もしかしてこれが「初めてのママ友」との出会い?【小説「ご懐妊!!」Vol.25】
『ご懐妊!!』Vol.25
スターツ出版文庫の大人気小説『ご懐妊!!』が、たまひよWEBにて連載中。「たまごクラブ」でもおなじみの産科医・大浦訓章先生のひと言解説もお見逃しなく。
●これまでのあらすじ
広告代理店で仕事に打ち込む佐波。悩みといえば、上司のイケメン鬼部長・一色が苦手なことくらい。それなのに、お酒の勢いで彼と一夜を共にしてしまい、後日、妊娠が判明!不安と途惑いの中、部長に「赤ちゃんがいます」と告げたところ、部長の答えは「結婚」。途惑いながらも、ふたり暮らしを始め、実家にも挨拶に行き…
五ヵ月
その日は帰宅して、お昼にサンドイッチを食べるとすぐに寝てしまった。久しぶりの運動ですごく疲れたみたいだ。
部長に体験レッスンの感想すら言わなかったけど、スタジオに通うという結論で、彼は満足したようだ。ああ、疲れた……。
それから一週間少々。
私はすでに三回のマタニティビクスと、一回のマタニティヨガを受けていた。平日は会社を上がってから夜のクラスに参加しているし、土曜日も朝から参加だ。
ビクスの動きには依然として慣れていない。他の妊婦さんとは違う不格好な盆踊りになってしまう。
だけど、めげずに通っている! 我ながら偉すぎ……!
実は、早速メリットがあったからというのも理由だ。それは望んでいた便秘の解消! 夜のレッスンに出ると、その晩か翌朝にお通じがある。すごい。五日くらい出ないのが日常だったのに、いまや二日に一回は出る! この快適さときたら!
冷える二月だけど、前より爪先や指先が冷えなくなってきたし、もしかして、本気で運動っていいんじゃない?
平日夜のクラスで会った枝先生が言っていた。
『ビクスを続けていたママは体力があって、安産になりやすいんです。赤ちゃんも、出産時に心拍が下がりづらいんですよ』
つまりは、ポンちゃんも元気になるってこと? それならやるしかないじゃない。
なにより、これで体重管理ばっちり、ポンちゃんも健康に安産で出てきたら、部長も私のこと見直すに違いない。
現時点の私って、つわりでボロボロ。すぐにぐーぐー寝ちゃうし、食べすぎて太って、だらしないところしか見せていないもんね。
そんなわけで、本日も張り切ってスタジオにやってきた私。
あらら? 階段脇の壁に張り紙がある。
【本日のレッスンは休講です】
あ! そういえば、土曜日のレッスンで枝先生がなにか言っていた……。ワークショップで休講がなんちゃら……それって今日のことだったのね。
妊娠してからぼーっとしているけど、今回は完全にボケているよ。
「あら……」
後ろで声が聞こえ、振り向くとそこにはひとりのお姉さん。ショートカットで女優みたいにぱっちりした目の人だ。たぶんそれなりに年上。
「間違えて来ちゃった派ですか?」
私は聞いた。彼女のバッグに "赤ちゃんがいますマーク" がついていたからだ。
「ええ、うっかりです」
彼女はおっとりと答えた。
帰宅の方向が同じだったので、私はその美人のお姉さんと渋谷(しぶや)方面行きの電車に乗った。
車内は混んではいないけど、空いた席もない。妊婦がふたりで立っていても、誰もマークを見て席を譲ったりしてくれない。だいたいそうなんだけど。
「昼間、お仕事されてるんですか?」
彼女が聞いてきたので、私は頷く。
「あ、やっぱり。平日の夜や土曜日にお見かけしたから。私も働いてるんです。パートでちょこっとだけど」
ってことは、今までのレッスンでご一緒したことがある方なのね。ビクスに真剣すぎて、全然周りを見ていなかったわ。
私はぺこっと頭を下げた。
「一色佐波といいます。まだ始めたばかりで、右も左もわからないんですが、よろしくお願いします」
「私は、樋口美保子(ひぐちみほこ)といいます。あの、佐波さんは何週目ですか? 私は二十週と二日です」
「あっ、近い! 私、十九週三日です!」
彼女のお腹をつい見てしまう。
キルトのコートの下は、一週違うだけなのに、すでに丸く膨らんだお腹。
「うふふ。もうお腹が出てきちゃって」
彼女が恥ずかしそうに笑う。可愛い人だな~。
「佐波さんも、もしかして他院出産ですか?」
私たちが参加しているスタジオの妊婦さんたちの多くは、併設された産院で出産する。だから、他院の利用者はレアなのだ。
「ええ。知ってるかなぁ、光良(こうりょう)レディスクリニックです」
「私は武州(ぶしゅう)大学病院。もしかして、おうちも近いかも……私たち」
「小田急(おだきゅう)の代々木上原(よよぎうえはら)駅です!」
「あ、お隣だ」
わお、運命的! 私たちは嬉しくて、思わず笑ってしまった。
「よかった。近くにお友達も妊婦仲間もいなくて、ちょっと不安だったんです」
「わっ、私もですよ! 美保子さん……出産までよろしくお願いします!」
「うふふ。むしろ産後もよろしくお願いします」
これはもしや……初ママ友ってやつですか!? ビクスが結んだ縁だ。
つづく
【小説「ご懐妊!!】次回をお楽しみに
大浦先生アドバイス
妊娠中はホルモンの関係やストレスで情緒不安定によくなります。友達を作れればいいのですが、できなくても不安にならず、医師や助産師に話してみてください。
著者/砂川雨路 イラスト/くにみつ 監修/大浦訓章先生
この小説はスターツ出版文庫から刊行されている『ご懐妊!!』より掲載しています。たまひよWEB版は産婦人科医大浦訓章先生の監修のもと一部改訂しております。
砂川雨路
Profile
群馬県出身。東京都在住。著書に、『愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~』『クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした』(ベリーズ文庫)、『僕らの空は群青色』(スターツ出版文庫)などがある。現在、小説サイト「Berry's Cafe」「ノベマ!」にて執筆活動中。『ご懐妊!!』(スターツ出版文庫)は現在3巻まで発売中。テキストリンクなどもはれる。
大浦 訓章先生
Profile
南流山レディスクリニック院長 慈恵医大卒。産婦人科准教授、同大付属病院総合母子健康センター産科部門長、東京母性衛生学会理事、日本周産期新生児学会評議員・副幹事長、日本周産期新生児学会新生児蘇生法委員などを歴任。「たまごクラブ」でも監修をつとめる。
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