「同性愛者は住む世界が違う人」じゃない。『母ふたり』の家族に聞く
子育てをするLGBTファミリーとその周辺をゆるやかにつなぐ団体『にじいろかぞく』の代表を務める小野春さん。自分がバイセクシュアルだと自覚したのは、男性パートナーとの結婚、出産を経た後でした。その後、離婚を経て、同性パートナーである西川麻実さん(通称麻ちゃん)と3人の子どもと「かぞく」として生活するように。
小野さんの著書『母ふたりで“かぞく”はじめました。』には自身のセクシュアリティや家族5人の生活が書かれていますが、LGBTファミリーである小野さん家族の日常はどこにでもある家族とそう変わりません。しかし、世の中から見た家族という枠組みからはLGBTファミリーであるということだけで、大きな隔たりがあると捉えられることも多いようです。現在、同性婚の法制化を求める訴訟「結婚の自由をすべての人に」の原告にも加わっている小野さん、西川さんにインタビューしました。前編は「LGBTファミリーを取り巻く状況」について。
法律上の結婚ができないことで、同性愛者は社会から疎外されている?
小野さん・西川さんカップルに限らず、戸籍上の性別が「同性」であるカップルは現在の日本では婚姻届を提出して法律上の結婚をすることができません。
同性婚が認められている諸外国に続けと、2019年に同性婚の法制化を求める「結婚の自由をすべての人に」訴訟が起こされました。小野さん、西川さんも原告十数組のうちの一組となっていますが、その発端は2人が結婚式を挙げた直後、西川さんが小野さんに対して「いつか裁判しようね!」と告げたことだといいます。
――「結婚」というキラキラ、甘いイメージの言葉と「裁判」という固いイメージの言葉に大きなギャップを感じたのですが、西川さんが「いつか裁判しようね」と言ったのはどういった思いからなのでしょうか?
西川さん(以下敬称略) 私は春さんと違って、若い頃から自分が同性愛者であることに悩んできた経緯がありました。大人になってから「自分はどうしてここまで悩まないといけないんだろう?」と考えてみると、そこには同性愛者は現在の婚姻制度に入れないという事実があったんです。それによって「バカにしてもいい存在」だと世の中に思われているのではないかと。じゃあ同性婚ができる国はどうやってその制度ができたのかを調べてみると、裁判を起こして勝ち取ってきたことがわかったんです。
――日本でも同性婚を法制化するには裁判を起こすしかないと?
西川 そうですね。日本でも誰かが裁判を起こさないといけないんだろうなと。いずれ誰かがやってくれるんじゃないかと思ってたんですけど、人任せにして待っててもしょうがないし、せっかく同性パートナーと家族になったんだから自分たちがやろうかと(笑)。ただ、今はそのタイミングじゃないから、子どもたちが高校生くらいになったらという意味で「いつか裁判しようね」だったんです。そして本当に子どもたちが高校生くらいのタイミングで今の素晴らしい弁護団の方たちと知り合えて、周囲も「裁判やろう!」と盛り上がる機運になったんですよ。
――日本で同性婚が認められるようになったら、小野さんと法律上の「ふうふ」になりたいという思いが?
西川 私自身、今の戸籍制は昔から「家制度」をひきずっていて問題もあると感じているので、自分が婚姻制度に入りたいというよりは、この制度がないことで同性愛者を蔑んでもいいとしている人々に変わってもらいたいんです。もっといえば、このことをきっかけにして、結婚制度以上に社会全体に変わってほしいと思っています。
学校で「LGBT」を教えるようになり、カミングアウトのハードルが下がった
著書には、小野さんと西川さんが結婚式を挙げるにあたって、3人の子どもたちに向けて、自分たちのセクシュアリティをカミングアウトしたと書かれています。数年後、中学生になった娘さんが学校でLGBTについて学んだときに「ママたちってレズビアンだったんだね!」と改めて気づいたというエピソードも書かれています。
――日頃から、LGBTについてはお子さんたちとどのように話しているのでしょうか?
小野さん(以下敬称略) 結婚式のときに「ママと麻ちゃんみたいな人のことをLGBTって言ってね」と伝えたのが最初です。娘はわかってなかったみたいですけど(笑)。その後も家庭内でしょっちゅうLGBTの話は飛び交っていたし、LGBTファミリーがうちに来ることもあったのに、きっとあまりにもそれが自然過ぎて、学校で聞いた言葉のイメージと食い違ってたんでしょうね。もっと深刻で大変なことに聞こえたんじゃないかな。長男は結婚式当時小学校高学年だったので理解したらしいですが、次男もよくわかってなかったみたい。
――小学校中学年だと、まだ友達や家族への「好き」と恋愛の「好き」の区別もわからない時期かもしれないですよね。
小野 そうですね。こちらとしては私たちの関係について当然理解しているものだと思ってたので娘の発言にびっくりして(笑)。
西川 中学年じゃわからないよ。記憶にもないだろうし(笑)。
――家庭内でLGBTのことが会話に出てくるのはどんなときでしょうか?
