パパが料理、女の子が王子様 ジェンダーをテーマにした絵本が、世界で増 読み聞かせにも【専門家】

ジェンダーとは、社会的・文化的に作られる「男女の性差」のことです。
「女性(女の子)だから〇〇するべき」「男性(男の子)なのに、××したらおかしい」というような状況はやめて、ジェンダーにとらわれず、それぞれの個性や資質に合った生き方を選んでいくことが大切なのではないかと考え始められています。
世界ではジェンダーフリーをテーマにした幼児向けの絵本も発売されるなど、子どものころから考えていくことが大切とされています。絵本に詳しいJPIC読書アドバイザー 児玉ひろ美先生に、ジェンダーフリーの絵本について聞きました。
海外の絵本には、パパが料理を作ったりする日常がごく自然に描かれています
児玉先生によると、ジェンダーをテーマにした絵本が、世界で増えてきたのは90年代からだと言います。ジェンダーフリーの絵本は日本でも注目されていて、ここ数年、書店に専用コーナーが設けられたりすることもあるとか。
「ジェンダーフリーを考えるような絵本は、外国のものが多いです。
たとえば2002年に日本でも発行された、アメリカの絵本『ぼく、ムシになっちゃった』は、ある朝、目を覚ますと主人公の男の子が虫になっている話です。お父さんがごく自然にキッチンに立って朝食を作ったり、子どもにお弁当を作って渡したりします。お母さんは、新聞を読みながら、朝食を食べています。日本の絵本では、ほとんど見られない光景でしょう。
私は、絵本は社会をうつす鑑だと思っています。とくに海外の絵本は“料理や子育ては、女性がするもの”など男女の役割などにこだわらない絵本が多いので、ママやパパが見ても新鮮に映るのではないでしょうか」(児玉先生)
『ぼく、ムシになっちゃった』
文・ローレンス・デイヴィッド、絵・デルフィーン・デュラーンド、訳・青山南/小峰書店
※現在、販売はしていません
バイアス(偏見・先入観)を持っているのは大人のほう。子どもは素直に受け入れます
『レッド あかくてあおいクレヨンのはなし』は、本当は青いクレヨンなのに、赤いラベルを貼られたクレヨンの話で、アメリカ図書館協会のレインボーリスト(LGBTQの青少年向け推薦図書)にも選ばれた絵本です。
「レッドは、本当は青いクレヨンだから、赤い色で塗ることが得意ではありません。努力はするけどうまくいかなくて…。
以前、幼稚園で『レッド あかくてあおいクレヨンのはなし』を読み聞かせたとき、子どもたちは“ちゃんと見てあげないとダメだよね”“僕は、青いクレヨンだってわかっていたよ”などと口々に感想を言い合っていました。
子どもたちは“自分は自分でいい”という自己肯定感の芽をきちんと持っています。バイアス(偏見・先入観)を持っているのは実は大人のほうで、子どもは大人が不用意な吹き込みをしなければ、ジェンダーへの偏見は持ちにくいのではないでしょうか」(児玉先生)
日本の絵本でも、もちろんジェンダーをテーマにしたものはあります。国内でジェンダーフリーを意識した絵本が増えてきたのは2000年以降です。
「以前は、元気で活発、力持ちというと大抵男の子が主人公でした。しかし21世紀になってからは、元気で力持ちの女子が登場する絵本も多くなりました」
また『おやおやじゅくへ ようこそ』は、生徒が大人で、先生が子どもたち。子ども目線で物事を考えていく絵本で、たとえば「劇で女の子が王子様、男の子がお姫様役をやりたいと言ったら、親はどうしますか?」などと考えさせるシーンも出てきます。親の価値観を柔軟にしてくれる1冊です」(児玉先生)
『レッド あかくてあおいクレヨンのはなし』
作・マイケル・ホール、訳・上田勢子/子どもの未来社
『おやおやじゅくへ ようこそ』
作・浜田桂子/ポプラ社
多文化共生をテーマにした絵本にも注目が!
ジェンダーのほかに、今、絵本の世界では“多文化共生”をテーマにしたものも増えてきていると言います。
多文化共生とは、国籍や民族など異なる人々が、互いの文化の違いを認め合いながら対等な関係を築いていくことです。日本でも国土交通省や総務省が、多文化共生の推進を呼びかけています。
「世界中で起こるテロやヘイトスピーチなど、人間同士の憎しみ合いや戦いが怖くなった女の子を主人公にした絵本があります。
今は、幼稚園や保育園、小学校でも外国から日本に移り住んで通っている子どもたちが多くいます。そのため、多文化共生をテーマにした絵本を読み聞かせる園も出てきています。
ただし私は、ジェンダーも多文化共生も解説が多くなったり、大人の価値観や意見を押しつけたりするような読み聞かせ方はおすすめしません。もし子どもが否定的な意見を言ったら“どうして、そう思うの?”“そうかな?”と優しく聞いてあげてください。ジェンダーや多文化共生の問題は、子ども自身で考えることに意義があると思います」(児玉先生)
お話・監修/児玉ひろ美先生 取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
児玉先生は「ジェンダーも多文化共生の絵本も特別視せずに、身近な絵本と考えて読み聞かせたほうがいい」と言います。書店でも特別なコーナーや、本の帯に「ジェンダーを考える絵本です」などの文言が記されていることもありますが、本来はそうしたことに違和感を覚えるべきでないか、とも。
構えすぎずに、いろいろな国の絵本に触れてみましょう。子どもだけでなく、ママやパパも「こんな考え方があるんだ…」といい刺激を受けるかも知れません。
児玉ひろ美先生(こだまひろみ)
Profile
公立図書館司書とJPIC*読書アドバイザーの立場から、子どもの読書推進活動を展開。幼稚園・保育園から中学生まで、お話し会やブックトークを行う。「2021・2022・2023年度ブックスタート赤ちゃん絵本 選考委員」も務める。著作に『0~5歳子どもを育てる「読み聞かせ」実践ガイド』(小学館)など。
*JPIC(ジェイピック):一般財団法人 出版文化産業振興財団