絵とことばが宝物のよう。声にだして、子どもと一緒に楽しみたい珠玉のえほん3冊
えほんの文章は短いものが多いですが、その短い中にさまざまな意味や想いがこめられています。もちろん、目で追いながら心の中で読むのも素敵ですが、今回は声に出して読むことで、誰かと一緒に楽しんでもらいたい本、3冊をえほん教室主宰・の中川たかこさんとご紹介したいと思います。
中川たかこ
なかがわ創作えほん教室主宰
メリーゴーランド増田喜昭氏に師事。
個人の創作えほん教室主宰19年目。高校、中学、専門学校などでえほんの読み解き方、えほんの創り方の講師として活動中。
演じるのではなく、えほんの世界を声に乗せるイメージで
「えほんの読み聞かせは難しそう・・・」もしくは「ちょっと恥ずかしい」と思っていませんか?
えほんは演劇の台本ではないので、その世界をあなたの声で語り、聞いている子どもたちが、笑いや質問などでそれに答えてくれる、いわば会話に近いものだと思います。
今回は、まず語り手が、えほんの世界に入って行けるようなお話しをしたいと思います。
え?意味が分からない?だいじょうぶ、それでいいんです。
なずず このっぺ? 大型本 – 2017/11/1
カーソン エリス
なずずこのっぺ?
このタイトルを聞いて、「?」とハテナマークが頭の上に浮かんだことでしょう。
意味のない言葉だと思いましたか?
いいえ、そうではありません。
この世界ではこれが共通言語です。
さて、読み進めて行きましょう。
「なずずこのっぺ?」と問われた羽虫のご婦人は「わっぱどがららん」と答えます。
地面にはちょこんと出た何かの芽。わたしたちの世界ではふたばと呼びますね。
そして次のページでもまた「なずずこのっぺ?」と指をさすチョウの子。
それに対して「プクロ二むげむん」「わっぱどがららん」「なやまプクロニ?」と集まって来た虫たちの会話は続きます。
声に出して読んでみて下さい。ふだん、わたしたちが使う言語とは違いますが、それでもとても読みやすいですね。
そして、不思議と「あれ?もしかしたらこれ、こういう意味なのかな」と分かって来る気がしませんか?
言葉は、その単語に意味があって、それを組み合わせることで他者と意思疎通するツールですが、ここではそれが通用しません。
それでも、4場面くらいになってくると、すっかりこの世界の住人になっている自分に気づきます。
「ダンダノビちょりまん」と報告しに行くのは、どうやらこの村(?)の有識者のよう。
彼はそこに梯子をかけます。
するとどうでしょう、日を追うごとに、その植物は大きくなって行き、梯子でも届かなくなるほど大きくなっていきます。
ここに登場する虫たちは、みんなで力を合わせて「なずずこのっぺ?」のこの植物を見守ります。
少し話が飛びますが、ガブリエルバンサンの「たまご」と対比すると、異質なものに対しての集団心理の違いがよく現れていると思いました。
簡単に話しますと、たまごのほうは集団による「異物をコントロールしようとする心理」が描かれていると思います。
こちらは、集団による「異質なものを見守り育てようとする心理」が描かれている。
たまごは言葉が書かれておらず、サイレント絵本です。
なずずこのっぺ?は書いてある言語が意味不明です。
それでも、だからこそ集団心理や奥深くに隠されている作者の想いが伝わるような気がします。
なずずこのっぺ?の、クライマックスの言葉をここに引用します。
「ルンバボン!!」
「ルンバボン!!」
「みりごめりご ルンバボン!!」
絵を見ていないのに、何か素敵なことが起きたと伝わりませんか?
どうか、この喜びを、本をめくっていっしょに声に出して祝って下さい。
くりかえして声に出すおもしろさ
ねんどろん (講談社の創作絵本)
荒井 良二
ねんねん どろん ねんどろん!
そう歌いながら、みどり、あか、きいろの「ねんどろん」がずんずん歩いて行きます。
歩いて行くだけ、の絵本です。
しかしです!
この、ずんずん歩いて行くテーマソングがこの歌。
ねんねんどろん ねんどろん!
うまれたての、ねばっとしているときには、
ぴたぴたねん ぺたぺたどろん
ぴたぴたねん ぺたぺたどろん
ねんねんどろん ねんどろん
このねんどろんたちは、いろいろな形に変身します。
ころころころがることもできるのです。
そのときはこんな歌。
ころころねん ころころどろん
ろころこ ろん ねんどろん!
びょーんびょーん ねんどろん!
