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「大丈夫!」「次頑張って」の言葉がつらかった…。赤ちゃんを失って初めてわかった「心のケア」の大切さと課題とは【専門家】

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困難な時に慰めをサポートする手をつないで若い愛情のあるカップル
※写真はイメージです
fizkes/gettyimages

カリフォルニア州サンノゼ在住の放射線科医・フォックス聡子先生は、現在2才の女の子のママですが、妊娠初期に3人の子を失った経験を持ちます。プレグナンシーロス(妊娠期の喪失※1)によるグリーフ体験を、自身のホームページやSNSで発信しています。聡子先生と、プレグナンシーロスの支援に詳しい岡山大学医学部保健学科 准教授の片岡久美恵先生に、グリーフケアの現状や課題について話を聞きました。

流産も精神的ケアが必要と広く知ってほしい

岡山県不妊専門相談センター作成のリーフレット「流死産で大切な子どもを亡くしたあなたとご家族へ」より一部抜粋

聡子先生(以下敬称略) 私は第1子出産後に3回のプレグナンシーロスを経験しました。医師として流産は10〜15%に起こることは知っていましたが、事実を受け入れられないほどの悲しい経験でした。第3子の稽留流産のあとしばらく涙が止まらず、何もできなくなり、うつにかなり近い状態に。流産後の健診のときなどに、グリーフケアのことやピアサポートグループを紹介してもらったり、リーフレットなどが配布されたりすればいいのにな、と思います。

片岡先生(以下敬称略) そうですね。初期流産の方の精神的ケアも大事なはずなのに、医療者や看護者からのケアをする時間や場所がない状況です。

聡子 流産処置の1週間後の診察時に「お気持ちはどうですか」ってひと言でも聞いてくれたらよかったのに、と思います。患者さんが泣いてしまって長引くとほかの診察に影響するというような心配があるのもわかります。でも医師でなくても看護師さんや心理士さんなど、話を聞いてもらえる場があればいいのにな、と。
以前、そのようなことを産婦人科医の先生に聞いてみたことがあります。産婦人科医は、初期の流産は数多く診ているし、とくに不育症の人に対しては「どうやったら次の赤ちゃんをこの人に抱いてもらえるか」に焦点を置いている、ということもあるようです。

片岡 岡山大学病院の不育症外来では、テンダーラビングケア(不安やストレスを軽減するための心理的サポート)に力を入れています。流産処置後の1週間後の診察では、ほかの赤ちゃんやおなかの大きい妊婦さんに会わないような配慮をすることや、診察時のいたわりの声かけを心がけています。

聡子 たしかに、流産のあとには赤ちゃんを抱っこしたママや妊婦さんの姿を見るのもつらい気持ちになってしまうし、そんなふうに感じる自分を責める気持ちになることもあります。

片岡 そうなんですよね。そのような配慮と同時に、地域の不妊相談センターなどの情報の提供もしていく必要があると感じます。
私たちは「流死産で大切な子どもを亡くしたあなたとご家族へ」(上画像)というリーフレットを作成していて、ここからダウンロードしてもらえますし、希望があれば郵送もしています。

産婦人科受診後、サポートまでたどり着けない

聡子 私はオンラインのピアサポート(同じ問題を抱える人同士が、体験をシェアし支え合う活動)をしていますが、よく聞くのが「産婦人科から放り出される」という表現です。流産の処置が終わったら何の情報もなしに放り出されてしまったという印象を持っている人が多いんです。どうしたらいいかもわからないまま自分でネットで検索するけれど、必要な情報にたどり着けずに苦労する人が少なくありません。

片岡 自分に合うサポート先を見つけるのにすごく苦労するんですよね。私が開催している「ママとたまごの会」というピアサポートグループでも、ここに来るまでが大変だった、という声が多かったです。相談先をネットで見つけたとしても、安全かどうか、また傷つくんじゃないかと参加をためらうことも。

聡子 日本では「聖路加国際大学 天使の保護者ルカの会」や「ポコズママの会」などが知られているようですね。でも私が探した当時は、オンラインでのサポートはなく、検索キーワードもわからないし、同じような経験者の声を探してもなかなか見つかりませんでした。

片岡 厚生労働省が2020年に不育症に関する全国調査(※2)を行った際、約8割の人に、流産や死産によって感じたつらさを「だれかにもっと話を聞いてほしかった・相談したかった」というニーズがあったとわかりました。2021年度に厚生労働省委託事業で不妊症・不育症のピア・サポーター等の養成研修が行われましたので、これから相談しやすくなることを期待しています。

