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作家・川上未映子 すれ違いざまに「母乳?」と聞かれ…。私たちが産む・働く・生きることとは

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妊娠・出産体験を包み隠さずつづったエッセイ『きみは赤ちゃん』がベストセラーとなり、その後も女性にかかわる数々の問題に疑問を投げ続けている川上未映子さん。この夏に刊行された長編小説『夏物語』は、そういった自身の体験も織り込んだ、女たちの物語。この作品を軸に、川上さんにお話を伺いました。

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人生は、選んでいるつもりで 選んでいないことのほうが多い

「この小説を書こうと思ったとき、まず、”私たちが子どもを産んで育てるということは、そんなに当たり前のことじゃないんだよ“という気持ちがありました。
自分が女の体を持って女性として生きていくことは、私たちが選んだことではない。いつからかそれは始まっていて、自分の気持ちとは関係なく体は成長し、変化していく。そこにまず戸惑いがあるわけです。”選べなかったもの“とずっとつき合いながら、その中で結婚相手を選んだり、職業を選んだりする。でも、自分が何を選べて、何を選ばなかったのか?というのを振り返ってみると、わからないことばかり。たとえば、納得して子どもを産んだけれど、”その子“であったということはお互い選べないことでしょ? 
人生は選んでいるつもりで選んでいないことのほうが圧倒的に多くて、そのせめぎ合いだと思うんです。やってみないとわからなかったことばかりで、練習がなくて、しかも1回で終わってしまう。これがやっぱりすごいことですよね。
子どもの成長もそう。かけがえのない日々になるだろうとわかっているんだけど、振り返るときには全部が終わっていて、その最中にいるときはその最中のことを取り逃がすことになる。つかもうとしてもつかみきれないものを生きているわけですよね。そういうふうに、私たちは絶えず未知のものと向き合っているということを、あらためて子育てしてみて思いました。

 だから、子育ては人と違いがあって当たり前だし、うまくやろうと思う必要もない。ただ、みんなの体験を聞いて自分との違いを知ることが大事なんだと、7年子育てしてみて思います。
この小説の中にもいろんな人物が出てきて、子どもを産むということに対してもいろんな意見や感じ方があるし、1人の人物の中にも感情にむらがあって。”それくらい、とんでもないことをやっているんだ“ということを書きたい気持ちがありました」

こうやっておっぱいが出ない人は 追い詰められていく

「私は”こういう母親でありたい“と思ったことは1回もありません。いわゆる”母親ってこうあるべき“というような刷り込みがなかったのですが、それでもやっぱり、産後は世間からの外圧がすごかった。すれ違いざまに見知らぬ人から「あなたのとこは母乳?」って聞かれたり。「はい、母乳です」と答えるとほめられるわけです。「お子さんが元気なのはそのおかげね」とか。そのとき、胸が痛くなりますよね。私はたまたま母乳が出ただけ。こうやっておっぱいが出ない人は追い詰められていくんだ、と思いました。小さいころから保育園に入れると愛情がたりなくなる、とかね。そんなことが無数にあって、いくら気持ちを独立して持っていても触れてしまうから、傷つく人も多いと思います。逆に、私みたいにずっと仕事もして子どもも産んで、というこの存在自体が、うまく両立できない人にとって”なんで私はああやって働けないんだろう“と思わせる原因になっている可能性もある。そういうときに大事なのは、自分のやり方はほかのだれとも違って当たり前だ、と気持ちを強く持つことだと思うんです。

 なんの悩みもなく生きていくことなんて無理。だけど、子どもと接するときにリラックスできるくらいには母親も自分を維持していたい。そのためにいちばん助け合わないといけないのはパートナーですよね。常に話し合いができるパートナーとの関係づくりは、チャレンジしてほしいところです」

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「自分のやり方はほかのだれとも違って当たり前」。そんなふうに思えることができたら、子育てにも少し余裕が生まれるかもしれません。

(写真/伊藤大作[The VOICE]、ヘア&メイク/吉岡未江子、構成/ひよこクラブ編集部)

『夏物語』

【あらすじ】小説家をめざして作品を書き続ける夏子(38才)。書くことで生計が成り立ち始め、まるで夢のようだと思う一方、「自分の子どもに会いたい」と強く思う。交際相手もいない夏子にとって、それを実現させる手だては? 出産を「親たちの身勝手な賭け」だと言う女、シングルマザーとして強く生きる女…。たくさんの人とかかわりながら、夏子は「どうして子どもを産みたいのか」を考え続ける。(川上未映子著)1800円/文藝春秋



■川上未映子/
1976年大阪府生まれ。2008年『乳と卵』で芥川賞を受賞。代表作に『ヘヴン』『あこがれ』『ウィステリアと三人の女たち』など。17年には「早稲田文学増刊 女性号」で責任編集を務めた。2012年に男児を出産。

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