読み聞かせで子どもの能力に差がつく!「ダイアロジック・リーディング」ってなに?_『ハーバードで学んだ 最高の読み聞かせ』著者インタビュー(前編)
ハーバード大学教育学大学院にて、本書のテーマである『ダイアロジック・リーディング』に出会い、研究を重ねていらした加藤映子先生。ダイアロジックとは「対話(dialogue)の」という意味の形容詞。『ダイアロジック・リーディング』とは、ひとことで言うと「対話しながらの読み聞かせ」です。では、読み聞かせ中に何を話しかけるのか? その結果、どんな力が育つのかなどを聞いてみました。
日本とアメリカの学習法の違いに驚く
絵本の読み聞かせをする際に、日本では絵本に書かれた言葉だけを読み上げるのがよしという風習があるようです。それは、「情感を楽しむ」「想像力を働かせる」ためだとも言われますが、加藤先生のご著書では、親がどんどん子どもに質問することが推奨されています。
―――日米の「読み聞かせ」に対するスタイルの違いはどうして生まれたのでしょうか?
加藤先生(以下敬称略) そもそも私たち大人が受けてきた教育が、教壇に立つ先生の話を黙って聞くというスタイルが主だったからでしょう。授業で先生から「あなたはどう思う?」なんて聞かれることはない。だから、自分の子にも同じように接してしまうのです。
私は小さい頃、あまり勉強が好きじゃありませんでした。なぜかというと、覚えることが多くて、テストも記憶力が試されるものばかり。それが面白くなかったのです。それで、アメリカに行き、講義の中で常に「あなたはどう思う?」と聞いてもらえること、そして「答えはひとつじゃない」という教育を受けて、すごく楽しくて勉強が好きになりました。
―――確かに、親の世代の学生時代は「こうしなさい」という指導型が多く、みんなに合わせることが求められ、個々の意見を尊重される経験が少ないかもしれません。
加藤 私は英語教育の先輩たちと仕事をするなかで、試験の作り方も学習しました。そのときに学んだのは「理由を問うような質問がよい」ということです。「正しいものを選びなさい」のような質問ではなく、「どうしてこうなったと思う?」とか「このあと、どうなると思う?」「なぜ、そう思う?」と、本人の意見を引き出す質問です。
言葉を使うというのは創造的なこと。小さい頃はまず言語力を育てることからはじまりますが、そこで獲得した言葉を使って思考することを育むことが大切です。
―――アメリカでは幼い頃から思考力を育むことが意識されているのですか?
加藤 読み聞かせに関する文献には、アメリカのA、B、Cの地区で子どもの学力に差が出ているとありました。A地区は読み聞かせの間や後に「どうなったらいいと思う?」と、子どもの意見を聞いている。B地区は「これはなに?」「あれはなに?」だけを聞いている。そしてC地区は全く読み聞かせをしないというもの。すると、小学校3年生くらいから、子どもたちの能力に差が出てくるのです。アメリカでは小学校高学年くらいから、自分の意見をたずねる問いが増えるのですが、「あなたなら、どうする?」と聞かれたとき、A地区の子はスラスラと答えられるけど、B地区やC地区の子は自分の意見をたずねられた経験がないから、なかなか答えが見つからないのです。
質問のパターンを頭に入れておけばOK
私たちは未経験のことをやるのは難しいもの。宿題で作文や読書感想文を書くときにも、「あらすじを書くのでなく、自分の気持ちを書け」と言われても、何を書けばよいかわからなくて困りました。読み聞かせ中に子どもに質問することも、あまり経験がないため、最初は「何を聞けばいいの?」と戸惑うかもしれません。
―――質問する親側の感性が問われる気がしますが、誰でもできるものですか?
加藤 最初から難しい質問をしなくてもいいんです。はじめは絵を見ながら「これ、なあに?」でいい。それはきっと、すでにママたちがしている質問でしょう。そのとき、子どもの返事を受け、それを少し膨らませて返してみてください。「いちご!」と子どもが答えたら「そうね、いちごは何色?」「赤!」「赤いいちご。美味しそうね」「ケーキにのってたね」などと会話することで、「いちご」にまつわる語彙が増えていきます。子どもはママやパパとお話しするだけでも楽しいので、質問してくれるのがうれしくてやりとりを喜びます。
―――それはできそうです。先ほどの「理由を聞く」質問はどうしたらいいですか?
加藤 読み聞かせをしながら、おしゃべりすることに慣れてきたら、もう一歩踏み込んで、「じゃぁ、あなただったらどうする?」と聞いてみてください。「これ、なあに?」の質問には答えがあるから簡単。子どもに考えさせるためには、もう一歩踏み込むことが必要ですが、それもパターンがわかれば、あとは繰り返せばいいのです。アメリカの絵本は最後に「このあと、どうなると思う?」とか「きみが主人公だったら、このあとどうする?」と書いてあることが多いですが、これらのパターンを覚えておけば、読む絵本を変えれば、子どもが考えることが変わるので大丈夫なのです。
おすすめの質問
「あなただったら、どうする?」
「この先、どうなると思う?」
「どうして、こうなったと思う?」
「なぜ、そう思うの?」
これらの質問パターンを頭に入れておけばいいのなら、読み聞かせ中の質問選びもハードルが低くなりますね。後編は、ダイアロジック・リーディングで育つ力や、子どもの答えの受け止め方などについて伺います。(取材・文/江頭恵子)
思考力・読解力・伝える力が伸びる
ハーバードで学んだ最高の読み聞かせ
(かんき出版)