小野 ニュースで話題になったときに「こんなことあったんだね」とか。
西川 すごく日常的な感じですよ。最近だったら子どもから「ユーチューバーのかずえちゃんがさー」って話が出たら「ああ、ゲイの人だよね。有名なんだよね」とか。「来週お母さん出かけるから。LGBTのイベントだよ」とか。生活に密着してることなので、折に触れて出てくるんです。
――学校でLGBTについて学ぶ機会があることについては、どのように思われますか?
小野 本当にラクになりましたよ。私たち、子どもたちが通う小学校にはカミングアウトしていなくて。先生がLGBTを知ってるかどうかもわからないし、知らない人に最初から全部説明するのは結構な負担じゃないですか。自分の家族のことはわかるけど、一般論を話せと言われても難しい。まわりの人で学校の先生にカミングアウトしたら、色眼鏡で見られるようになったケースも聞きますし。それが学校で教えるようになると、少なくとも言葉については知っていてくれるでしょうし。
西川 あとはいくつかの自治体で始まった「同性パートナーシップ証明制度」(※1)も大きかったですね。私たちも証明書を持ってるんですけど、あの制度ができてから言いやすくなりました。「私たち、パートナーシップ証明取ってるんです」のひとことですむ場面が増えたので。
小野 先生たちも自分たちが働いてる自治体でやってるからね。
西川 最初は証明書だけ取っても何の意味があるんだろうと思ってましたけど、カミングアウトのハードルがぐっと下がりましたね。
小野 今、LGBTについて教科書に載せる動きもあるんです。パートナーシップ証明制度を施行する自治体も増えて、LGBTの人が身近にいるのがよりはっきりしてきたのかなって。
西川 それでも、家庭科や保健の教科書では「思春期になると異性を好きになる」って表現がされていて、いまだに同性愛の子たちが取り残されてしまうケースが多いんです。
小野 そうなんです。「誰かを好きなる」「人を好きになる」って表現でもいいと思うんだけど。「異性を」って限定されちゃうと、異性以外を好きになった場合はどうするんだろうってなりますよね。
――本の中に、“LGBTファミリーに育つ子あるある”として、お子さんたち全員が「自分も同性が恋愛対象なのかな?」と考えたことがあったと書かれていますね。
小野 そうなんですよ。娘は思春期に入ったころに友達の「好き」と恋愛の「好き」の区別がつかなかったみたいで。あとでほかの人に聞いたらLGBTファミリーあるあるらしく。異性愛しかないのが当たり前という環境ではないので、一度はみんな可能性を考えるらしいんですよ。友達の「好き」と恋愛の「好き」の違いを聞かれても、大人もどう説明したらいいのかわからないじゃないですか?
――そうですね。特に思春期だとより区別がはっきりしない気がします。でも、自分は誰を好きになるんだろうって考えることって悪いことではないですよね。
小野 うん。「好きになる」ってどういうことなんだろうって考えるとおもしろいですよね。成長したら異性を好きになるのが「当たり前」なんて言葉で片づけられがちだけど、それを取っ払ってみると、いろいろと疑問が出てくるかもしれないです。
(※1)地方自治体が同性カップルに対して、婚姻と同等の関係にあることを証明するもの。法的保障はありません。2015年11月に東京都渋谷区と世田谷区で導入されたのを皮切りに、全国の地方自治体で導入が進んでいます。
LGBTだから特別じゃない。結局は「人対人」のつきあいに
――身近な友達がLGBTであることを知った場合、どんなふうに接するのがいいのでしょうか?
西川 カミングアウトを受けたら興味を持ってもらえると私はうれしいです。「この前読んだ記事にこんなことが書いてあったよ」とか「こんな映画を観たけどLGBTの登場人物がいたよ」とか、ささいなことでもいいから興味を持ってほしい。逆に、カミングアウトを受けたときに「そうだとしても○○ちゃんは同じだよ!」と言って、その話題をなかったことのように扱ってしまうのは、自分もやりがちな間違いとしてあるかなと。もし自分がカミングアウトして、その後話題に触れられないと「今は言うタイミングじゃなかったのかな…」と思ってしまうじゃないですか。
小野 麻ちゃんはそう考えるんだね。私の場合、興味をもってもらうというよりかはって自然と会話に織り込んでもらえるのがうれしいかな。友達のパートナーについて「元気にしてる?」って尋ねるみたいに、「麻ちゃん元気?」って。日常会話で家族のことって頻繁に出てくるじゃないですか。そんな感じで。
西川 一般的なLGBTの話題には触れなくてもいいってこと?
