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「もう少し長くおなかの中にいさせてあげられたら…」“後期早産”で出産した母親たちが、入院中や産後の生活で抱えるモヤモヤ【助産師・看護師監修】

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病院の保育器の中の新生児の女の子投稿分娩室
●写真はイメージです
Kwangmoozaa/gettyimages

早産のなかでもその約8割を占めるのが「後期早産」といわれる、妊娠34週0日から36週6日までの出産です。正期産(せいきさん/37週0日から41週6日までの出産)に近い時期の出産なので、比較的トラブルが少ないといわれていますが、産後入院中や退院後も不安を抱えているママが多いと市川先生(助産師・東京情報大学看護学部看護学科教授)は言います。

後期早産したママがNICUで赤ちゃんと 対面したときの複雑な思い

市川先生は助産師・看護師として多くのお産を経験しながら、看護分野の教員として、産前産後ケアに関する研究や早産児を出産したママの支援に関する研究を行っています。そのなかで、「後期早産」のママたちのケアに着目。無事出産したあとの産後入院中から退院後も、ママたちの複雑な思いがあることがわかったといいます。

――後期早産で出産したあと、入院中のママと赤ちゃんにはどんな状況が見られるのでしょうか。

市川先生(以下敬称略) 出産したママは産科病棟に入院します。そして赤ちゃんの多くは、NICU(新生児集中治療室)またはGCU(新生児回復室)に入院します。ママと赤ちゃんが同じ病院に入院している場合、ママは産後間もない体でNICUに通うことになります。

最近はテレビドラマなどの影響で、NICUの存在を知っているママも多いですね。でも、実際にわが子が保育器に入れられ、点滴をし、心電図をつけられているような姿を見ると、ショックを受けるママは多いです。

――具体的に、NICUの赤ちゃんと対面したとき、ママはどんな思いを抱いているのでしょうか。

市川 このときの思いを、後からママたちに実際にインタビューしましたが、とても複雑な感情を持たれていました。

まずは「この子に触れていいのか」という思い。そして「この子はどうなってしまうのだろう」「何か病気があったらどうしよう」という不安。それから「小さく産んでしまってごめんね」「もう少し長くおなかの中にいさせてあげられたら」という申し訳なさ、「私が忙しく仕事をしていたから…」など自分を責める気持ち。そんな思いを一人で飲み込んで涙を流しているママの姿を、NICUのスタッフはよく目撃しています。

ママたちは毎日NICUに通いますが、昨日より哺乳量が増えたと言っては喜び、熱が出た、呼吸の具合が悪いと言っては落ち込むなど、一喜一憂する姿も見られます。

また、わが子とほかの赤ちゃんを比べてしまうママも。もっと深刻な状況の赤ちゃんを見て、ショックを受けると同時に、どこかホッとしてしまう自分もいる。そんな自分を責めてしまったりすることもあるようです。

一方、ママと赤ちゃんが別の病院に入院している場合、ママが入院中は赤ちゃんに会いに行くことはできません。パパなどが訪ねて写真や動画を撮ってママに送ることが多いようです。

赤ちゃんと直接触れ合うことが ママに自信につながる

NICUに入院している赤ちゃんを抱っこしたり、授乳したり。赤ちゃんと直接触れ合える時間は、ママたちにとっても、うれしいひとときです。

――赤ちゃんと触れ合えることは、ママにとっても貴重な時間になりますね。


市川 はい。とくにNICUに通うママたちにとって、授乳に対する思いはひと一倍強いようです。「母乳をあげたい」という思いが強く、搾乳した母乳をあげることで自分の存在意義を感じることができた、という声をよく聞きます。

NICUに入院しているとても小さな赤ちゃんにとっては、母乳は腸管壊死(ちょうかんえし)を防ぐなど、命を守ることにつながります。後期早産児の場合は、そこまで深刻なケースは少ないですが、消化がいい母乳は赤ちゃんにとって大切な栄養源です。

赤ちゃんが順調に成長して、直接母乳を与えることができるようになると、ママたちは少しずつ育児に自信がついてくるようです。自分のおっぱいから母乳を吸って赤ちゃんが満足している様子は、ママにとってはうれしいものです。

――一方で、母乳が出にくいママもいるのではないでしょうか。

市川 生まれてすぐ、直接吸わせることができないので、母乳が思うよに出ないママもいます。ただ乳頭を刺激したり、時間ごとに搾乳したりして、助産師などのスタッフが積極的にケアにかかわっています。

もちろん、母乳が出にくいことでママが自分を責める必要はありません。「赤ちゃんがそばにいないのに、夜中に搾乳するのはむなしかった」という声もあります。搾乳したくても出ないときもあります。そんなときはミルクでも大丈夫。母乳にこだわるより、ママはしっかり体を休め、ストレスをためないことが大切。気持ちが楽になることで母乳育児が好転したケースも多いです。

