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忘れ物は物語の始まり?「忘れる」ことから始まる絵本3選

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かわいい男の子の本で、疑問符します。
ismagilov/gettyimages

誰でも一度くらい、忘れ物をして困った経験があるのでは?けれど、忘れることは悪いことばかりではないようです。忘れることから思わぬ展開になるユニークな絵本を、えほん教室主宰の中川たかこさんに聞きました。

中川たかこ
なかがわ創作えほん教室主宰
メリーゴーランド四日市・増田喜昭氏に師事。
個人の創作えほん教室主宰19年目。高校、中学、専門学校などでえほんの読み解き方、えほんの創り方の講師として活動中。

忘れるってステキ!そんな気持ちになれる本

忘れ物をしないよう、お出かけ前には確認しますよね。でも、忘れ物をすることが、素敵な物語の始まりになるとしたら…?

忘れ物をすることで生まれる物語がある

ある冬の日のお話です。キッコちゃんのお父さんは、おばあちゃんちの雪かきに出かけました。お父さんを見送ってふと気づくと、お土産のケーキがポツンと忘れられています。
「いまなら追いつけるよ」
と、キッコちゃんはケーキを持ってお父さんの後を追いかけて駆け出しました。

木炭を使って大胆に描かれた冬の雪の景色ですが、とても繊細で、細密画を見ているような不思議な気持ちになります。
木炭は先が太いので、細々とした描写は難しいと…思っていました、この絵本に、みやこしあきこさんという絵本作家に出会うまで。
見れば見るほど、線はざっくりとしているのに、樹木の表皮まで細かく描かれて…いない!!描かれていると思っていたら、いない!?
ここをお読みの方は何を言っているのだろうと思っていらっしゃるでしょう。しかし、あらためて表紙をご覧ください。木の皮のざらつき、描いてあったと記憶していませんでしたか?
描いていないものが、絵の持つ生命力によって描かれているように見えるのです。これこそ、画家の絵の力だと思います。

さて、無事お父さんに追いついたキッコちゃん。しかし、帽子を脱いだその人はお父さんではなく、くまだったのです。
羊の子に助けられ、扉を開けて家のなかに入ると…一斉にこちらを向く、10匹以上の動物たち。彼らは動物たちのお茶会をしていたのでした。そこに現れたのが招待していない人間の少女だったので、驚いたのでしょう。
思わずページを閉じたくなるくらいに、真っ直ぐにこちらに向かう視線を感じます。
セリフのないページなのに空気が固まり、「えっ?」と声が聞こえてくるようです。

お茶会といえば、美味しいケーキですよね。どうぶつたちも例外ではありません。
そのケーキの描かれかたといったら!!
えほんに手を伸ばして、食べたくなるほどです。
ここまで、着彩はキッコちゃんの髪とスカート、帽子など最低限のものにしかされていません。冬の雪景色にぴったりのモノトーンが生かされた画面になっています。
今までがモノクロだったからこそ、強烈にカラーが生きてくるのです。

木炭の大胆なタッチ、繊細な表情、計算されたカラーのバランスに、自分がまるでそこにいるかのような錯覚を覚え、お父さんがケーキを忘れたからこんなことになったんだった、とよくよく思い出さないとうっかり忘れてしまうほどのファンタジーがそこにあります。

とにかく、この動物たちが分けてくれるケーキの、あまりにも美味しそうな場面を観て欲しくて仕方がないです!

うっかりしすぎです、おじさん

スウェーデンから、なんとも面白い仕掛けの絵本が届きました!!
おじさんが主人公で、おじさんが画面のこちらにいる読者に話しかけることで展開していきます。
小さい子は絵本に出てくるおじさんが好きですよね。
おひげ、しわのある目元…何故なのかな?安心するのでしょうか。それとも、自分とあまりにも違うところに興味がわくのでしょうか。

このおじさん、ページをめくるとドアップで登場し、わたしたちにこう言います。
「ちょうどいいところにきてくれた!メガネを見なかったかい?」
と。
そして、次のページではメガネを持った手が描かれ、おじさんに差し出しています。
まるで、読者が画面の中に入って渡しているような構図です。
しかし、またページをめくると今度はおじさんの絵がぼやけており、おじさんはこう言います。
「おいおい!わたしのメガネだぞ、返してくれないか?」

そう、この絵本はおじさんの語りで進みますが、視点は読者であるわたしたち、しかも観客ではなく絵本に参加し、おじさんに探し物を受け渡さなければならないのです!

