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「毎日会いに行きたい、でも行けない」NICUの赤ちゃんと家族をつなぐ新たな取り組みに注目

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病院の保育器の中の新生児の女の子投稿分娩室
※写真はイメージです
Kwangmoozaa/gettyimages

新型コロナウイルスの感染拡大以降、立ち会い出産・家族との面会禁止など、赤ちゃんと家族を取り巻く環境は激変しました。とくに出産後に新生児集中治療室(以下、NICU)に入院している赤ちゃんのママやパパは、わずかな時間しかわが子に会えない状況が続いています。そんな中、赤ちゃんと家族をつなぐ‟オンライン面会システム”の開発に取り組んでいるのが、大阪大学医学部附属病院(以下、阪大病院)の総合周産期母子医療センターです。
担当した小児科医北畠康司先生に、オンライン面会システムの可能性について聞きました。インタビューの後編です。

会えないと親子の愛着形成に影響する?

阪大病院のNICU入院している赤ちゃんたちはさまざまな病気を持っています。現在コロナ禍で面会時間は週1〜2回、1回30分のみ。新生児期に親子が会えないことで、ママやパパたちの心にも影響が出る懸念があると言います。

「NICUに入った赤ちゃんに対して、ママたちは『元気に産んであげられなかった』と自責の念を強くもつ傾向があります。さらにコロナ禍が重なり『会いに行ってあげられない』ことの無力感が追い打ちとなり、苦しみを抱えるママたちもいると感じています。
面会時間が限られることで、入院中の赤ちゃんがどんなふうにミルクを飲んだり泣いたりするのか、ふだんの様子もわからない上に、育児指導も不十分になり、ママは自信が持てず育児不安に陥る可能性も考えられます」(北畠先生)

NICUの赤ちゃんは健康面での心配事があり、ただでさえママやパパたちは不安を抱えています。また、新生児期に授乳やおむつ替えなど触れ合う時間がないと、わが子への愛情が薄れてしまうのではないかという心配の声も。

「面会ができないから愛情が薄れる、といった単純なものではないと思っています。しかしその一方で、面会もできず声も聞かないと、どうしても赤ちゃんのことを忘れてしまう瞬間がある。ふとしたときにそれに気づき、自分を責めることもあるでしょう。オンライン面会システムは、少しでも赤ちゃんのことを思い出してもらうためのきっかけになると思います」(北畠先生)

もちろん「直接会って、肌に触れる、抱っこする」に勝ることはありません。実際に会うことが100点だとすると、オンライン面会は30点くらいかもしれない、と北畠先生は言います。

「NICUに赤ちゃんが入院しているママは『どうして健康に産んであげられなかったんだろう』『どうしてこんなに小さく産んでしまったんだろう』などと考えすぎて、気持ちが打ち沈み内面に向かっていってしまうこともあります。オンライン面会で会えることで、その気持ちを少しでも浮き上がらせることができるかもしれないと思っています」(北畠先生)

NICUにいる赤ちゃんには、育児日記に空白ができてしまう

オンライン面会システムは、病院に会いに来られないときに赤ちゃんの様子がわかるだけでなく、赤ちゃんの成長を記録する育児日記の役割も果たせるかもしれないと、北畠先生は展望を話します。

「出産後に自宅で赤ちゃんと過ごすママたちは、育児日記やアプリで成長記録をつけますよね。授乳やうんちの回数やかわいい写真を記録し、パパとシェアしたり、アプリでアルバムを作れたりする。とても幸せな記録だと思います。
しかし、NICUにいる赤ちゃんとママにはその記録がほとんどありません。毎日顔が少しずつ変わって、体重も大きく変化する時期の育児日記が真っ白になってしまいます。それはどんなにさみしいことか。入院期間が長ければ長いほど、その喪失感は大きくなるでしょう。

オンライン面会システムでは、面会したときの写真や看護師が撮影した動画なども記録して保存できる機能をつける予定です。これらをうまく使えば育児日記を少しでも埋めることができるのではないか。今後はそのような取り組みに協力してくれる企業を探してみたいと考えています」(北畠先生)

オンライン面会が家族の絆を深めるツールに

面会時間が制限される親子をつなぐオンライン面会システムですが、気軽に様子がわかるようになる反面、心配されることもあると言います。それは、赤ちゃんに会いにくる頻度が下がってしまうかもしれないということ。

「NICUにいる赤ちゃんの家族が毎日面会に来るのは大変ですが、電車や車の中で赤ちゃんのことを思い、医師に何を聞こうか考える、そういった時間や苦労の記憶は貴重です。きっと後々まで強い思い出として残るでしょう。

しかし、オンラインで面会できると、赤ちゃんとの時間が弱い記憶でしか残らないおそれがあります。さらには、本当は面会に来られるのに、きょうだいの事情などで足が遠のき、オンラインだけで済ましてしまう可能性もあるでしょう。これらについては、今後さまざまな事例を積み重ねて、対応を考えていく必要があると考えています」(北畠先生)

新型コロナが収束したあとも、このオンライン面会システムと通常面会を組み合わせて運用する予定とのこと。

「コロナ以降もオンライン面会・オンライン診療への流れは途切れないはずだと思っています。今回のシステム開発にあたってプロジェクトチームに届いたメッセージの中に『毎日面会に行くのは都会だけのぜいたくです』という言葉がありました。大都市以外の地域ではNICUが数えるほどしかなく、自宅から通うと数時間もかかる。地域によっては、新型コロナがあろうとなかろうと毎日は会えないのです。オンライン面会システムは、そういう人たちのために必ず役に立ちます。

また、遠方や海外に単身赴任中のお父さんは、赤ちゃんに会えるのは数カ月後かもしれませんが、このオンライン面会システムなら毎日赤ちゃんを見ることができる。家族の絆(きずな)を深める選択肢が増え、コロナ禍が始まる前よりももっといい社会となる期待を持っています。

NICUだけでなく、長期入院している小児医療センターの子どもたちや、認知症を患った高齢者の方々の病棟にもシステムを導入し、家族と対話する機会を増やしていきたいと考えています」(北畠先生)

取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部

お話・監修/北畠康司先生

N I C Uに入院中の赤ちゃんのママは、赤ちゃんの健康面の不安や、さまざまな心配事を抱えています。さらに面会ができない状況では、わが子が育つ姿もわずかしか見られません。オンライン面会システムは、そんなママたちを少しでも助ける希望になるでしょう。

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