【医師監修】赤ちゃん・子どもの発達障害のサインとは?気になる様子、しぐさQ&A
赤ちゃんや子どもが日ごろよくするしぐさや行動が、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)、発達性協調運動障害(DCD)の特性に由来していることも。注意して見ておきたいしぐさや行動についてや、これらの障害に関連する疑問について、発達障害研究の第一人者である、お茶の水女子大学名誉教授で小児科医の榊原洋一先生に聞きました。
「なんだかうちの子は育てにくい」「この行動って普通なの?」など、毎日赤ちゃんや子どもと接していると、気になることがあるのではないでしょうか。そんなとき「発達障害」という言葉が頭をよぎるかもしれません。
まず大前提として理解しておきたいのは、「発達障害」は単独の障害の診断名ではなく、基本的には注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)、学習障害(LD)という3つの代表的な障害の総称です。また、発達性協調運動障害(DCD)、チック症、吃音は「発達障害に近縁の障害」と考えられています。
なぜ「発達障害」という総称で呼ばれるのかというと、どれも幼少期から症状がみられる、生まれつきの障害だからです。以下で「発達障害」と表す場合は、診断名ではなく、これらの障害の総称として使っています。
赤ちゃん(0~1才代ごろ)の気になるしぐさについて
脳機能に何らかの障害があることがわかるのは、早くても3才ごろと言われますが、赤ちゃん時代から見られるサインがあります。「サインがある=障害がある」とは言い切れませんが、赤ちゃんの様子を注意深く見守りながら、不安や心配があるときは、かかりつけの小児科医や地域の子育て支援センターなどに相談しましょう。
Q あまり泣かないし、あやしても笑いません
A 自閉症スペクトラム障害(ASD)の赤ちゃんは「手がかからない」という印象を持つことがあります
自閉症スペクトラム障害(ASD)の赤ちゃんは泣いて要求を訴えることをあまりしないので、「手がかからなくておとなしい子」と感じることがあります。ママやパパなど相手をしてくれる人を意識しておらず、あやしてもあまり笑わないことも多いです。
Q 人見知りをまったくせず、だれにでもニコニコしています
A 自閉症スペクトラム障害(ASD)だと人に興味が持てない可能性があります
人見知りは個人差が大きいので、人見知りをしないことだけでは、その子に何らかの障害があるのかどうかは判断できません。しかし、愛着行動をとる時期に後追いをまったくしない、1人にしても全然泣かない、あやしてもほとんど反応しない、目を合わせようとしないなども見られる場合は、自閉症スペクトラム障害(ASD)に当てはまる特性の場合があります。
Q ちょっとした音にも敏感に反応して泣きます
A 「感覚過敏」は自閉症スペクトラム障害(ASD)の子によく見られる特性
自閉症スペクトラム障害(ASD)の特性の1つに「感覚過敏」があり、音や光に敏感に反応し、嫌がったり怖がったりします。自分に触られることにも敏感なので、抱っこや歯磨き、耳掃除、つめ切りなどを嫌がることもあります。反対に、刺激に対する反応が鈍い「感覚鈍麻」がみられることもあります。
Q 毎晩何度も起きて夜泣きをするうえ、寝る時間がバラバラです
A 注意欠陥多動性障害(ADHD)の子どもは睡眠が不安定になりやすい
1才ごろまでの赤ちゃんは睡眠サイクルが整っておらず、夜泣きをしたり、昼夜が逆転したりするのはよくあること。しかし、毎日激しく夜泣きをする、何度も夜中に起きる、寝る時間がどんどんずれていくなど、日々の睡眠の不安定さが気になるときは、注意欠陥多動性障害(ADHD)の可能性があるかもしれません。
子ども(2才~6才ごろ)の気になる行動・しぐさQ&A
幼児期(2才~6才ごろ)になると人とのかかわりが増え、集団生活も始まるため、「ほかの子とちょっと違うかも…」「友だちとうまく遊べないみたい」など、気になることが増えてくる場合があります。この時期に現れてくることが多い、注意深く見ておきたい子どものしぐさや行動などについて紹介します。
Q 何らかの障害があることに気づくためのポイントを教えてください
A さまざま場面で子どもが苦労していることがないか観察を
何らかの障害がある子どもは、その特性によって特徴的な行動や反応がみられることがあります。以下のような様子が見られたからといって、必ず障害があるとはいえません。けれど、子どもが苦戦していること、生活のしにくさを感じていることに気づき、早めに対応することは、子どもが自分らしく成長するために大切です。
幼児期(2才~6才ごろ)の気になる行動・反応チェックリスト
●注意欠如多動症(ADHD)の特性
□おしゃべりは達者だけれど一方的に話すことが多い
□よくしゃべるけれど、大人の指示が伝わらない
□話を聞かなければいけない場面で動き回る
□話を聞いていない
□1つのことに没頭すると話しかけても聞こえない
□落ち着きがない、集中力がない、いつもぼんやりしている
□忘れ物が多い
□毎日のしたくや片づけができない
□集団で何かを行っているときに1人だけ、ぼ~っとしていたり、歩き回ったりする
●自閉症スペクトラム障害(ASD)の特性
□一人遊びが多い
□一方的で会話のやりとりがしにくい
□おとなしすぎる、いつも受け身
□大人や年上の子、年下の子とは遊べるけれど、同年代の子と遊べない
□失礼なことや人を傷つけることを言ってしまう
□友だちはふざけているだけなのに、いじめられたと感じてしまう
□急に予定が変わると不安になったり混乱したりする
□音に敏感でざわざわしていると耳をふさぐ、大きな音が苦手
□同じ洋服以外嫌がる
□手をつなぐのを嫌がる
□食べ物の好き嫌いが非常に激しい
●発達性協調運動障害(DCD)の特性
□体がぐにゃぐにゃしていることが多い、床に寝そべっていることが多い
□極端に不器用で、鉛筆やクレヨンなどの筆圧が弱い
□食べこぼしが多い
□自分の体の動きを調整するのが苦手で、乱暴だと思われてしまう
