解熱剤が「坐剤」で処方された!赤ちゃんが嫌がらない使い方は?【小児科医が解説】
赤ちゃんに熱があると来院したお母さん。熱が高かったので、おしりから入れる坐剤(ざざい)の解熱剤を処方した陽ちゃん先生ですが、お母さんは初めて使う坐剤に、不安げな様子。そこで陽ちゃん先生は、お母さんに坐剤の使い方をやさしく説明します――。
赤ちゃんやママ・パパにいつもやさしく寄り添う陽ちゃん先生こと、小児科医の吉永陽一郎先生が、日々の診察室で起きた、印象深いできごとをつづります。先生は育児雑誌「ひよこクラブ」でも長年監修として活躍中です。「小児科医・陽ちゃん先生の診察室だより」#25
坐剤タイプの解熱剤、赤ちゃんが嫌がらない使い方は?
「昨夜、初めて発熱したんです」。
その日来院したのは、1歳の誕生日直前の男の子と、そのお母さん。診察すると、39度台の発熱がありますが、そのほかに目立った症状はありません。
――熱が高いですねえ。
「そうなんです。初めての発熱なので、どうしたらいいかわからなくて。この子、大丈夫でしょうか?」
――のどが少し赤いですね。今の時点では、のど風邪だと思っていいでしょう。
「熱が高いときは、自宅でどのような対応をしたらいいですか?」
――解熱剤を出しておきますので、つらそうだったら使ってあげてください。今回は、おしりから入れる坐剤で出しますね。
「あの~、おしりからの薬って使ったことがないんですが…。私にも使えるでしょうか?」
――もちろん使えますよ。今熱が高いので、ここで1個入れてみましょうね。見ていてください。
解熱剤には、坐剤、散剤(粉薬)、水剤(シロップ)、錠剤など、いろいろな製剤があります。
ちなみに、使用時期の目安としては、保育園・幼稚園に通う時期は坐剤。小学校入学後は、散剤や水剤の内服になります。錠剤は、本人が飲み込めるかどうか様子を見ながら試していきます。
坐剤は、大きく分けると2種類あり、それぞれ薬をかためる成分が油で溶けるか、水で溶けるかで異なります。
油で溶ける成分によってかためられているものは、温めると少し溶けてきます。手でもんでいると、手のぬくもりで周囲がヌルヌルしてくるので、痛まずにするりと入れることができます。解熱の坐剤は、このタイプです。
水で溶ける成分によってかためられているものは、少しの水でぬらしてからもむと、滑りがよくなります。吐きけどめや、けいれんを予防する坐剤は、このタイプです。
――坐剤の使い方を教えますね。まず、坐剤を包装から出したら、指で少しもみましょう。すると、周囲がヌルヌルしてきます。そして、4つ折りにしたティッシュペーパーで坐剤をつまみ、おしりの穴に入れます。
出てこないように、しばらく親指で押さえておくと、自然に入っていきますよ。ほら、このとおり。
「本当だ!あまり痛がらずに使えるものなんですね」
――できるだけ坐剤をヌルヌルさせてから使うのがコツですね。
「手のぬくもりだけで、こんなにやわらかくなるんですね。知らなかった」
――ええ。それだけ溶けやすいですから、冷蔵庫に入れて保管をしないといけないんです。
「一度入れたあと、おしりから出てきたりすることはないんですか?」
――坐剤の刺激でうんちをする子もいますし、すぐに出てきてしまうこともあります。そんなときはまた入れ直して構いません。どろどろで入れにくいときは、新しいものを使ってください。でも、入れてから30分もたっていれば、入れ直さずに様子を見て大丈夫です。
「わかりました。これなら、私でも使えそうな気がします」
お母さんは、自分でも坐剤を使ってみようと思ってくれたようです。
飲む解熱剤と坐剤、どう違う?
「ところで先生、解熱剤は飲むよりもおしりから入れたほうが効くと聞いたことがあるんですが、本当ですか?」
――ほう、お母さん。なかなか面白いことを聞きましたね。実は本当なんですよ。
薬を飲むと小腸で吸収されますが、そのあとに肝臓を通るんですね。その肝臓で少し力が落ちたり、胆汁に混ざって再び小腸のほうに戻ったりします。
そして、肝臓から心臓に戻って、ようやく全身に運ばれることになります。ですから、少しだけハードルを越えないといけないし、効き目が出るまで時間がかかるのです。
「坐剤だとそうではないんですか?」
――おしりから入れた薬は、小腸ではなく直腸で吸収され、肝臓を通らずに直接心臓に戻っていきます。肝臓で目減りもしないし、全身に行き渡るのも早いことになりますね。
「じゃあ、薬はみんな坐剤にすればいいじゃないですか?」
――いえいえ、多くの薬はそのような作用を前提に、使用量や使用間隔が決められていますから、きちんと効き目はありますよ。それにお母さん自身、薬の時間のたびにおしりから入れるのはあまりうれしくないでしょう?
「う~ん、確かに飲み薬のほうが楽ですね。いろいろ勉強になりました。ありがとうございました」
――2~3日のうちには、もう一度診せてくださいね。お大事に。
文・監修/吉永陽一郎先生 構成/ひよこクラブ編集部
吉永陽一郎先生(よしながよういちろう)
Profile
吉永小児科医院(福岡県久留米市
)・院長。国内初の子育て専門診療科である聖マリア病院母子総合医療センターの「育児療養科」科長などを経て、現職。