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「男性の育休」進まないのは同調圧力のせい?義務化がなぜ今議論されるのか

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ワンオペ育児、孤育て、長時間労働、少子化…。本特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも育てやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。今回のテーマは「男性育休の今」について。全3回の連載です。

少子化対策として期待される一方で、反対の声も……

政府が2020年7月に発表した「骨太方針2020」でも言及されるなど、急速に注目が集まっている「男性の育休取得」。

日本経済に深刻な影響を与える人口減少の突破口として期待されている一方、「男性育休の義務化」には中小企業の7割が反対しているというニュースやSNSでの「#義務化反対」の声も……

なぜ今、男性育休の義務化が必要なのか。そもそも取得者が増えない理由は?

男性育休義務化の、ウソ・ホントについて、『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる』の著者である小室 淑恵さん、天野 妙さんにお話を聞きました。

なにかと誤解が多い? 男性育休義務化の議論

画像:小室 淑恵さん(左)天野 妙さん(右)

――小室さん、天野さんは「男性の育休義務化」に取り組まれています。男性の育休‟推進”に留まらず、“義務化”を提言されたことで、どのような反響がありましたか。


天野さん(以下敬称略) 「男性の育休義務化」議論を聞いて、「えっ?義務ってどういうこと?」と戸惑われた方もいたのではないかと思います。SNS上でも「育休を取りたくない人まで絶対に取得しないといけないの?」という疑問や不満の声をよく目にしました。

これは多少議論を巻き起こす効果を狙った所はありましたが、誤解です。今回の議論での義務化の対象は 「企業」であり、個人ではありません。企業は育休取得対象者に対して取得する権利があることを必ず説明する義務がありますよ、という内容を示した制度なのです。

男性に「なぜ、育休をとらなかったんですか?」と聞くと、「そもそもウチの会社には、男性育休の制度がない」と返答されることがあります。実は、これが最もよくある誤解です。育休は申請すればすべての社員が取得できるもの。申し出があった場合、企業はそれを拒むことができないと法律で定められています。企業に対して、社員への周知義務を課せば、これらの誤解も自然と解消できるはずです。


小室さん(以下敬称略) 活動初期のころは、「男性が育休を取っても、まともに育児をしないのではないか」という意見もよく耳にしました。「家事も育児もできない(しない)夫が、家にいても迷惑なだけでしょう?」と。

ただ、この反応は、この半年でずいぶんと変化している印象があります。コロナ禍で夫婦一緒に過ごす時間が増えたことの影響もあるかもしれません。家庭のなかで母親がどれだけ家事や育児を担っているか、目に見える形でわかったでしょうし、父親側も「やってみたら意外とできた」「思っていたよりも出来ることはある」という感覚を得られたのかもしれません。2020年6月に発表された内閣府の調査でも、49.9%の人が「コロナ禍において家族の重要性をより意識するようになった」と回答しています。

もともと「男性が育休を取っても、やれることはないだろう」と言っているのは、すでに子育てを終えている世代が多いのです。これから育休をとる20代・30代の男性は、想像以上に、家事も育児もやります。家庭にコミットしたいとも思っている。だから、その思いを邪魔せず、応援していく政策が必要なのです。

取引先から圧力をかけられて、育休取得を断念したケースも

Getty Images

――男性の育休取得率は2020年時点でわずか「7.48%」。著書『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる』でも、「男性本人の意識への働きかけだけでは限界がある」と書かれています。男性の育休取得はなぜ進まないのでしょうか。


小室 日本企業特有の仕事の進め方に問題があると考えています。日本企業の場合、多くの組織において、川上から川下まで何でも一人に任せる風潮があります。これは長期でバカンスをとる国ではありえない話です。この属人的な仕事のやり方によって、一人が休めば仕事が回らないような体制がつくられており、責任感の強い男性ほど育休をとることが事実上できないような仕組みになっています。

取引先から「まさか、うちの担当に育休をとらせるつもりじゃないだろうな?」と圧力をかけられて、育休取得を断念したケースもあります。企業経営者は自社の社員に育休をとらせたいけれども、取引先との関係や競合優位性を考えて、取得を押しきることができないようです。

同調圧力の強い日本企業で、男性本人の意思や企業ごとの判断に任せながら、取得率を上げることは困難です。企業に対して政府が何らかのルールを設定して、ゲームチェンジしていく必要があります。

「男性の育休義務化」が女性の命を救う

――妊娠中あるいは乳幼児を育てている女性が、夫に「育休をとってほしい」と思っていても、夫側にその意思がなかったり、勤める会社の理解が得られなかったりするケースがあるかと思います。その場合、妻は、どのようにアクションを起こしていけばよいでしょうか。


