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「全米最優秀女子高生」を育てた母、子どもの笑顔を作るためには「ときには手抜き」も必要

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一人娘のスカイさんの笑顔を作るのは、ママである私しかできない仕事と話すボークさん。(写真提供:ボークさん)

留学時代に知り合ったアメリカ人男性との結婚を機に生活の場をアメリカに移したボーク重子さん。文化も違う、知り合いもいないアメリカで、一人娘のスカイさんを育てながら、経済的にもひとりの女性としても自立することをめざしました。2017年には、スカイさんがアジア系の学生として3番目、日本人では初めて「全米最優秀女子高生」となり、その母であるボークさんも注目を浴びました。現在は、ライフコーチとして、アメリカ、日本における子育て中のママから絶大なる信頼を集めています。

一人も知り合いがいない、文化の違うアメリカで、日本人としてのアイデンティティーを大切にしながらも、常に前進し続けて来たボークさんの人生と考えに迫ります。

前編では、アメリカで得た、ママにしかできない「子どもの笑顔」を作るための方法をお聞きします。

これからは個性のある人が生き残る時代に

――― ボークさんのこれまでの人生を振り返って感じることはありますか?

ボークさん(以下敬称略):今の私があるのは2年間の専業主婦という時間があったからこそだと思っています。結婚当初は専業主婦にあこがれていましたが、実際にそうなってみると思っていた以上に大変。主婦の仕事ってやってもやっても終わらないし。自分でも周りからも完璧を求められているような気がして、自分が何をしているのかわからなくなっちゃって。とりあえず一呼吸おこうと毎日自分の時間を作るようにしたんです。その時間に、何が好きか嫌いか、何に興味があって得意なのかということを一生懸命考えました。そのおかげで、いろいろなことに目を向けることができるようになった気がします。

――― 日本で生まれ育ったボークさんがアメリカでお嬢さんを産み育てて、文化や考えの違いなどを感じることはありましたか?

ボーク:アメリカでは人と違うこと、「出る杭」は最強最大の武器です。誰もがどうやったら自分を差別化できるかということにフォーカスしています。まさしく個性の国です。この国では個性が全てです。日本で「この人個性的よね」っていうとネガティブな感じがしますが、それではこれからの厳しい競争社会を生き抜いていくのは難しいと実感しています。日本でも、個性がある人が生き残っていける社会に変わっていくのではないでしょうか。

ママしかできない仕事は「子どもの笑顔」を作ること

大切なのは「子どもの笑顔」。一人娘のスカイさんも素敵な笑顔です(写真提供ボークさん)

――― 子育てに関しての考え方も違いますか?

ボーク:アメリカでは、子育てで大切なのは、子どもが好きなことをいっぱいさせて、「笑顔」になる時間をたくさん作ろうということ。ここが日本と大きく違うところですね。きちんと子育てをするっていう感覚はないのかなって思うくらい細部にこだわらないですね。「その子が笑顔でいられること」にフォーカスしています。

――― 「子どもの笑顔」ですか?

ボーク:「子どもの笑顔」のためには、できる限りの時短や手抜きを考えます。日本のみなさんは、家のことも子育てもきちんとこなしていることはわかるのですが、実は、その「きちんと」がネックになってしまっていることもあるんですね。

アメリカのママたちの子育て時期は、みんな運動着にスニーカー。もちろん私もそうだったから、日本に1年留学した娘は、「ママたちが朝からすごく美しくしている。うちのママだったらそんな時間があったら寝てる」ってショックを受けていました(笑)。


――― 「子どもの笑顔」を作るための手抜きということですね。

ボーク:子どもを導くことや愛することはママしかできませんから、洋服に少しくらいシワがよっていても、アイロンをかける時間があるなら、子どもの面倒を見たり、仕事をしたり、自分じゃなければできないことにあてるんです。「子どもの笑顔」のためにはママは疲れちゃダメだから、ちゃんと寝る時間や自分のことを考える時間を確保することも大切ね。

――― TODOリストが必要ということでしょうか?

ボーク:私、TODOリストって嫌いなんです。「リストにしちゃうと、全部が同じくらい重要な作業に思えちゃうのでやめましょうよ」って言っています。だって、そもそもすべてのことをきちんとやるなんて物理的に難しいし、そうするとどうしても「作業をこなす」になっちゃいます。

距離を保って子どもに接するということ

いつも明るく元気いっぱいのボークさん。「70歳になってもピンクの洋服を着たいわ」 (写真提供:ボークさん)

――― ボークさんの子育てにますます興味が湧いてきました(笑)

ボーク:子育てで「子どもの笑顔」以外に重要だなと思うのは、子どもとある程度の距離を保つということ。うちの娘はバレエをやっていたんですけど、オーディションのとき、舞台のとき、娘以上に私の方が入れ込んでしまわないように気をつけていました。成功も失敗も私ではなく娘のものですから。

そういうときに、一歩引いて子どもと距離を保てれば、娘は娘として見られるようになります。そのために私は、自分の時間は自分だけにフォーカスして、子どもや家族のことは考えないようにしています。たとえ15分でも自分のことだけを考える時間がもてると、「これは子どもの問題、これは自分の問題」って分けて考えることができるようになります。

子育ての時間に投資、ママや子どもの笑顔というリターンを手にする

――― 「パパにも積極的に子育てに参加してほしい」というママの声も聞こえてきます。

パパの役割は、外で働いて経済的な貢献を家庭にしていることでしょうか。でも、忙しいからといって、家族に時間を貢献しなければ、「絆」は育まれないし、子どもとの信頼関係も築けません。そういう機会を損失するのはもったいないと思いません?(笑)

そう考えれば、パパの子育てへの参加の仕方も違ってくると思うんです。男性にはぜひ家族や子育ての時間を投資してほしいです。もちろん投資したら必ずリターンがあります。一番のリターンは「妻の笑顔が増える」こと。次が「自分の子どもを理解できる」こと。手伝うという感覚ではなくて、時間を投資する、素晴らしいリターンを手に入れるんだと考えて、子育てに参加いただけるとうれしいな。

後編では、ライフスタイルコーチであるボークさんに、より具体的な子育てのスキルについてお聞きしました。

文/米谷美恵

ボーク重子さん
Profile
Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表。ICF(国際コーチ連盟)会員ライフコーチ。
英国の大学院で現代美術史の修士号を取得後、1998年ワシントンDC移住、出産。移住後、2年間の専業主婦を経て2004年ワシントンDC初のアジア現代アート専門ギャラリーをオープン。アートを通じての社会貢献により、オバマ大統領(当時上院議員)らと共に「ワシントンの美しい25人」に選出。現在は、アメリカ、日本に顧客をもつライフコーチでもある。近著は『子育て後に「何もない私」にならない30のルール (文春e-book)』がある。

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