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元女子高生パパ「偏見メガネには、当たり前の存在として見せていく」、法制度の漏れから家族を守りたい

「たまひよ 家族を考える」シリーズ、ゲイの親友から精子提供を受け、トランスジェンダーでパパになるーー。杉山文野さんは、戸籍は女性のままで、親友が精子提供者となりパートナーである女性との間に子どもを授かりました。いまは、出産までに関わった3人が親となり、子ども2人、祖父母6人というユニークな家族を営んでいます。第1話第2話では、そんな育児スタイルを紹介しました。自らの家族を築いたことで、「血のつながりはなくても、誰に認められなくても自分たちは家族であることは揺るがない」と杉山さんははっきりと言います。子育てや家族とはこうあるべきーー。日本社会でしばしば起こる同調圧力のほどき方は、「日常の風景として見せること」と言います。全3回のいよいよ最終回。杉山さんの誠実な言葉は、誰もが安全安心の中で子育てできる”普通”を問い直してくれます。

彼女との関係がぎくしゃくすると頭をよぎる不安

3人で親になる。そう自分たちで選んで決断しました。

一方で、僕たち家族の戸籍上の扱いは、パートナーである彼女がシングルマザーで子育てしていることになっています。僕の戸籍上の性別は「女性」ですから、婚姻関係を結べない。パートナーと法的なつながりはありませんし、子どもとは法的なつながりも血のつながりもありません。

いまでも、この関係性を不思議に感じることはあります。

自分の中にも「伝統的な家族」のイメージが刷り込まれていて、そこと合っていないからかもしれません。

彼女に対して、ずっと気になっていたこともありました。それは、彼女自身が「こういう子育てをしなければよかったと、どこかで思ったりしていないか」との不安です。

刊行したばかりの僕の本のタイトルは、『3人で親になってみた ママとパパ、ときどきゴンちゃん 』です。まさに、僕たちの家族を表している。ただ、1話、2話でお話しましたが、「ときどきゴンちゃん」の存在が加わるからこその楽しさもあれば、だからこそ発生する課題もある。

僕は当事者で、ゴンちゃんもLGBTQでいうと当事者。僕とゴンちゃんにとっては、自分たちだけで自然妊娠をして家族をつくる選択肢はありません。だから、現在の結果は納得のいくものです。

でも彼女の場合は、僕を選ばなければ、世間一般の家族をつくることができました。僕をパートナーにしたがために、しなくてもいい苦労をさせている……。そんな葛藤をぬぐいきれませんでした。

彼女との関係がうまくいかなくなると、(2人で育てるほうがよかったとか、こういう家族の形態を選ばなければよかったとか彼女はどこかで思っていないかな?)(怖くていまさら聞けないけど…)。そういった心配があったんです。

この間、直接聞いてみました。そんな風に思ったことはある?と。

彼女は、「ない!」と言い切りました。

彼女曰く、もちろん理想の形とは言えない。でもきちんと話し合って決めたわけだし、私たち2人だけでは子どもを授かれなかったのが現実だし。精子提供者であるゴンちゃんの「生まれてくる命に責任を持ちたい」という考えも尊重したい。そういうふうに考えているよ、と。

この言葉を聞いて、ほっとしたところがありました。

言葉を重ねるよりも、当たり前の風景として見てもらえたら

写真提供/杉山文野さん

こういう家族を営んでいることで、社会生活を送るうえで偏見に遭ったり、イヤな言動を受けたりすることはいまのところほとんどありません。

僕たちは、第一子が生まれて3カ月で包み隠さずオープンにしました。

子どものことを世間に公表することは、最後の最後まで悩みました。彼女やゴンちゃんにそれぞれの意思を確認することはできるけれど、子どもにはできないから。

ただ、この子が大きくなったときに、オープンにするかしないかを心配するような世の中でいいのかと疑問はありました。発信をすることで社会が変われば、この子にとっても生きやすい社会になる。隠して生活を続けるのは現実的ではない。そう考えるに至ったんですよね。

振り返っても、第一子が誕生したタイミングで公表してよかったと思います。

周囲がすでに、僕たちの家族形態を知ってくれています。

保育園の先生たちはフレンドリーで、僕たちの環境を理解していただいています。送迎で顔を合わせる保護者のみなさんも、『世界一受けたい授業』の出演回を見た感想をくれるなど好意しか感じません。オープンにすればするほど、応援してくれる人が増えています。

