イケメン部長が健診にいっしょに来てくれて…【小説「ご懐妊!!」Vol.21】
『ご懐妊!!』Vol.21
スターツ出版文庫の大人気小説『ご懐妊!!』が、たまひよWEBにて連載中。「たまごクラブ」でもおなじみの産科医・大浦訓章先生のひと言解説もお見逃しなく。
●これまでのあらすじ
広告代理店で仕事に打ち込む佐波。悩みといえば、上司のイケメン鬼部長・一色が苦手なことくらい。それなのに、お酒の勢いで彼と一夜を共にしてしまい、後日、妊娠が判明!不安と途惑いの中、部長に「赤ちゃんがいます」と告げたところ、部長の答えは「結婚」。途惑いながらも前進しだした佐波、ふたり暮らしを始め、会社にも報告し、実家にも挨拶をし…
五ヵ月
金曜日の午前中、私と部長は揃って半休を取り、産婦人科に来ていた。
引っ越しに伴って転院した産婦人科は、個人運営の産院で、ベッドも十床しかない小さいところだ。ピンク色の外観に、パンジーが山ほど植わった花壇。院内はいつだってオルゴールの音が流れ、受付スタッフも感じがいい。
先生は銀縁メガネの佐藤(さとう)先生。四十代半ばで、これまた優しそうな人なんだ。全室個室だし、ゆったりとお産に臨めそうで、部長と決めたんだよね。
本日は十八週と〇日。五ヵ月健診であります。
健診はまず尿検査。体重測定と血圧測定をして少々待つ。予約制なので、前の病院みたいに長時間待たなくていいのが助かる。
次は、腹位やむくみのチェックと、子宮の大きさ測定。この病院は横になるときに触診で測るみたい。前の病院では、診察の前後に助産師さんがやってくれたっけなぁ。しかし、触っただけで子宮の大きさがわかるなんてすごいや。
五ヵ月ということもあり、超音波もお腹にプローブを当てて見られるようになった。つまりは部長の同席もOKってこと。
「じゃ、診てみましょうね」
銀縁メガネの先生がプローブを持ち上げた。うにゅーっとお腹にゼリーが塗られる。
いつも通り、超音波って最初はなにが映っているのかわからない。先生がグリグリお腹をプローブで撫でる。赤ちゃんの姿が映ったようだ。
「はい、これ背骨。で、これが心臓」
銀縁先生、もう少し顔とか手足とか見たいです。というか、横にいる旦那様が見たくてしょうがないと思うんです。
口に出さずともプローブは下に移動。
「これがお顔ですよ」
映ったのは、ドクロみたいに透けた骨格だった。
おおっ、迫力ある! 脳とか見えちゃって、ベビーらしくは思えない。それでも、結構感動するものだ。
「もしかして、口を動かしてますか?」
部長が画面を覗き込みながら聞く。
「はい、そうですね。じゃあ見え方を変えてみましょう」
銀縁先生が画面を切り替えた。
え! なにこれ! すごい!!
画面に映るのは、黒と白のエコー画像じゃない。セピア色の画面は奥行きがあり、中でお団子みたいなものが動いている。
わかった! 『プレママさんが読む本』に書いてあった。これが3Dエコーってやつだ! いや、動いているから4Dか。
画面に映るお団子は、まだ表情はよくわからない。ただ、しきりに手らしき部分で顔を触っている。
うわぁ、すごいよ! 動いてるよ!
立体的に映るという割には、余分なモコモコがあちこちについているけど、今までよりずっと鮮明にポンちゃんが見える!
横を向くと、部長が食い入るように画面を見ている。こぶしをぎゅうっと握って。たぶん、私と同じくらい感動している。
「顔、触ってますよね」
私は銀縁先生に確認する。先生は頷いた。
「指しゃぶりの練習をしてるみたいですね」
「お腹の中でもするんですか!?」
「しますよ。お腹の中で、彼らはいろんな練習をしてるんです」
「あの! 先生!」
横から部長が声を上げた。
「性別は……わかりますか? 早ければ五ヵ月くらいでわかるって聞いたんですが」
先生は、うにょーっとプローブを移動。画面はごちゃごちゃっとした。
「これが太ももなんですが、隠してますね。次回のお楽しみかな」
「はぁ」
部長は気が抜けたような返事をした。
彼は男の子と女の子、どっちが欲しいのかな? 私はどっちでもいいんだけど……。
診察室に移動し、エコー写真をもらう。2Dと3Dを一枚ずつ。これってベストショットを選んでくれるのかな? 3Dのほうは、口元に手をやるお団子ポンちゃんの姿が映っている。
「さて、一色さんは転院で、もう分娩予約されてますね。これから出産までよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
私と部長は揃って頭を下げた。
つづく
【小説「ご懐妊!!】次回をお楽しみに
大浦先生アドバイス
産婦人科診療ガイドライン(2020)の変更により、腹囲の測定は必須ではなくなります。子宮底長は必須です。
エコーで口を動かしているのは、羊水を飲んでいると思われます。かわいいですね。
著者/砂川雨路 イラスト/くにみつ 監修/大浦訓章先生
この小説はスターツ出版文庫から刊行されている『ご懐妊!!』より掲載しています。たまひよWEB版は産婦人科医大浦訓章先生の監修のもと一部改訂しております。
砂川雨路
Profile
群馬県出身。東京都在住。著書に、『愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~』『クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした』(ベリーズ文庫)、『僕らの空は群青色』(スターツ出版文庫)などがある。現在、小説サイト「Berry's Cafe」「ノベマ!」にて執筆活動中。『ご懐妊!!』(スターツ出版文庫)は現在3巻まで発売中。テキストリンクなどもはれる。
大浦 訓章先生
Profile
南流山レディスクリニック院長 慈恵医大卒。産婦人科准教授、同大付属病院総合母子健康センター産科部門長、東京母性衛生学会理事、日本周産期新生児学会評議員・副幹事長、日本周産期新生児学会新生児蘇生法委員などを歴任。現在、周産期メンタルヘルス学会評議員、女性スポーツ研究会理事、2020年産科婦人科学会、医会産科診療ガイドライン作成委員、2023年同評価委員。「たまごクラブ」でも監修をつとめる。
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