お風呂でも! 子どもは「静かに溺れる」その理由とは?
子どもの事故に関して、暖かな季節となると共に危険が増すのが「水の事故(水難事故)」です。
“水の事故”の特徴のひとつは「親が近くにいるのにも関わらず、子どもは溺れてしまう」ということ。そこには、“水の事故”に関する間違った思い込み(間違ったイメージ)が存在しているのです。今回は、防災アドバイザーの榑林宏之さんに水難事故について解説してもらいました。
榑林 宏之
一級建築士・防災アドバイザー
一級建築士として活動。「都市環境・住宅環境と防災」「都市環境・ランドスケープ計画における、人の行動・動線設計と危機管理」などに携わっています。
BAUMPLANNING一級建築士事務所
「子どもの水の事故」を防ぐために知っておきたい要素と対策
気温が高まる夏・初秋季節(7月~9月)に気を付けておきたいのが「水の事故」です。
特に、近年「局地的豪雨」「台風」などに伴う、洪水・浸水災害などが増えているので「水の事故」に関する意識は高めておきたいもの。
ここでは、「子どもの水の事故」に関して、知っておきたい知識と対策をご紹介します。
「子どもの水の事故」の現状
まずは、「子どもの水難事故」の現状を確認してみたいと思います。
平成30年における水難の概況(警察庁生活安全局生活安全企画課)によると、子ども(中学生以下)の水難事故者数は「193人」となっています。
実は過去10年の統計的には、子どもの水難事故発生数は減少傾向で推移しています。
・医療の進歩
・少子化の促進(子どもの数が減少)
・子どもが屋外で遊ぶ機会の減少
など、複数の要因が重なることで、“子どもの水の事故”が減っているものと考えられます。反面、警察庁の海難事故統計にはカウントされていない“子どもの水の事故”として、危険が増しているのが“子どもの浴室内での水の事故“です。
近年では、共働き世帯が増加。家事の負担も増す状況にて、四六時中子どもへの注意意識を高めているわけにはいかないのが実状。浴室での水の事故が毎年一定数発生しています。
統計を基に“子どもの水の事故”が最も発生しやすい場所として、注意しておきたいのが下記要素です。
●河川(主に6歳以上の子どもが対象)
●浴室(主に5歳以下の子どもが対象)
「河川」での水難事故
屋外での水難のうち、子どもの死者・行方不明者について発生した場所別にみると、約半数が河川での水難事故です。
子どもたちにとって、海よりも河川の方が危険性(恐怖心)を感じにくく、遊び場として身近な存在となっていることが要因となっているものと考えられます。
河川だけでなく用水路なども含めると、より多くの危険が身近に存在することとなります。
「河川」での水難事故の3つの対策とは!?
海(海水浴場)にはライフセーバーがいますが、河川では大人の目も少なく、親の視線も案外届きにくい傾向があります。
そんな「河川での子どもの水難事故」の対策はいろいろありますが厳選すると「下記3つの対策」があげられます。もちろんライフジャケット着用は子どもの場合はマストの上です。
1)「泳ぎ」を教える
案外、意識している親が少ないのかもしれませんが。水難事故を防ぐ上で最も大切な対策となるのが、“幼少期から泳ぎを教える”ことです。
小学校などで水泳の授業が行われているのも、“水の事故”を防ぐ目的があるからです。
泳ぎを教える上で重要なのは“うまく泳げること”ではありません。
・水に慣れる
・入水時の呼吸法を体得しておく
・“水に浮く”ことを覚える
上記の3要素が大切なポイントとなります。
2)「天気の変化」を伝える
毎日、子どもが出かける前に、「今日の天気傾向を伝えておく」ことも大切な意識付け要素となります。
“水の事故”に限らず、自然災害などへの対応力を高める上で最も大切なのが“自然を知ること“”自然を常に身近に感じていること“です。
そんな“自然を知る”ことの最初の一歩となるのが、「日々の天気を意識する」ことなのです。朝外出する前に、一日の天気を流れとして伝えておくことがポイントに。
単に、晴れ・雨と言うのではなく
「午前中は晴れでも、午後になると雲が多くなって雨が降るかも」
「午後になると風が強くなるかも」
「夕方以降は、気温が急に下がってくるかも」
といった、天気の流れ・変化を具体的にイメージできるような言葉をかけてあげるといいかと思います。
3)前日「雨降り」の場合は河川に近づかせない
「当日の天気」だけでなく、「前日の河川上流域の天気」が河川の状態に大きな影響を及ぼすもの。
河川上流域にて雨降りとなった翌日は、子どもに「河川に近づかないように」と一言伝えておくだけでも、水難事故のリスク低減に役立ちます。
「浴室」での水の事故
5歳以下の子どもに対して、気を付けておきたいのが「浴室での水の事故」です。
要因に関しては後述しますが、親と一緒の入浴時にも生じてしまうのが「浴室での水の事故」なのです。
「浴室」での水の事故対策とは!?
子どもの「浴室での水の事故」に対する基本対策となるのは
“子どもが浴槽に入っているときは、子どもに対する意識を途切れさせない”ことに尽きます。
「大げさな...!」と思う方もいるかと思いますが、実際に親と一緒に入浴中の子どもが溺れとしまう事故は毎年一定数発生しています。1分や2分の間、子どもヘの意識が途切れただけで子どもが浴槽内で溺れてしまうことがあるのです。
母親が2人の子どもと共に入浴、下の子どもを先にお風呂から上がらせている間に上の子が浴槽内で溺れていた
などの事故も繰り返し発生している出来事です。
「5歳以下の子ども」がいる家庭では、具体的な行動として下記のような要素を心がけておきましょう。
・入浴後、浴槽内にお湯を残しておかない
・子どもだけで入浴させない
・子どもと入浴中に電話などには出ない(子どもへの意識の消失)
水難事故の間違ったイメージを正しておく!「子どもは静かに溺れる」
近年、「子どもの水難事故」に関して、大きな課題が指摘されるようになっています。それが“子どもは暴れることなく、静かに溺れる”ということ。
多くの方が“人が溺れるときの姿”として「手をばたつかせて暴れたり」「叫んだり」するようなイメージを持っているのではないでしょうか。
映画やドラマなどの水難シーンでは上記のような描写が多いことから、“人の溺れ方”に対するイメージが作り上げられたものと考えられています。
しかし、近年あらためて注意喚起されるようになったのが、人が溺れるときは、呼吸をするのが精一杯。手をバタつかせたり、声を出して助けを求めたりできないということ。
特に幼少期の子どもの場合は、自分が溺れていることを自覚することができず、速やかに静かに水没してしまうのです。(この現象に関してアメリカのFrancesco Pia博士らが、本能的溺水反応と名付けています)
親と一緒に入浴中なのにも関わらず子どもの事故が発生してしまうのは、音もたてずに子どもが静かに溺れてしまうからなのです。
「子どもは静かに溺れる」ということを強く認識しておいていただければと思います。
子どもの水の事故を防ぐためには、“子どもに泳ぎを教える”ことと“子どもは静かに溺れる”という認識転換が大切な要素になります。
単に水を避けるのではなく、泳ぎを教え、水との触れ合いを持ちつつ、併せて水の怖さを伝えていくことが本質的な水難対策となるでしょう。