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デンマークで話題!子ども向け「性」の本から私たちが学べること

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2017年デンマーク教育省の物書き賞受賞、北欧会議児童文学賞、オーラ賞にノミネートされた話題の本『北欧に学ぶ 好きな人ができたら、どうする?』(晶文社)。この本を翻訳した枇谷玲子さんと、北欧での子育てエッセイを出版した翻訳家の久山葉子さん、そして北欧ミステリーファンであるライター長田杏奈さんの3人によるトークセッションが、先日東京の二子玉川 蔦屋家電で開催されました。
前回は「北欧に学ぶ、ママの自尊心を削らない子育て」をテーマに展開されたトークの様子をお伝えしましたが、今回は「枇谷さんの訳書からなにが学べるか?」ということについて、ママとしての立場から3人に話してもらいました。

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性教育とは、生活のなかで自然に教えるもの

『北欧に学ぶ 好きな人ができたら、どうする?』は、性にまつわる心と体について、イラストでわかりやすく学べる本としてデンマークで出版されたものです。日本でも枇谷さんの翻訳でこの9月に出版されました。

編集部:この本には、好きな人ができたときの男の子・女の子それぞれの身体や心の変化がリアルに描かれていますよね。実際に北欧では思春期の子どもたちが読んでいる本なのでしょうか。

枇谷さん(以下敬称略):はい、思春期の子が読んでいます。日本人の私にとっては、「性教育をここまできちんと学んだことはない!」と感じる驚きの内容です。私自身、親と性の話をする機会はありませんでしたが、本に登場するお母さんは、息子とアダルトサイトの話をしたりします。ユーモアを交えて性教育の話をすることがすごく面白いし、役に立つということで多くの10代の子たちが読んでいます。

長田さん(以下敬称略):確かに、性教育後進国と言われる日本だと「性教育をしっかり受けた」と自信を持って言える人は少ないと思います。一方で、誰でも簡単にポルノ動画にアクセスできる時代になり、正しい性の知識やリテラシーがない子どもたちが、デフォルメされた性コンテンツに触れてしまう状況は、とてもいびつだと感じます。

枇谷:この本の中でも、お母さんが主人公のひとりであるストーム君に、「アダルトサイトに出てくるセックスは実際のセックスとは違う。性器が大きく見えるような角度で撮影したりしているし、女性のセックス時の振る舞いも、実際とは異なる」としっかり教えているのが印象的でした。

「多様性を認めあう」という考え方にも触れられる一冊

編集部:この本では「アリストテレス」など、哲学者が性についていろいろな意見を言い合うシーンがありますよね。ここが北欧らしいと枇谷さんは思うそうですが、なぜでしょうか?

枇谷:主人公のストーム君が「愛」について考えるシーンで歴史上の哲学者がたくさん登場します。彼らは持論を展開して、なんと最後に喧嘩して終わるんですよ。そこがとても北欧っぽいなと思います。答えがでなかったとしても、お互いの考えを議論することが大切、ということです。

久山さん(以下敬称略):スウェーデンでも子どもに答えのないことを考えさせるという機会がよくあります。わたしが通っている大学でも、先生一人の講義より小さなグループに分かれてディスカッションしている時間のほうが長いんです。しかも先生が最後にまとめるわけではなく、みんなで考えて終わりなんですよね。答えを出すことより、考えること自体が奨励されているように感じます。

長田:日本人はどうしても正解を求めがちですよね。そして、ルールを作りたがる。北欧のテレビ番組では、ひとつの議題に対して意見がちがう専門家同士が議論を交わすのが当たり前ですよね。「答えは簡単に出ない」というサンプルに触れる機会が多いから、結論や正解のない問題について粘り強く話し合ったり、考え続けることができる人が多いのではないかと感じます。この本にも、「正解を決めつけずに考えさせるヒント」があふれていますよ。

枇谷:この本のなかでは、ストーム君が学校で「愛について絵を描いたり、インタビューしたり、物語や詩を書いたり、自由に表現してみよう」という宿題を与えられます。その中で、文化圏によって愛のカタチが違うことや、同性愛について調べていきます。「自分たちの社会規範とは異なる考え方を認め合い、理解しよう」という多文化共生のあり方がこの場面から読み取れます。私は小さいころから「みんなと同じじゃなきゃいけない、将来的に結婚しなければいけない…」と思いこんでいたところがあったので、このような文化に惹かれていろいろな本を翻訳しています。