退院後も積極的に相談をして ママの気持ちを表出することが大切

後期早産のママたちは、退院後の育児にとまどうことがあるといいます。また、産後しばらくしてから「予期せぬ早産というお産」になってしまったことにモヤモヤした気持ちを抱えることも。そんなとき、どこに相談すればいいのでしょうか。

――赤ちゃんが退院した後、育児はスムーズに行くのでしょうか。

市川 じつは、後期早産のママたちは、意外と赤ちゃんのお世話をしっかり教えてもらえないまま自分だけ退院してしまうことが多いのです。いざ赤ちゃんが退院して家でのお世話が始まると、正期産で生まれた子と比べて後期早産で生まれた子はこの時期眠りがちなため、授乳しようとしても十分に哺乳できないと悩むママが多いようです。また授乳以外にも、入院中に沐浴(もくよく)やおむつ替えなどをほとんど経験できないまま退院するため、不慣れな状態で育児することに悩むママもいます。

赤ちゃんがNICUにいる場合、症状が重く、長く入院しているような赤ちゃんであれば、その間にママが赤ちゃんのお世話を新生児科のスタッフから教えてもらったり、育児を相談したりする時間もできます。また、正期産で生まれた場合、母子同室であれば、助産師などのスタッフに育児の相談もしやすい。でも後期早産のママはそのどちらでもない状態になりがちなのです。


――後期早産のママたちが、医療スタッフに相談しにくい状況があるのでしょうか。

市川 ママの性格や赤ちゃんの状況などにもよりますが、後期早産の場合、ママがNICUに行くと、人工呼吸器や点滴をつけているような、わが子よりももっと重症な赤ちゃんがいることがわかります。そうなると遠慮してしまい、わが子が心配でもスタッフに相談しにくくなってしまうケースがあるようです。

最近ではとくにママたちのメンタルの重要性が認識されるようになっているので、医療スタッフも意識して声をかけるようにしています。ママたちも、退院するまでにはスタッフと話す機会が必ずあると思います。ぜひ遠慮なく、話しやすいスタッフに相談してほしいです。

――退院後に育児の相談をしたり、ママ自身の気持ちを聞いてもらったりできる場所はあるのでしょうか。

市川 病院だけが相談窓口ではありません。後期早産のママたちにはぜひ、産後ケアを利用してほしいと思っています。産後ケアは民間のものもありますし、自治体が提供しているものもあります。何より産後ケアは、お産で疲れ切ったママの体の回復にもつながります。体が回復すれば、心も元気になります。

話を聞いてもらうのは、産後ケアのスタッフでもいいですが、産後に自宅訪問に来た保健師などでもいいでしょう。大切なのは「この人に話したい」「この人なら話を聞いてくれそう」という人に相談し、話を聞いてもらうことです。

また、後期早産のママたちに話を聞くと、時間がたってから、お産に対して割り切れない思いを抱えていたことに気づいた、ということがあるようです。気づいたらそのままにしないことが大切です。

誰かに話したり、あるいは自分の思いを書き出してみることで、自分の気持ちを客観視できます。モヤモヤした気持ちはなかったことにしないで、表出することで、完全とはいえなくても、モヤモヤが昇華されていくのです。

監修/市川香織先生 取材・文/樋口由夏、たまひよONLINE編集部

正期産に近い日数で生まれる後期早産の赤ちゃん。大きなトラブルはないことが多いですが、退院後、スムーズに育児へ移行できるとは限りません。そしてお産から時間がたってから、「思い描いていた出産と違った」とモヤモヤしてしまうママも。市川先生からのアドバイスは「そんなときは遠慮なく出産した施設のスタッフや産後のサービス、家族を頼って、みんなで一緒に育児をしていきましょう」とのことでした。

●記事の内容は2023年10月の情報であり、現在と異なる場合があります。

市川香織(いちかわかおり)先生

PROFILE
助産師。東京情報大学看護学部看護学科教授。千葉大学医学部附属看護学校および助産婦学校を卒業し、看護師・助産師の資格を取得。修士(経営学)、博士(看護学)。助産師として千葉大学医学部附属病院産婦人科勤務、助産師学校教員、厚生労働省雇用均等児童家庭局母子保健課、千葉大学医学部附属病院副看護師長、日本助産師会事務局長などを経て、2021年10月より現職。産前産後の女性ケアをはじめ、女性の生涯の健康を支援する活動を行っており、2013年より一般社団法人産前産後ケア推進協会代表理事を務めている。

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