昭和な上司とどうつき合う?「パタニティハラスメント」対処法
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男性の育児参加が進む一方で、まだまだその壁が低くなったと感じられない人は多いでしょう。男性が会社で子どもの保育園のお迎えに行きたいにもかかわらず、「そんなの奥さんに任せておきなよ」と上司に言われて、なかなか帰らせてくれないといったことは、まだまだ平然と行われているようです。育休を取得したり、定時に帰ったりすることで、パパが職場などで嫌がらせを受ける「パタニティハラスメント」。その被害に遭わないためにはどうすればいいのか。もし遭ってしまった場合はどうすればいいのか。父親の育児を支援するNPO法人「ファザーリング・ジャパン」の顧問であり、大阪教育大学教育学部准教授(家政教育講座)の小﨑恭弘先生にその対処法を聞きました。
徐々に整備されるも、まだまだ根強い昭和文化
――なぜパタニティハラスメント(パタハラ)のようなことが起こるのでしょうか?
小﨑先生:社会において、男性が働き、女性が家事や育児をするという文化がまだまだ根強いからだと思います。男女共同参画社会という言葉はずいぶん前からありますが、実際にはまだ、男性が子どもを育てるというと、あまりいい反応をされない会社も多いと思います。上司という立場にいる人の中には、共働き家庭が増えているとか、年功序列などの日本型雇用が崩れているといった社会の変化には気づいていても、「なぜ父親が育児をするのか」ということまでは理解できていない人も多いのです。プライベートを犠牲にして会社に尽くすことがよしとされた昭和の文化がまだ残っている会社では、学校の行事で休みたくても「それで休むの?」という反応をされたり、奥さんを含めて家族を批判されたりすることもあります。
――そうした企業文化は今後変わっていくのでしょうか?
小﨑先生:僕が顧問を務めている「ファザーリング・ジャパン」では、「イクボスプロジェクト」というものを進めています。その名の通り上司を育てるプロジェクトで、経営者や管理職の皆さんが、従業員のワーク・ライフ・バランスやキャリアを考えながら会社の業績を伸ばしていくことをめざしています。現在、この理念に賛同している「イクボス企業同盟」に加盟している企業は約200社あり、大企業も名を連ねています。こうした活動などからも、日本の企業文化は徐々に変わっていくのではないかと思われます。ただ、多くの人が見落としがちなのは、女性の社会進出は男性の家庭進出とセットであるということ。政府は2020年に女性の管理職を30%にするという目標を掲げていますが、「専業主夫の比率も30%に上げていかないとおかしい」という声も上がっています。
――現時点で、パタニティハラスメントに遭わないためには?
小﨑先生:まず、パタハラに遭う前に、自分の中で家族の優先順位が高いということを、周囲にアピールしておくことが大事です。たとえば会社のパソコンの壁紙やスマホの待ち受け画面を子どもの写真にするなど。また、横のつながりも大切です。この数年で、男性の育児休暇取得率は上がっていますが、過去最高だった2017年度でもたったの5.14%しかありません。育休を取る男性はまだまだマイノリティーなので、情報交換のできる仲間をつくっておいたほうがいいでしょう。ただ、各社が行う新入社員へのアンケートでは、3割から5割の男性が育児休暇を取りたいと答えている結果も出ているので、育児に参加したいという男性は今よりも増えてくると思います。
――もし、自分がパタニティハラスメントの被害に遭っていると感じたら?
小﨑先生:パタハラがある会社には、マタハラもセクハラもパワハラもある可能性が高いでしょう。人を大切にできない会社だと思ったら、転職するのがいちばん。昭和の高度成長期は、みんなが同じ方向を向いていたことで社会に圧倒的なパワーが生まれました。そういう時代は仕事中心の価値観で幸せを感じられましたが、今は社会が多様化して、いろいろな生き方が認められている時代。会社に自分を合わせていた時代から、個人の思う働き方に、会社が合わせていく時代です。ようやく自分の優先順位に合わせて生きていける時代になったのはいいことですが、それがまだ100%かなうわけではないので、悩む人は多いでしょう。実際に、労働基準監督署に行ったり弁護士を雇ったりして闘っている人もいます。自分の中で、大事な順番を意識しながら選択をしていくことが求められるのではないでしょうか。
育休を取りたくても取れない、または取りづらい会社にいる人は、まず社内外で仲間を見つけることから始めてみてはどうでしょう? そういった人たちと、うまく退勤する方法、休暇を取る方法、パタハラ被害に遭ったときの対処法など、いろいろなことで情報交換ができるはず。家庭内でもパパ1人で悩まずに、夫婦でどのように働くか、家事や育児をどう分担するかなど、話し合ってみるといいかもしれません。(取材・文/香川 誠、ひよこクラブ編集部)
監修/小﨑恭弘先生
大阪教育大学教育学部教員養成課程准教授(家政教育講座)。西宮市初の男性保育士として活躍したのち、大学の准教授やNPO法人「ファザーリング・ジャパン」の顧問として活動中。3男の父。