなく胎盤に血液を多く送るために、動脈管は肺動脈を流れる血液を胎盤に向かう大動脈へ送るバイパス通路となっています。動脈管は胎児の成長に必要不可欠な血管です。誕生して肺呼吸が始まれば、動脈管はその役割を終えて、正期産児であれば生後1日ほどで閉じます。しかし、早産児の未成熟な動脈管は閉じにくいです。早産のために生後も動脈管が開いたままの状態を「早産児動脈管開存症(そうざんじどうみゃくかんかいぞんしょう)」と呼びます。

動脈管が開いたままだと、大動脈と肺動脈の間に血流異常が起き、全身へ送られるべき血液が肺へ流れやすくなります。その結果、腎臓や腸への血流が不足して、尿が出にくくなったり、腸の動きが悪くなったりします。また血液が心臓と肺を行き来して、呼吸が苦しくなり、心不全の状態になります。場合によっては脳出血につながることもあります。

動脈管が自然に閉じない場合は投薬治療を行い、それでも閉じなければ手術を行うというのが一般的な流れです。

――てんなちゃんは、神奈川こどもでどのように治療したのでしょうか。

豊島 心エコー(心臓超音波)検査を参考にして診療しました。心エコーは、胸にプローブという機器を当てて超音波で心臓の形態や動きや血液の流れをリアルタイムに観察できます。NICUスタッフみんなで、心エコーのさまざまな所見を参考にして、いつ手術するのがいいか、どのような状況で手術するのがいいのかを相談し、生後2週目に動脈管を閉じる手術を小児心臓外科医が行いました。

NICUと手術室、新生児科と小児専門の麻酔科・心臓外科の多職種で連携しながら、てんなちゃんの手術の術前・術中・術後管理をしました。てんなちゃんは手術後、心臓の負担が減って体調が安定し、体重も増え始め、生後5カ月で退院となりました。

両親は「暗闇でもがいているようだった」

退院のときのてんなちゃんと家族、担当医と一緒に。

――家族はどのような様子でしたか?

豊島 てんなちゃんが退院するとき、ご両親はてんなちゃんの生後間もないころは「次から次へと壁が立ちはだかる日々に暗闇でもがいているようだった」と伝えてくれました。そして、ご両親はNICUスタッフに動画をプレゼントしてくれました。そこにはNICUや新生児病棟のスタッフにあてた感謝のメッセージがたくさんありました。

「壊れてしまいそうな小さな命に不安だらけだった日々で、医療スタッフのみなさんが娘の命をつないでくれました。担当の先生にも私たちの不安に寄り添うような言葉に安心と勇気をもらいました」と。スタッフたちの頑張りにも気づき、温かい言葉をかけてくれる感動の動画でした。

てんなちゃんは、今1歳3カ月。ときおりフォローアップ外来でお会いしますが、とてもかわいらしく成長しています。

――早産児は動脈管が閉じにくいとのことでしたが、神奈川こどもではどのくらいの数の動脈管開存症の手術を行っていますか?

豊島 日本では1000g未満の早産児のうち、約15%が手術を受けています。動脈管を閉じやすくする薬物治療では動脈管が閉じず、症状が続くお子さんが手術を受けています。
神奈川こどもには県内のNICUからも薬物治療が効かなかったお子さんたちが手術目的に転院してきますので、年間約10名以上の手術を行っています。世界的にも手術経験が多いNICUの1つです。
早産児は全身の機能が未熟で皮膚も弱く、心臓や血管も小さく、心臓血管外科手術は容易ではありません。対応できる心臓外科医・麻酔科医、術後管理ができるNICUスタッフは限られています。

動脈管開存症の薬物治療とは、イブプロフェンやインドメタシンといった動脈管が閉じる作用がある解熱鎮痛薬を投与する治療です。ですが、腎障害や消化管穿孔を起こすこともあり、薬物治療や手術などの治療を選択する判断は難しいです。
動脈管は早産児でも時間がたてば自然に閉鎖する可能性もあります。ですから、早産児動脈管開存症の軽症は動脈管の自然閉鎖を待つほうがよいと判断することもあります。

一方、肺出血や心不全の症状がある重症の場合、救命するために緊急手術が必要と判断することもあります。診断名だけでなく、在胎週数や体重、日齢に加えて、心エコーによる動脈管の開き具合や心臓への負担などを判断して治療を選択しています。

また、早産児動脈管開存症にはアセトアミノフェンやカテーテル治療などの新しい治療の選択肢も検討されています。最も重要なのは、一長一短があるそれぞれの治療方法について、赤ちゃんにとってよりよいと思える治療法をスタッフと家族で話し合いながら選んでいくことだと考えます。

――手術後の生活に制限はありますか?

豊島 NICU卒業後のフォローアップは通常の早産児と同程度です。まれに、手術や疾患の影響で反回神経が一時的にまひし、嗄声(させい:声が小さい)になるケースもあります。その場合は学校などに配慮を伝える必要があります。

現在、全国34施設の共同研究では、手術後の死亡率は2%未満でした。早産児動脈管開存症の手術を行ったお子さんの3歳時点の発達状況を調査しましたが、適切なタイミングで手術を行えれば3歳のときの発達に手術を受けた人と受けなかった人で違いはありませんでした。早産児動脈管開存症の手術の経験が少ないNICUにいる赤ちゃんたちでは、手術ができるNICUに転院して手術を受けることで、てんなちゃんのように救われる命もあります。

日本は新生児科医がエコーで診療する珍しい国

手術後、少しずつ成長していたてんなちゃんと、面会に来た家族。

――赤ちゃんの動脈管が開いているか、閉じたかどうかはどのように確認するのですか?

