4カ月の赤ちゃんが急に高熱とうなり声を発し重篤な症状に!〜救急医療の現場から#11
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「6カ月ぐらいまでの赤ちゃんは、ママから免疫をもらっているから病気をしにくい」という話を聞いたことがあるでしょう。確かに低月齢の赤ちゃんは、外出の機会が少ないことや、ママからもらった免疫や母乳に含まれる免疫で守られていて、高熱を発する病気になることは少ないもの。その分、高熱を発したときは、何らかの病気が隠れている場合もあるので、すぐに受診が必要といわれます。今回の話も、4カ月の赤ちゃんが高熱を発し、みるみるうちに症状が悪化。そこには、重篤な病気が隠れていたという症例です。長年、小児救急医療の現場に携わってこられた市川光太郎先生に、ご紹介いただきました。
「発熱の高さのわりに具合が悪そうと思ったが…」
朝の外来が始まった時間にホットラインからの連絡があった。「4カ月の男児ですが、39度の発熱が夜半から出現し、今朝からうなって顔色が悪く、手足が冷たくなっているので、救急搬送したい」とのことだった。すぐに搬入を許可して救急室へ急いだ。
赤ちゃんは、顔色が悪く、視線が合わず、うなって苦しそうであった。直ちに酸素投与と体温、脈拍、血圧、呼吸数のチェック、輸液準備と採血を行い、同時に大量輸液投与を研修医に指示した。
大泉門(だいせんもん)の膨隆(ぼうりゅう)<ふくらみ>は認めないが、うめくような泣き方と体に触れられたときや物音に全身をビクッとする「易刺激性(いしげきせい)<反応しやすいこと>」がしっかり認められた。ヒブワクチンと小児用肺炎球菌(はいえんきゅうきん)ワクチンは接種済みとのことであったが、ほかの重症感染症も考慮して、血液培養、髄液検査・髄液培養、検尿・尿培養などすべての検査を行い、母親に話を聞いた。
「昨夜、寝るときまで機嫌がよかったのですが、夜中からぐずりだし、熱を測ると38.3度でした。それほど高熱ではないけれど、そのわりには機嫌が悪いと思いつつ、朝まで様子を見ることにしました。朝になると熱がどんどん上がり、機嫌も悪くなってぐずり、そのうち手足が冷たくなって、時々うなるような声を出すので、怖くなって救急車を呼びました」
重症の尿路感染症と診断。尿路系に奇形の疑いも
研修医から血液検査、髄液検査、尿検査、胸部X線検査などの結果が報告された。白血球とCRP(体内の炎症の有無を調べる検査)の値が高く、強い炎症が起こっていることが考えられたが、髄液検査は正常で髄膜炎(ずいまくえん)は否定できた。肺炎もなく、皮膚関節などの変化もなかったが、検尿では白血球が増加し膿尿(のうにょう)<白血球の混ざった尿>を示していた。カテーテル採尿を行い、顕微鏡検査では、尿にグラム陰性桿菌(いんせいかんきん)<比較的強い炎症を起こすことの多い細菌のグループ。尿路感染症の原因になりやすい菌もこのグループに入る>が認められ、尿路感染症と診断できた。
母親に説明すると、「赤ちゃんも膀胱炎(ぼうこうえん)になるのですか? しかも男なのに!」と驚かれたが、「20〜30代の女性だけではなく、乳幼児も多いんですよ」と説明するとともに、炎症がひどいので、治療と尿路系の奇形などの精査のために入院治療が必要と話し、入院による治療を了承してもらった。
入院3日目には尿培養と血液培養から大腸菌が検出され、腎盂炎(じんうえん)<腎盂という腎臓内の尿のたまるところに炎症を起こす病気>から菌血症(きんけつしょう)<血液の中に細菌が認められる病気。重篤な感染症を引き起こすことがある>まで起こしていたことがわかった。
このような重症例の多くは先天性尿路奇形(せんてんせいにょうろきけい)があることを説明し、検尿がきれいになった時点で、尿培養検査も陰性化したのを見届けて、逆行性膀胱造影検査<膀胱から造影剤を入れてX線撮影を行う検査>を行った。すると、両側の大きな尿管が映し出されて、膀胱尿管逆流症(ぼうこうにょうかんぎゃくりゅうしょう)の重症度の強い奇形を認めた。近い将来的には手術を行って膀胱尿管逆流症を改善する必要があることを説明し、退院後も定期的に受診し、検尿を行うとともに、発熱時には必ず検尿をするように母親に説明して、理解してもらった。
尿路感染症とは?
「尿路」とは腎臓~尿管~膀胱~尿道をいい、その経路に細菌感染を起こす病気です。低月齢児の発症も多く、1才未満では男の子に多い傾向があります。乳幼児では発熱・不機嫌以外の症状がないことが多いです。乳幼児での重症のケースは、多くに、膀胱にたまった尿が逆流する膀胱尿管逆流症などの先天性尿路奇形の疑いがあります。
発熱があるなど、体調が悪いときの 緊急受診のサインは?
1.視線が合わない、熱の高さのわりにぐったりしている、あやしても笑わないなど、いつもと違う場合は、すぐに受診を。
2.うなり声やうめき声を上げる場合、手足が冷たく顔色が悪い場合も、すぐに受診しましょう。
3.上記の症状で、夜間や休日など診療時間外の場合は、救急車を呼んですぐに受診しましょう。
市川先生が、赤ちゃんがかかりやすい病気や起きやすい事故、けがの予防法の提案と治療法の解説、現代の家族が抱える問題点についてアドバイスしてくださった「救命救急センター24時」は、雑誌『ひよこクラブ』で17年間212回続いた人気連載でした。2018年10月市川光太郎先生がご逝去され、連載は終了となりました。市川先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます(構成・ひよこクラブ編集部)。
■監修:(故)市川光太郎先生
北九州市立八幡病院救命救急センター・小児救急センター院長。小児科専門医。日本小児救急医学会名誉理事長。長年、救急医療の現場に携わり、子どもたちの成長を見守っていらっしゃいます。
※監修者情報を補足・修正しました。(2021/11/10)