4、5歳、入学準備が気になる年長さんの夏の時期、今年はコロナでいったいどうすればを専門家に聞く
緊急事態宣言は解除されましたが、まだ油断を許さない状況が続く中、もうすぐ訪れる本格的な夏。
年長さんにとって就学前最後の夏は、さまざまなことにチャレンジしたいところですが、今年はそういうわけにもいかないかもしれません。
「年長さんの夏の過ごし方」について、目白大学人間学部子ども学科准教授・荒牧美佐子先生に話を聞きました。
子どもの「やってみたい!」はどうやって引き出す?
――9月入学の可能性もいったんなくなり、来年の4月に小学校入学を控える今の年長さんですが、この夏はどのように過ごせばいいでしょうか?
荒牧先生(以下敬称略) 来年の4月がどのような、どういう形での入学になるかはっきりとわからないので難しいですね。
例年であれば、保育園や幼稚園では最終学年として集団生活の総仕上げとして大切な時期ですが、小学校に入学したあとの生活が読めないところもあり、先生たちも頭を悩ませていると思います。
そんな中で家庭にできることがあるとすれば、生活面で身のまわりのことを自分でできるようにしておいたり、生活リズムを崩さないようにしておくといいのではないでしょうか。
――例年に増して、家庭の役割が重要になってきそうですね。
荒牧 そうですね。ただ、家庭の中だと“みんなでやればできる”という経験ができません。
大人と一緒にやるのと、同じ年の子どもとやるのとではやはり違うので、そのあたりを工夫できればいいのかな、と思います。
――ママやパパはどのような働きかけをすればいいのでしょうか?
荒牧 まず、ママやパパが一方的に「ここまで仕上げておかないといけない」と思わないことが大事です。
家庭って、言ってみれば一対一の家庭教師のような状態になっているわけで、よくも悪くも全部見えてしまうんですよね。
集団生活であればもっとおおらかにとらえられる部分もあると思いますので、大きな枠だけ決めてあとは子どもの自主性に任せるくらいがいいと思います。
「ここまでやっとかなきゃいけないよね」っていう目的ばかりに目がいってしまうと本末転倒なので、そうならないように気をつけて見守るというのは大事ですね。
――確かに、親は結果に目がいきがちですが、どのような過程を作ればいいのでしょうか?
荒牧 たとえば、小学校入学までに自分の名前が書けるようになっていたほうがいいとすると、名前のお手本と紙を並べて「さあ書いてごらん」とするのではなく、書くこと、読むことが楽しいと思えるようにするんです。
年長さんになると家庭での絵本の読み聞かせって極端に減っていることが多いのですが、あえてそれを復活させるのもいいと思います。
自分で絵本を読める子どもも増える年齢ですが、小さいころの雰囲気とは違う感じで読み聞かせたり、あるいは絵本よりも絵が少なくて文が多い、いわゆる幼年童話といわれる本を読んであげるのもおすすめです。
――そういったところから文字に興味を持つことができるんですね。
荒牧 そうすると、だんだん自分でもそういう本を読むようになり、それが「書いてみたい」という気持ちにつながることも。
子どもが萎縮(いしゅく)してしまうのがいちばんの遠回りなので、まずは楽しいと思える環境を作ってあげるといいでしょう。
やる気スイッチのカギはお手伝い!?
――年長さんは、子どもにとってはあこがれの存在であり、園でもリーダー的存在ですよね。
そんな中で子どもに「年長さんなんだから〇〇しよう」といった声かけを子どもにすると率先してやってくれることがあるのですが、先生から見てこの声かけってどうですか?
荒牧 もうすぐ小学生ということを喜んでいて、その声かけで調子を上げていける子であれば問題ないと思います。
しかし、子どものタイプによってはそういった言葉をプレッシャーに感じて萎縮(いしゅく)してしまう子もいるので、そういった子に対しては使わないほうがいいかもしれませんね。
――わが子がどちらのタイプかっていう見極めはしっかりしないといけないんですね。
荒牧 “あこがれ”とか“かっこよくなりたい気持ち”ってとても大事だと思うんです。
同じ課題をやるにしても、「やらないと怒られるからやる」という子と「やれる自分がかっこいい、望ましいと思うからやる」という子では、後者のほうが非認知能力も高くなり、その後の成長が大きく変わってきます。
その子が次にどう伸びていくか、その達成感を自分から求めうるようになるか、ということを考えると、過程を無視してスキルだけを身につけさせることがいいとは言えません。
――そういった達成感を自分から求められるようになるために、家庭でできることはありますか?
荒牧 そういった意味では、お手伝いはとてもいいと思います。
「小学生になるんだからちゃんとしなさい」というような漠然とした伝え方だと難しいので、その子の役割を決めてあげるといいと思います。
ごはんの前には食器を並べるとか、簡単な料理の盛りつけをする、お花に水をあげる、など内容は何でもいいので、まずは子どもができること、やりたいと思えることから始めてみてください。
やるべきことがわかってそれに乗っかるって気持ちがスッキリする部分もありますし、お手伝いをルーティンとすることで生活のリズムの一つになりますよ。
――お手伝いという家族内での役割を与えることで達成感を得られるんですね。
荒牧 達成感を得やすくするには、“できたらほめる”ということが大切です。
ほめられることなく、当たり前になると飽きちゃうかもしれないので、そこがママとパパの最初踏ん張りどころですね。
ほめるときは「助かった〜!ありがとう!」、「さすが年長さんは違うね〜!」って少し大げさなくらいでいいと思います。
――もし、子どもがお手伝いに前向きになれないときはどうしたらいいでしょうか?
荒牧 そのときは、どんなことをやりたいかを聞いて、「〇〇係さん!」などの子どもが喜ぶ声かけをしてあげると気分が乗って「しかたないな〜」なんて言いながらお手伝いをしてくれるかもしれません。
基本的には大人と一緒で、子どもも誰かに頼られるとうれしいんですよね。
「みんなの役に立っているんだ」という
経験が自信につながります。
大人が大人の役割を放棄しない範囲で、子どもに頼ることで、いつの間にか本当に頼れる存在になっていくのではないでしょうか。
お話・監修/荒牧美佐子先生 取材・文/大月真衣子、ひよこクラブ編集部
荒牧先生によると、自分の役割としてお手伝いを続けていくと、「今度はこうやってみようかな」と言って工夫をしたり、「次はこれがやってみたいな」と言ったり、自らステップアップするんだそうです。
自宅にいる時間が長くなりそうな今年の夏は、家庭で子どもに自信をつけられるチャンスなのかもしれません。
荒牧美佐子先生(あらまきみさこ)
(目白大学人間学部子ども学科准教授)
お茶の水女子大学大学院博士後期課程修了。発達心理学を専門とし、著書に「子育て支援の広がりと効果」「発達科学ハンドブック 第6巻 発達と支援」(新曜社)がある。