Q きょうだいや同年代の子と何となく違う気がして心配です
A 不安や心配を抱えたままにせず、専門家に相談を
ほかの子どもと比べて不安になるのはよくわかりますが、ママやパパの不安な気持ちが伝わると、子どもが自信をなくしてしまい、できることもできなくなってしまうことがあります。ママやパパは、子どもにおおらかに接しましょう。そのためには不安や心配を抱え込んだままにしないことが大切。まずは、かかりつけの小児科や保健所、子育て支援センターなどに相談してください。
Q 幼稚園でみんなと同じ行動がとれません…
A 幼稚園の先生と対応についてよく話し合いましょう
注意欠陥多動性障害(ADHD)などの特性によって集団行動が苦手な子どもは、「みんなと同じようにやりなさい」と強制したり、「なんでできないの!」としかったりすると、かえって状況が悪化することがあります。幼稚園での様子を担任の先生から聞き、どんな対応をしてもらえるか確認します。すでに診断がついていて専門の機関で指導・支援を受けている場合は、そこの先生にアドバイスしてもらうといいでしょう。
Q 落ち着きがないのが心配です
A まずは子どもの気持ちを受け入れて。どうすればよかったのかの説明はその後に
落ち着きがないのは、注意欠陥多動性障害(ADHD)の子どもによく見られる特性です。目の前に興味のあるものを見つけた、苦手な状況から逃げ出したい、この場でどうふるまえばいいのかわからない、大人に注目されたいなど、子どもが落ち着きのない行動をとる理由はいろいろあります。子どもなりに理由があることを理解し、子どもの気持ちを受け止めてください。そのうえで、どうすればよかったのかを具体的に伝えます。落ち着きがない子はどうしてもしかられることが多くなるので、落ち着いていられたときや、状況にあった行動が取れたときにほめることも大切。自信につながります。
Q 初めて行く場所や初めてやることがすごく苦手です
A 事前に具体的に説明し、できたことはたくさんほめる
初めての場所や初めてのことが苦手という気質の子は少なくありませんが、自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもにもよく見られます。初めての場所や活動に対する不安を減らしてあげることを考えましょう。初めての場所に行く前に、その場所の写真や絵などを見せて「ここに行くよ、〇〇があって楽しいよ」など具体的に説明します。そして、現地に行ったあと、落ち着いて過ごせたり、初めての活動に少しでも参加できたりしたらたくさんほめ、達成感を味わわせてあげましょう。
Q 音にひどく敏感なのが気になります
A 敏感になる音を特定し、その音を出さないように工夫する
自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもによく見られます。まず、子どもがどんな音に対して敏感になり、嫌がるのかを把握します。原因となる音がわかったら、その音は子どもの前ではできるだけ出さないようにする、苦手な音が出る場所は避けるといった工夫をすると、落ち着いて過ごせるようになるでしょう。また、大きな声を出す子は、嫌な音を自分の声で遮ろうとしていることがあります。この場合も同じように対応してください。
Q 同年代の子に比べて体の動きがぎこちないです
A 好きな遊びを通して体を動かす楽しさを実感させて
体の動きがぎこちないのは発達性協調運動障害(DCD)の特徴。自分の体を上手に使って動けない子どもは、動きがぎこちないことを友だちに笑われたり、失敗経験を重ねたりすることで、運動への苦手意識が強くなってしまいます。子どもが好きな遊びや無理なくできる動きをたくさんさせて、体を動かす楽しさを体験させてあげましょう。
発達が気になる場合の疑問いろいろQ&A
「『なんらかの障害があるかもしれない』と言われても、なにをどうすればいいのかわからない…」と悩むママやパパの疑問や気がかりを解決します。
Q 周囲の人にあまり興味がなさそうなのが気になります。いつどこで相談すればいいしょうか?
A 健診時やかかりつけの小児科を受診したときに相談してみて
健診の時期が近いなら、健診のとき保健師や医師に相談してみるといいでしょう。かかりつけの小児科を受診したときに相談するのもOKです。また、地域の療育センターや、発達障害者支援センターでも相談を受けつけています。どこに相談したらいいかわからないときは、役所や子育て支援センターに聞いてみてください。
Q 「グレーゾーン」ってどんな状態なの?
A それぞれの障害の診断基準を満たしていないけれど、発達の支援は必要な状態
注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)、学習障害(LD)、発達性協調運動障害(DCD)の特性がいくつか認められても、診断基準をすべて満たしてはいないので、確定診断をつけられない状態を「グレーゾーン」と表現することが多いですが、正式な診断名ではなく俗称です。グレーゾーンの子どもは障害の特性の一部を持っていると理解し、発達を支援する必要があります。
Q 「療育」では何をするの?
A 子どもが困っている特性を改善し、発達を支援します
「療育」は、子どもが困っている特性をできる限り改善しつつ、発達を支援していくことをめざします。地域の療育センターや障害児支援センターなどで受けることができ、臨床心理士、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士、保育士、医師などの専門スタッフが、子どもの発達段階や、障害の種類などに応じて適切な支援を行います。
「ちょっと気になる」しぐさや行動は、赤ちゃんのころから見られることがあります。子どもの個性の一つとして認めつつも、対人関係や集団生活で子どもが困難に感じることを減らせるようなかかわりは、早い時期から始めることが大切です。
取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部