帽子、ネクタイ、次々におじさんは「見なかったかい?」と投げかけてきますが、その度に読者はおじさんにそのアイテムを渡さなければなりません。
ページをめくるとそれはちゃんと描かれているのですが、構図がこちら側に合わせてあるので、紙の中に入った気持ちになります。

見返し(表紙をめくった次のところ)はカラーで印刷されており、ここにはこのおじさんが住んでいる部屋を窓の外から見ている構図で描かれています。
この中に見つけられる一つ一つのアイテムは、物語を読み終わった後、さらに後ろの見返しと比べる事で、「あ!」と気づく仕掛けになっています。

さて、おじさんはあれこれわたしたちに探させた後、「これでばっちりだ!」と外出しようとします。
でも…ああ!!おじさん!!ダメダメ、いちばんといっていいほど大切な、あれを忘れていますよ!

ページをめくって、大笑いする子どもたちが目に浮かぶようです。
この絵本は、日本からはるか遠いスウェーデンの作家さんの作品ですが、ふふっと笑いを誘う物事はどこの国でも同じなのかもしれませんね。
そして、子どもたちはおじさんが大好きという事も。

100年、忘れない約束

最後は、忘れることではなくて、忘れないことで生まれる物語です。
小説家の安東みきえさんと、新進気鋭の画家、ミロコマチコさんとの初のえほんになります。

この物語はゾウガメの視点で進んでいきます。
ゾウガメの寿命は100年とも150年とも言われていて、250年生きていた例もあるくらい長寿な生き物です。対してヒワは野生下で2〜3年ほどだそうで、ゾウガメと比べると一瞬にも思えるような短さでしょう。
そんなヒワとゾウガメは友人ですが、ゾウガメは今までの経験から、どんなに仲良くなったってすぐにいなくなってしまうと知っています。だから、このヒワともあまり仲良くしたくないのです。悲しみで傷つくのがわかっているから、自分を守るためにはそうするより他にどうすることもできません。
でも、そんなゾウガメに、ヒワは気にせずにどんどん話しかけます。ヒワはとてもおしゃべりなのです。

ある日のこと、「ねえ、海の向こうにゾウっていう生き物がいるんだって!同じゾウという名前を持つのだから、あんたの仲間じゃないのかしら!?」とヒワはこの素敵な情報をゾウガメに話しました。
その妙なゾウという生き物は、ゾウガメと同じ、100年も生きるとのこと…それなら、もう寂くなくなるかもしれない。
ゾウガメは嬉しくなりました。

安東さんの文章の洒落ているところはたくさんありますが、この喜びの表現、「互い違いに足を浮かせた」となっています。
グッと押さえ込んだゾウガメのストイックな喜びが伝わってきませんか?
この時、ゾウガメは自分のために長寿の生き物を探してきてくれたヒワに対してではなく、まだ会った事もない「ゾウ」に対して期待をして喜ぶわけですが、本当にそれはゾウガメにとっての幸せなのでしょうか?

このえほんを読んで、深く考えさせられるのは、綺麗事ではなく、「ゾウガメにとっての幸せとは何だろう」という事です。
ゾウガメは100年生きる。人間と似ていませんか?
生きている中で、共に過ごす誰かのことを思い描いてください。その誰かとはどれくらいの間、時間を共に過ごしていますか?その時間の長さは、その関係の深さと比例するでしょうか?
わたしは、そりゃもちろん関係なくはない、と思います。でも、付き合いが長いからといって、深くその人を知りたい、理解を深めたいと誰にでも思うわけではないですよね。

ヒワは、小さい弱い鳥なのですが、その小さい体に詰まった生きる力が絵から溢れてくるようです。
ゾウガメの一生のうちでこのヒワと過ごす時間は一瞬ですが、「僕が100年、覚えているから」と自分自身に約束をします。覚えていることで、ヒワが本当にこの世から姿を消す日がやってきても、ゾウガメの体から消えることはないのです。
ただ、覚えていると約束しているだけなのに、こんなにも胸が締め付けられるほどの気持ちになるなんて、ことばと絵の持つ力に改めて感動します。
自分にとって、100年忘れずにいようと思える誰か、って誰だろう。

忘れる、ってネガティブに思われがちですが、忘れることで何かが始まる事もありますし、逆にずっと忘れないことで、気持ちを表す事もできます。
忘れることと忘れないことを自分で選んでいきたいなと思いました。

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