天野 男性育休への理解がない人がいたら、まずはこの本(『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる』)をそっと手渡してほしいです(笑)。そのために書いた本ですので。
私はこれまでに3人の子を出産していて、夫は育休をとるチャンスが3回あったのに、実は1度も取得していません。それは私も、夫も、男性の育休取得について正しい知識を持っていなかったから。誤解していたことがたくさんありました

たとえば「育休を取得すると収入が激減するのではないか」という不安って、ありますよね? ただ、社会保険料の免除などがあり、実際の手取り額を計算してみると「予想より減らない!」という印象を抱くと思います。平均的な会社員なら手取りの8~9割程度が給付されるのです。

他にも「昇進や昇格、ボーナスに影響があるのでは?」と心配するのであれば、会社の制度を詳しく調べてみましょう。会社によって異なるので、2か月とっても全く影響がない企業もあれば、期をまたぐと昇格に影響があるなど、さまざまです。事実をあきらかにして、一つずつ不安や心配をとりのぞいていくことが大切です。


小室 私が、企業経営者に男性育休の重要性をわかってもらうために話すのは、「産後1年までに死亡した妊産婦の死因で最も多いのは自殺です」ということ。自殺の要因として考えられるのが「産後うつ」ですが、産後うつの発症リスクは、産後2週間~1カ月がピークだと言われています。

男性社員が育休をとりたいというと、「この繁忙期にとらなくてもいいじゃないか」「目の前の納期を優先してくれ」という話が出てきます。でも、これは命の問題なのです。命を救う話なのです。産後うつを防ぐには、産後1カ月以内の今、男性が育休をとる必要があるとわかっていただきたいのです。

産後はホルモンバランスが大きく崩れるわけですが、そのときに7時間の睡眠がとれて、うつを防ぐセロトニンというホルモンを増やすべく「朝日を浴びて散歩」することができたら、どんなにいいでしょう。そんな生活はワンオペではとうてい無理ですよね。たった2週間でも1カ月でも夫が育休をとり、家事や育児を支えて、妻が休める時間をつくることが、妻の命を救うことになります。


天野 「男が育休をとっても意味がない」という意見を耳にしますが、きちんとワンオペで家事育児を行った当事者の男性から、この言葉を耳にしたことは一度もありません。夜泣きの対応をしたり、妻の家事・育児負担を減らしたりすることが妻の命を救うことに繋がると、ワンオペ育児の経験を通して肌感覚でわかっているからだと思います。

人生の中で、家庭よりも仕事を優先してしまう気持ちは、私もよくわかります。一生懸命に働いていた女性ほど、「夫の仕事や昇進の邪魔をしてはいけない」と思うものです。ただ、妊娠をきっかけに、今一度立ちどまって、夫婦でよく話し合ってみてほしいのです。「そもそも、なんのために働いているのか」「なぜ結婚し、子どもを育てるのか」。もしかしたら、人生のための仕事ではなく、仕事のための人生になっているかもしれません。育休をとるかどうかを含めて長期的な視点で、人生にとって今一番大切なものは何なのか、先の1年、5年、10年のイメージと共に夫婦で話し合っておくことが大切だと思います。


小室 興味深いデータがあるのですが、東レ経営研究所の渥美由喜氏が示す「女性の愛情曲線」によると、子どもが独立したあと、女性の愛情が下降してそのまま「愛のない夫婦」になるか、愛情が徐々に回復して「愛のある夫婦」になるかは、出産直後から乳幼児期の夫のふるまいにかかっているそうです。子どもが1歳になるまでの期間が、これから何十年と一緒にいる夫婦生活のターニングポイントになる。産後1年は、時間分の給料を得たり、職場での地位を築いたりするのと比較にならないほど、時間と労力を投資する価値のある1年なのだということを知っていただけたらと思います。



「男性の育休」をテーマにした本連載。次回は、男性育休の取得に積極的に取り組んでいる企業の事例等を紹介します。

取材・文/猪俣奈央子

Profile

【小室 淑恵】
株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長。資生堂を退社後、2006年に株式会社ワーク・ライフバランスを設立。1000社以上の企業や自治体の働き方改革コンサルティングを手掛け、残業を削減し業績を向上させてきた。その傍ら、残業時間の上限規制を政財界に働きかけるなど社会変革活動を続ける。ワークライフバランスコンサルタント養成講座を主催し、卒業生は約2000人。著書に『働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社』(毎日新聞出版)『プレイングマネジャー 「残業ゼロ」の仕事術』(ダイヤモンド社)他多数。

【天野 妙】
合同会社Respect each other代表、みらい子育て全国ネットワーク代表。日本大学理工学部建築学科卒業。株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)等を経て、性別・役職・所属・国籍に関係なく、お互いが尊敬しあう社会づくりに貢献したいと考え、起業。ダイバーシティ/女性活躍を推進する企業の組織コンサルティングや、研修など、企業の風土変革者として活動する傍ら、待機児童問題をはじめとした子育て政策に関する提言を行う政策起業家としても活動中。

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