一方で、直接的には批判しないにしても、こういう新しい家族のかたちを受け入れ難い方もいらっしゃいます。そういう方には、僕たちが楽しく暮らしている日常の風景を見ていただくのが一番だと考えています。

「血のつながりなんて、関係ない!」と何度説明するよりも、家族でごはんを楽しく食べている姿とか、保育園にお迎えに行った僕に「パパ―!」と子どもが走って飛び込んでくる一部始終とか、日常の中で当たり前の景色になっていくことがすごく大事。

リアルな姿として受け取ってもらうことで、雪解けしていくと思っています。イソップ物語『北風と太陽』でいうところの、太陽のアプローチを大切にしています。

LGBTQだからと子育ての機会を諦めさせられているのはおかしい

子どものいる生活を経験したいまとなっては、あのまま子どもをもたないで暮らしていたら、人生の半分以上を損したのではないか。それが僕の正直な感覚です。

もちろん、この感覚はあくまでも僕のケースです。子どもがいないと幸せになれないなんて言うつもりはまったくないし、選択は人それぞれです。ただ、子どもを育ててから「自分の家族をつくることを、”諦めさせられていた”」といった意識に気づけました。

子どもがほしい、子どもを育ててみたいとの願望がありながらLGBTQだから諦めるとか、血のつながりがないから諦めるとか、そんな理由でこんなにも素晴らしい人生の機会を選べない、社会から諦めさせられている現状は絶対に変えたほうがいい。より強く考えるようなりました。

法的な関係性がなくても子育てはできるし、血のつながりはなくても愛情を持って家族になることはできる。そこには何も不安はありません。周囲から家族として認められなかったとしても、僕たちは家族だとの揺るがなさはあります。

でもだからこそ、自分たちの家族が法制度から漏れていることへの漠然とした不安はあります。

法制度から漏れている。子どもやパートナーを本当に守れるのか

家族が病気やケガをした、仕事を失ったというときに、社会が理解してくれなくて引き離されるのではないか。自分は子どもやパートナーたちを守れるのか。制度に守られている安心感は、いざというときとても重要だと痛感しています。人がよりよく生きるための制度にするために、変えていきたい。

僕個人の人生としては、いま、とても充実しています。

自分の心とからだが合ってない違和感は、ずっとあります。翌朝目が覚めたら男性のからだになれるのであれば、それに越したことはない。

でも、男性になりたいと1000回願おうが1万回願おうが、現実的におちんちんがいきなり生えてくることはないわけですよね。よいことも悪いことも含めて、いまある自分の素材をすべて生かしたうえで、自分の人生を楽しむ。それはできていると思いますかね。

杉山さんへの取材を終えて原稿をまとめているとき、「同性同士の結婚が認められないのは違憲である」との、北海道の同性カップル3組6人が国に訴訟を起こしていた札幌地裁の判決が出ました。憲法で保障された「婚姻の自由」や「平等原則」に違反すると、初めて司法判断が出たのです。現状の法律では、杉山さんはパートナーとも子どもとも法的なつながりはありませんが、社会と制度のほうが正される機運は高まっています。杉山さん家族のような存在が社会の中で普通になることは、誰もが安全安心の中で子育てする・生きられる世界につながる確かな希望でもある。やさしい社会への道筋を見せてもらえたインタビューでした。


取材・文/平山ゆりの

杉山文野さん(すぎやま・ふみの)
1981年東京都新宿区生まれ。フェンシング元女子日本代表。早稲田大学大学院でセクシュアリティを中心に研究し、2006年に体は女性だけれど心は男性のトランスジェンダーとしての青春と葛藤をつづった自伝『ダブルハッピネス』(講談社)を出版。卒業後2年かけて世界50カ国を巡ったあと、一般企業で約3年勤める。独立して飲食店経営をしながら、講演活動などLGBTQの啓発活動を行う。日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ条例制定にもかかわり、渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員やNPO法人東京レインボープライド共同代表理事を務める。2020年にパートナーの女性と精子提供を受けたゲイの親友との赤ちゃん出産までをつづったエッセー『元女子高生、パパになる』(文藝春秋)を出版。同年、杉山さんの人生をモデルとした小説『ヒゲとナプキン』(乙武洋匡著/小学館)が発売された。3人親での育児生活をつづった新作エッセー『3人で親になってみた ママとパパ、ときどきゴンちゃん』( 毎日新聞出版)が3月27日に発売される。

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