豊島 心エコーで動脈管の太さや血液の流れ方、心臓の大きさや動きを確認します。心エコーで動脈管が閉じかけているとわかれば、薬物治療をやめる判断ができ、副作用を減らすことができます。私たちは多施設共同研究で、心エコーを使用しながらの診療により、副作用が少なく動脈管を閉鎖できる可能性を2024年に欧米の小児科学会の公式誌に報告しました。

海外では、小児循環器の専門医がNICUに来て心エコーを行うのが一般的です。そのため、心エコーの評価をリアルタイムにはできずに薬物治療をしたり、手術の判断が難しい国が多いです。
日本は新生児科医が心エコーを日常的に使える珍しい国です。日本では心エコーのブローブを聴診器のように日常的に使う文化があり、これが早産児動脈管開存症の治療の適切な判断につながります。早産児の救命率が高い日本で、その理由の1つと考えられている診療法として、心エコーを使った動脈管開存症の治療が世界でも注目されています。

さらに神奈川こどもでは2026年4月より「エコー管理センター」を開設し、私がセンター長を務めることになりました。

――エコー管理センター開設の目的について教えてください。

豊島 小児医療において、エコー検査は30年前にはまだ信頼性が低い検査と見られていましたが、現在は標準的医療となりました。エコーによって患者さんそれぞれの病状や重症度を把握することで、それぞれに合った治療を提案することができます。今は小児のさまざまな専門診療科でエコーの活用法は進化しています。

エコー管理センターの開設により、診療科や職種を越えて知識や技術を共有し、胎児から成人まで一貫してエコーを活用して、患者さんそれぞれの診療や健康管理にいかしていきたいと考えています。診療科の枠を超えてエコーを活用したよりよい小児医療のチーム体制を実現する構想です。さらに全国から研修医を受け入れ、教育・研究の拠点にもなりたいと考えています。

症状を言葉で伝えることが難しい胎児から小児の痛みや苦しさを超音波(エコー)でわかってあげられるように、エコー検査に基づく小児医療を発展・普及させていきたいです。

3Dエコー検査はまだ十分に普及していない

保育器の赤ちゃんに心エコーしている様子。

――妊婦健診で3Dエコー検査をすることもありますが、新生児の診察も3Dエコーで行うことはありますか?

豊島 成人医療では、3D心エコーはMRIと並び、心臓の働きを正確に評価できる方法とされています。しかし医療現場では、まだ十分に普及していません。「エビデンスと実際の診療の差(エビデンス・プラクティスギャップ)」が大きいのが現状です。
その理由として、3D心エコーの検査にかかるコストや操作の手間に加え、検査技師へのタスクシフトが進んだことで、医師が現場で活用法を試行錯誤する機会が減っている可能性が考えられます。

一方、新生児や小児では医師自身がエコー検査を行うため研究に取り組みやすい環境です。神奈川こどもからは人工知能(AI)を活用した心エコーが新生児でも有用な可能性を国際的な医学雑誌や学会で報告を続けています。新生児における3D心エコーの活用は国際的にも神奈川こどもがパイオニア的な役割を果たせていると自負しています。

3D心エコーの利点は、これまで評価が難しかった右心室の形態や機能を正確に測定できる点です。早産児動脈管開存症では、これまでは重症化すると左室が大きくなってよく動く点が注目されていましたが、3Dエコーにより右室は大きくなって動きが悪くなることがわかりました。これにより手術が必要と判断する材料が増えたと考えています。

――先生のこの連載記事の第8回で、早産児動脈管開存症の診療ガイドラインを作成中との話がありましたが、現状はいかがですか?

豊島 早産児動脈管開存症の治療ガイドライン(0.5版)はパブリックコメントを経て、2026年5月に日本新生児成育医学会から公開されています。早産児動脈管開存症は、治療の必要性や介入のタイミングについて長年議論が続いています。治療法には自然に閉じるのを待つ、薬物治療、カテーテル治療など複数の選択肢があり、それぞれ利点があり、副作用などもあります。

今作成中のガイドラインは、すべての赤ちゃんに同じ治療を行うことを前提とするのではなく、医療チームと家族が一緒に話し合い、その子に合った治療を選ぶことを大切にしています。その判断に役立つ科学的な根拠をまとめています。
現在、検討中の追加内容を加えた完全版(1.0版)は2027年度に公開予定で、15年ぶりの改訂となります。今後も研究が進むことによって、より多くの赤ちゃんたちを救い、よりよい成長を目指せるでしょう。

写真提供/ブログ「がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2」 取材・文/早川奈緒子 編集・構成/仲村教子(entente)、たまひよONLINE編集部

生まれつき心臓に病気がある赤ちゃんの命を救い、その後の成長につなげるには、高度な検査や手術など医療技術が必要だとわかります。新しいガイドラインによって、より多くの赤ちゃんの命が救われ、よりよい成長につながることに期待したいです。

JEBNeo 早産児動脈管開存症(PDA)診療ガイドライン 第0.5版」

神奈川こどもNICU 早産児の育児応援サイト

がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2

●記事の内容は2026年5月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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