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500gで生まれた息子、育児と仕事で悩みながら進んだ道は…【写真家・田尾沙織インタビュー】

更新

*写真は、奏ちゃんの退院日。田尾さんに抱っこされて、奏ちゃんもご機嫌。退院着に50cmのロンパースを用意したら、まだブカブカでした。

広告撮影などで活躍する写真家・田尾沙織さんは5年前、わずか500gの男の子・奏(そう)ちゃんを出産。奏ちゃんの入院は256日におよびましたが、田尾さんは毎日、病院に通いながらも仕事を継続。退院後も保育園に預けながら、本格的に仕事をしています。田尾沙織さんに、小さい赤ちゃんの子育てと仕事の両立について話を聞きました。

妊娠7カ月で予期せぬ出産。つらい思いは写真に救われた 

*写真は、もうすぐ1歳4カ月のとき。つかまり立ちが上手にできるように。

日本写真芸術専門学校を卒業し、同年、第18回写真ひとつぼ展グランプリを受賞。10代のころからの夢をかなえて、広告や雑誌、映画スチールなど幅広い世界で活躍する写真家・田尾沙織さん。

妊娠中も、新生期のわが子の写真を撮ることを楽しみにしていました。しかし事態は一転。

「妊娠7カ月の定期健診で医師から“赤ちゃんが小さいから、すぐに入院して”と言われて。予定外の早産で、わずか500gで出産。全身が真っ赤でとってもやせていて、てのひらに乗るぐらい小さいわが子を見たときは、罪悪感を覚えて、持っていたカメラを向けることができませんでした。でも医師から“72時間が山”と宣告されて、奏ちゃんが生まれてきた事実を残したいと思い、カメラを向けるようになりました」(田尾さん)

著書「大丈夫。今日も生きている」には、田尾さんが病院で撮影し続けた、奏ちゃんの命の奇跡がおさめられています。

「私はずっと奏ちゃんを抱っこすることも、直接、母乳をあげることもできなかったのですが、奏ちゃんの写真を撮ることで、私は親子のつながりを感じていました。病院に行くバスの中で、デジカメの画面を見ながら、何度、奏ちゃんに励まされたか。あらためて写真が持つ力を痛感しました」(田尾さん)

仕事を続けられるのは家族の助けがあるから! 保育園入園後は、なんと病気知らずに

田尾さん自身は、産後1週間ほどで退院するものの、奏ちゃんの入院は256日におよびました。田尾さんは毎日、電車とバスを乗り継ぎ片道1時間ほどかけて病院へ。そんななかでも、撮影の仕事は継続。奏ちゃんが退院後も仕事は続けました。

「1歳のときは、月10日ぐらい一時保育を利用して仕事をしていました。1カ所の保育園だと空きがないときもあるので、3カ所の保育園を利用していました。保育園に入園できたのは2歳からです。私の仕事は、土日や早朝の撮影もあるので、保育園に預けられないときは、パパやパパの実家にお願いしています。家族の助けがないと、私、1人では仕事はできません」(田尾さん)

小さく生まれた赤ちゃんは、免疫力が弱く感染症にかかりやすいリスクもあります。奏ちゃんも、入院中は原因不明の感染症で何度も発熱したりしています。保育園に預けるとき不安はなかったのでしょうか。

「退院のときは、呼吸器の持ち帰りもなく、薬は鉄剤(インクレミン)とアルファロール(ビタミンD)の2種類だけ。在宅医療もなかったので、とくに不安は感じませんでした。
不思議なのが、特別な感染予防などしている訳ではないのですが、保育園に通っていてもまったく感染症にかかりません。乳幼児がよくかかる手足口病やヘルパンギーナなどもかかったことがなく、風邪をひいても軽症。こんなに丈夫になるとは思いませんでした。
赤ちゃんが小さく生まれると、病気などを心配して仕事をあきらめるママもいるかもしれませんが、2年後、3年後はどうなるかわかりません」(田尾さん)

仕事をしている間は、不安や悲しみが忘れられた

*写真は、4歳のとき。小柄だけどなんとか成長曲線にも入り、予定していた手術もすべて終えて、ほっとひと安心。

田尾さんが早い時期から仕事を再開したのは、フリーランスという仕事柄も大きかったようです。

「私はフリーランスのカメラマンなので、仕事を断り続けていると、だんだん仕事の依頼が来なくなります。フリーランスの宿命です」(田尾さん)

しかし、早期に仕事を再開したことがよかったと言います。

「たとえば私の場合は、病院の行き帰りに赤ちゃんを連れてお散歩しているママや、おなかが大きな妊婦さんを見ると“みんなが普通にできていることを、なぜ私はできなかったんだろう…”と自分を責めて、苦しかった時期があります。それに奏ちゃんの将来を悲観して、落ち込んだこともあります。でも仕事の現場に行くと、そうした不安や悲しみが一瞬でも忘れられました。そうした時間がないと、考え方がどんどん後ろ向きになってしまいます。
自分と子どもの人生のバランスを考えたとき、子どもだけに比重を置くのは違うのかな!? と私は思っています」(田尾さん)

また小さく生まれた赤ちゃんは、発達の遅れも心配です。奏ちゃんは今5歳、保育園の年中クラスですが、手先の不器用さや言葉の発達、多動傾向などが気になるといいます。

「3歳10カ月のときに、軽度の知的障害が認められて“愛の手帳”をもらいました。今は、少しでも成長を促せるように療育に通っています。また小学校に入学したらサポートが必要なので、通級指導教室を利用しながら公立の小学校に通わせるか、障害のある子も共に教育を受けられるインクルーシブ教育を取り入れた私立小学校にするかなど、今、悩んでいるところです。子どもが成長すると、だんだん教育費などもかかりますよね」(田尾さん)

お話・写真提供/田尾沙織さん 取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部

奏ちゃんは、今、5歳。最近は田尾さんの仕事の内容も理解し始め、先日は田尾さんが撮影した広告パネルをバックに親子で写真を撮ったそうです。
また保育園では、お友だちと遊ぶことが大好き! お友だちからいい刺激をいっぱい受けて、健やかに成長しています。田尾さんも「奏ちゃんの発達を理解して、気にかけてくれる園の先生たちに出会えてよかった」と言います。働くことは経済的なことだけでなく、人とのつながりも豊かにしてくれます。もし仕事のことで悩んでいるママがいたら、赤ちゃんの状態とママの気持ちが落ち着いてから、前向きに考え直しててもいいかもしれません。


田尾沙織さん(たおさおり)

Profile
写真家。2001年、第18回写真ひとつぼ展グランプリ受賞。写真集は「ビルに泳ぐ」(PLANCTON)など。雑誌や広告などで幅広く活躍する。近著に、わが子の出産・入院・成長をつづった「大丈夫。今日も生きている」(赤ちゃんとママ社)

●大丈夫。今日も生きている

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