聡子 ピアサポートグループってクローズドな場だし、どういう人がやっているかわかりにくい面もあります。私の場合は顔も出して、自分の経験を公開した上で、合いそうな人には参加してもらえたらいいなと思っています。活動の中で課題に感じていることは、参加する方が、初期流産か、死産か、不妊治療の有無、上にお子さんがいるかの背景によって、発言のしやすさが変わってくる面があることです。経験の近い人で集まってもらったほうが安心して参加できるのかもしれないということも考えています。

片岡 それは私も考えているところです。「ママとたまごの会」で以前、背景で分けず参加してもらったところ、参加者から「背景が違うので話を聞くのがつらかった」という意見がありました。今は背景によって分けています。ただ、分けてしまうと、不育症の治療もサポートしたいので、治療の先に赤ちゃんに出会えた体験談を聞く機会がなくなってしまう葛藤(かっとう)もあります。相談をしに行って逆につらい気持ちにならないよう、自分の体験や思いに合うサポートが見つかるといいと思います。

喪失のときにかけてほしくない言葉もある

聡子 私はコロナ禍の流産で孤独だったとき、だれかに相談したり、話を聞いてもらうことも大事だと感じました。ただ一方で、私を励まそうとする言葉に傷ついてしまうこともありました。「もう忘れて、次を頑張って!」と言われても「私は製造機じゃない」と思ったり…。

片岡 私たち医療者は「流産は15%くらいあります」と話すことが多いですが、それを「確率の問題じゃない」とつらく感じる人もいます。「若いから大丈夫」や「次頑張ればいい」というのも本当につらい言葉ですよね。

聡子 「天国の赤ちゃんが悲しむから泣いちゃダメ」というのもきついです。

片岡 パートナーからその言葉をかけられてつらい思いをする人もいますね。以前は医療従事者も「泣いちゃダメだよ」と言ってしまう人が多かったです。でも泣くことを我慢したら、一体いつ悲嘆を表せばいいのか、と。プレグナンシーロスを経験した人には、悲しみを持つことは正常な反応だし、ありのままの感情を表していいんだよ、と伝えたいです。

カウンセリングによるグリーフケア、日米の違い

聡子 私は子宮外妊娠による2回目の喪失のときに、カウンセリングを受けました。アメリカではカウンセリングのハードルは本当に低くて、妊娠出産だけでなく、夫婦問題や子どもの問題、更年期障害など、気軽にカウンセリングに行くし、そのことを隠さないし、「カウンセリング行ったよ」「その先生どう?」みたいな感じで気軽に話題に上がります。

片岡 日本でカウンセリングを受けるというとちょっとハードルが高いイメージですよね。最近はコロナ禍で気分が沈む人が増えて、カウンセリングが広まってきたけれど、今度は逆に受け入れ先が限られてしまい、初診に3カ月待ちということも。もっと気軽にカウンセリングによるグリーフケアを受けられるようになればいいのになと思います。

聡子 あとは、日本でもアメリカでも妊娠を家族以外に報告するのは安定期に入る妊娠12週以降がいい、という考え方がありますが、私はその文化が悲しいと感じます。赤ちゃんを亡くした経験を口にすることもタブー視されているんだな…と。私は短い間だったけれどおなかに来てくれた赤ちゃんを大切に思っていたし、亡くしたことも非常に大きな経験です。でも、その経験を口にしたくない人もいるのもよくわかります。
無理して乗り越えなくてもいいと思うんです。急がずゆっくり、経験を受け入れて生きていけたらいいなと思います。

片岡 日本では赤ちゃんを失くすことが語られない文化がありましたが、その分つらい状態も続いてしまいます。今は各県に不育症相談窓口があるので自分に合ったところを探してみてほしいですし、今後、よりグリーフケアやピアサポートの情報が見つけやすくなるようにしていきたいと考えています。

お話・監修/フォックス聡子先生

お話・監修・画像提供/片岡久美恵先生

取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部

初期流産の経験はなかなか語られにくく、周囲の人もどう声をかけていいかもわからないかもしれません。流産による赤ちゃんとの死別をした場合、精神的ケアが必要なことやサポートの場所があることを知っておくことが大切です。

※記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

(※1)日本では“ペリネイタルロス(=周産期死亡。妊娠22週以降から生後8日までの流産・死産・早期新生児死亡のこと)”が使われることが多いですが、当記事では妊娠初期や子宮外妊娠も含めた赤ちゃんの喪失を表す“プレグナンシーロス”を使用しています。

(※2)厚生労働省「令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 流産や死産等を経験した女性に対する心理社会的支援に関する調査研究 事業報告書」

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