小野 「パートナーシップ証明制度が始まったんだって!」とかトップニュースで触れられるような話題であれば素直にうれしいけど、必ず触れてほしいとは思わないかな。細かいところまで知って話をふってくれるのは、知ろうとしてくれてるのかな、気をつかってくれてるのかなとは思うけど、別に知ってても知らなくてもいい。「そういえば『きのう何食べた?』(※2)ってゲイカップルの話だったよね?」くらいの認識でも。
西川 私はそこガツガツ来てほしい!「私、西島秀俊さんのファンなんだけど『きのう何食べた?』最高だったよ!」くらい言ってほしい!
小野 そうなんだー!それぞれ考え方が違うね。
――当たり前かもしれませんが、どんな対応がうれしいというのは、人によるものなんですね。
小野 そうなんです。正解なんてなくて、結局は人対人なんですね。私と麻ちゃんは同じセクシュアリティではあるけど、性格はかなり違うので。女性だからみんな同じかと言うとそうでないのと一緒です。「女性としてどうですか?」って聞かれても、女性全員の代表としてなんて答えられないじゃないですか!
(※2)同居する弁護士と美容師のゲイカップルの日常を描いたよしながふみさん作のマンガ(講談社刊)。2019年には西島秀俊さん、内野聖陽さんダブル主演でドラマ化も。
定型家族が暮らす世界から飛び出しても、意外と何も変わらなかった
――小野さんの本を読み、こうしてお話を聞いていると、同性カップルと異性カップルに思っていた以上に差がないことを感じます。差を作ってしまっているのは、世の中の制度であり、捉え方なんだなと。
小野 私もLGBTの人たちの暮らしって異世界だと思っていました。異性カップルのいわゆる定型家族の暮らしから自分が飛び出ると決めたとき、こんなイメージをしたんです。自分は火星みたいな惑星に住んでいて、みんなが平和に暮らしているドームの中にいたんだけど、結婚をやめて同性パートナーと暮らすことを選んだときに、そのドームから出て荒野で遊牧民みたいに暮らさなきゃいけないんだって。常に強い風が吹きすさんでいて、酸素もないかもしれないと思ってたけど、いざ出てみたらドームの中とそんなに変わらなかった。
――そういうことってほかにもありそうですね。「これ以外選択肢がないと思ってたけど、ほかの道を選んでもなんとかなった」みたいなことって。
小野 今まではあまり何も考えず、決まったレールに合わせて、そこに乗っかってればよかったんでしょうけど、世の中はそうではない流れになっている。結婚にしても、結婚ってどういうもので自分には合うのか合わないのか、ひとつひとつ考えて自分で選ぶ時代になってるんだと思います。
――小野さん、西川さんと話していると、同性カップルということよりも子育てを経験されてきた先輩ママのひとりということを強く感じます。一緒に子育てをするのが異性なのか、同性なのかに大きな違いはないんだなと。
小野 『にじいろかぞく』の活動を見に来る人も「想像してる以上に何も変わらなかったです!」と驚いて帰って行かれるんです。こちらは何を想像していて、何を同じだと感じたのかわからないんですが、思っているのとだいぶ違うみたいですね(笑)。私もLGBTの中で、G(ゲイ)の人やT(トランスジェンダー)の人たちのことはわからないことがいっぱいで、精神的に足をふんでしまうこともあると思うんです。でも、そのときにふまれたほうが「ふんでまーす!」と言えればいいんです。それを我慢しなきゃいけなかったり、聞いてもらえなかったりする世の中こそつらいので。「足ふんでます」「これは嫌です」「こっちがいいです」と言えるなら、それで解決する。だからそんなに身構えずにLGBTの方ともつきあっていただけたらうれしいです。
LGBTファミリーもたくさんの子育てファミリーのひとつに過ぎない
小野さんに「LGBTファミリーに何か支援できることはありますか?」と尋ねると「たくさんいる子育てファミリーの仲間に入れてもらって、それぞれの家族と同じように悩みを語り合えたら」という答えが返ってきました。
LGBTファミリーの日常も、異性愛の人や異性カップルの子育てと変わることはないのだと改めて感じさせられます。インタビュー後編では「家族やパートナーとしての関係性」をテーマに2人へのインタビューをお届けします。
(文・古川はる香)
●Profile
小野春
LGBT同性パートナーである西川麻実さんとステップファミリーとして暮らし、3人の子どもを育てる。子育てするLGBT とその周辺をゆるやかにつなぐ『にじいろかぞく』の代表。2019 年4 月には「結婚の自由をすべての人に」訴訟の原告のひとりとして、東京地方裁判所で意見陳述も。乳がんサバイバー。