「こうでなければいけない」「人と比べる」から外れてみよう

編集部:久山さんのご著書『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』(東京創元社)でも、互いを認め合うという文化について書かれていましたね。

久山:そうですね。スウェーデンでは「あなたはお兄ちゃんだから……」「女の子だから……」という言いかたは決してせず、すべての子どもには同じ価値があることを教えられます。私はスウェーデンに移住し、そういった環境に置かれてすごく楽になりました。自分自身も、人と比べずに自分のやりたいことをやるようになりました。今では翻訳をしたり高校で日本語を教えたりする一方で、趣味で市民オーケストラにも参加して楽しんでいます。まずは、子どもを人と比べないで認めてあげる、ということが大事なんだとつくづく思います。

枇谷:北欧の本をたくさん翻訳して感じることは、「子どもに幸せになってほしいと思ったら、ママやパパ自身が幸せであるべき」という文化が根底にあることです。また、波風を立てないのはラクですが、何かに声を上げなければならないとき「自分は次世代の幸せを思ってやっている」と思えばそれはわがままでも何でもない、ということ。わたしも大切にするようにしています。

編集部:長田さんの著書『美容は自尊心の筋トレ』でも、「よきママ像に縛られて、自分を後回しにし過ぎないで」と書かれていますよね?

長田:そうですね。私も子どもが小さい頃は、子どものお世話に一生懸命になるあまり、極端に自分を後回しにしていたことがありました。でも、「自分を犠牲にして全身全霊子どもに尽くさないといい母親でない」というような神話に惑わされず、もう少し自分を大切にリラックスして楽しんでほしい。「ママとしての私」ではなく、「ただの私」の声に耳を澄ませて向き合ってあげる時間も必要なんじゃないかと思います。もし、すべてを子どもに捧げないといけない、と思い込んでいたら、その社会通念のほうを疑ってほしい。そのひとつのきっかけとして、北欧のコンテンツは大きなヒントになるはずです。

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枇谷さんの訳書から学べることは何か、そこから考えられるママとしての理想的なスタンスは何なのか、3人からお話を伺うことができました。社会的背景は違っても、北欧の子育てから少しでも取り入れられるヒントが見つかるといいなと感じます。

(文・中島博子)

●Profile

翻訳家 枇谷玲子(ひだに・れいこ)
1980年生まれ。『北欧に学ぶ 好きな人ができたら、どうする?』(アンネッテ・ヘアツォーク 著、カトリーネ・クランテ、ラスムス・ブラインホイ 画)(晶文社)の翻訳者。 2003年、デンマーク教育大学児童文学センターに留学(学位未取得)。2005年、大阪外国語大学(現大阪大学)卒業。在学中の2005年に翻訳家デビュー。北欧書籍の紹介に注力している。

翻訳家・教師・コーディネーター 久山葉子(くやま・ようこ)
1975年生まれ。『スウェーデンの保育園に待機児童はいない: 移住して分かった子育てに優しい社会の暮らし』(東京創元社)の著者。神戸女学院大学文学部卒。高校時代、交換留学生としてスウェーデンで学ぶ。大学卒業後は北欧専門の旅行会社やスウェーデンの貿易振興団体に勤務。2010年に夫と娘の家族3人でスウェーデンへ移住。現在はスウェーデン・ミステリ作品の翻訳のほか、日本メディアの現地取材のコーディネーター、高校の日本語教師などとして活躍している。

ライター 長田杏奈(おさだ・あんな)
1977年生まれ。『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)の著者であり、このトークセッションのコーディネーター。女性誌やwebで美容を中心にインタビューや海外セレブの記事を手がけるライター。「儚さと祝福」をコンセプトに、生花を使った花冠やアクセサリーを製作する「花鳥風月lab」としての活動も行う。小学生時代、人生で初めて書いた長文がトーベ・ヤンソンのムーミン谷シリーズの魅力について。成長後は、北欧を舞台にしたミステリー作品にハマる。

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