ねんどろんたちが変形するのは、ピンチや危険な目にあったとき。
転がったねんどろんたちは、転がりすぎて、木にぶつかります!
どたぴしゃぴたん!と音を立てて、ねんどろんたちはばらばらに・・・!
しかし、ピンチを受け入れて、彼らは今までの自分の形をびょーんと変えてしまいます。
すると、ピンチであったはずの状態が、まるで初めからそうなるべきであったかのように、スムーズに動き出すのです。
楽しくなって来ましたね!
とってもリズミカルで、声に出してみると、より歌に近くなります。
この作家は荒井良二さんで、ご自身もバンドで歌を歌ってらっしゃいます。
2007年アストリッドリンドグレーン賞の授賞式に、ギターを持っていって、舞台で自作のリンドグレーンのための歌を歌ったことも有名な話ですね。
リズミカルな文章もですが、この本にはいくつもの仕掛けがあります。
まず、ページがすべて大きなアールで角丸にカットされていること。
ねんどろんたちの、丸みを感じることができます。
そして、裏表紙の「ねんねんどろん ねんどろん!という字。
裏表紙にまで字が入っているのが、読む前は不思議に感じると思います。
しかし、読み終わってから裏表紙を閉じると・・・あ!そういうことかと謎が解けます。
ねんねんどろん ねんどろん!と陽気に歌いながら、なんでも自由に変形し、ピンチを回避していく彼らに、なんだかわたしは「これでいいんだな」とホッとするのです。
吹き出しえほんという斬新さ!
おはなししましょう (日本傑作絵本シリーズ)
谷川俊太郎 、 元永定正
このえほんは、現代美術作家の元永定正氏と、その親友であった詩人谷川俊太郎氏によるえほん作品で、元永氏最後の作品となったものです。
この絵本を担当された編集者のかたに、お話しを聞き、とても驚いたので、ぜひここにお話ししたいと思います。
このえほんに描かれているのは、たくさんの「吹き出し」です。
吹き出しとは、まんがでキャラクターが話しているときに煙のような形で現されているあの表現のことです。
元永氏からこのえほん原稿を受け取ったときに、もちろん言葉は付いていませんでした。
ただただ、大小、形もさまざまな吹き出しが並んでいる絵が12枚。
その背景の色はたいへんカラフルで美しく、言葉がなくても惹き付けられる絵であることは確かでした。
しかし、これに言葉を付けるという企画でもありましたので、谷川俊太郎氏に原稿を持って行き、ご覧いただいたとのこと。
その数日後には、まるで、はじめからその言葉のために描かれたかと思うほどに、ぴったりの原稿が仕上がって来たそうです。
おはなししましょう
わたしのおはなし
だれかのおはなし
ひとり ひとり
ちがうおはなし
この言葉は、すべて吹き出しの中に配置されていて、その言葉を話しているように感じます。
「ひとり」「ひとり」「ちがう」「おはなし」は、ひとつひとつの言葉が形のちがう吹き出しの中にかかれており、わたしたちひとりひとりの個性を現しているように思います。
わたしたちは、ひとりひとりに考えがあり、気持ちがあります。
同じものを見ても同じように感じるわけではありません。
それを個性と呼ぶと思います。
ひとりひとりが違う心を持っていて、ひとりひとりに考えがあるんだよ、という当たり前のことが、認めらにくいのが、今の日本の社会のような気がしています。
それを、吹き出しの形をかえることで、小さい子にも「ひとつひとつが違う」と分かります。
吹き出し、とさきほどから名付けていますが、吹き出しではなく、こういう形の何か、でもいいのです。
むしろ、まんがの概念がない幼児ですと、もっと元永氏の絵を素直に受け入れるのではないでしょうか。
わたしは、自分の気持ちを話す(伝える)ことは、自分を分かってもらうことではなく、相手を理解する行為だと思っています。
こちらの気持ちを話すことの大切さ、相手の気持ちを知ることのできる嬉しさ。
それによって、もっと仲良くなれる喜びや、もちろんケンカしてしまうことも。
シンプルな言葉が、かたちや色の違う吹き出しの中に描かれていることで、小さい社会を見ているように感じます。
また、声に出して読んでみると、その言葉のなめらかな美しさにも感動します。
ひとり ひとり ちがうおはなし。
さっそく、誰かと話したくなってきませんか?
えほんの言葉を声に出してみると、違った感じ方ができるので、ぜひ誰かと読み合ってみて下さい。
書いてあるとおりに読めなくてもいいと思います。
演じるのではなく、えほんの世界を声に乗せるのが目的なのですから!
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