子どもは5cmの水でおぼれる…!! 家でも起こりうる「二次溺水」「乾性溺水」注意点は?【医師監修】
これからやってくる本格的な夏。赤ちゃんや子どもがいる家庭では、庭に出したビニールプールやおふろに、少しだけ水を張って水遊びを楽しませることもあるかもしれません。その際、赤ちゃんや子どもがおぼれないように注意することが最も大切ですが、ほんの一瞬、水を吸い込んでしまったことが原因で、おぼれてしまうことがあります。
たとえば、おぼれて数時間たってから呼吸困難が現れる「二次溺水(にじできすい)」、肺の中に水が入っていないのに窒息(ちっそく)してしまう「乾性溺水(かんせいできすい)」といわれるものです。この、あまり聞いたことのない「二次溺水」「乾性溺水」とはどのような状態なのか、どんなことに注意すればいいのかを、小児科医の山中龍宏先生に解説してもらいました。
聞きなれない言葉「溺水(できすい)」とは?
溺水とは、水やそれに類似する液体が気管・気管支から肺に入り、肺呼吸ができなくなって窒息状態になることを表した医学用語です。溺水状態から24時間のうちに死亡すれば溺死(できし)となります。
「日本は諸外国に比べて、子どもの溺死、とくに家の中での水の事故が多く発生しています。ほんのわずかな水しかなくても、鼻と口が水に覆われてしまえば、溺水状態になってしまう可能性がありますので、家の中であっても十分な注意が必要です」(山中先生)
「二次溺水」ってどういうもの?
水中でおぼれたところをすぐに救助されて、そのときは問題のない状態だったものの、その後24時間ほどの間に再び状態が悪化する症状を二次溺水といいます。
時間がたってから悪化するのはどうして?
おぼれたときに肺に水を吸い込んだことが原因で、1~24時間のうちに肺に体液がたまってしまう、または、肺に吸い込んだ水の中の小さな異物や細菌が刺激となって、呼吸困難(こきゅうこんなん)やせきを生じさせたり、肺水腫(はいすいしゅ)を起こさせたりするためです。
「通常は、肺の中に少量の水が入ったとしても吸収されたり排除されたりしますが、そういった機能が働かなかった場合には二次溺水となります。二次溺水も医学用語です。まれに、二次溺水から肺水腫になることがありますが、そこから死に至ることは非常にまれです」(山中先生)
どんな状況で二次溺水は起こるの?
肺に入った水分が、何らかの理由でうまく吸収されなかったり、排除されなかったりした場合に起こるといいます。
「たとえば、おぼれかけて救助された子どもが、いつまでたっても呼吸が苦しそうなので、両親が心配になって病院に連れてきたとします。しかし、医師には、なにが原因で呼吸困難になっているのかわかりません。そこで、両親に話を聞いてみたら、実は数時間前におぼれかけていたということがわかり、『それなら二次溺水でしょう』と診断することになります。このように、あとから状況を振り返った上で二次溺水は診断されるものであり、その場合はかなり大変な状況で、治療が必要な状態であるといえます」(山中先生)
どんなことに注意すればいいの?
もし、子どもがおぼれかけたという状況があったら、そのあと1~24時間のうちは、子どもの様子を注意深く見守る必要があります。
「子どもがおぼれかけたのち24時間以内で、呼吸困難やせきの悪化、胸の痛み、嘔吐(おうと)、普段と違うぐずり方が見られた場合は、二次溺水の疑いがありますので、すぐに救急で受診するようにしてください」(山中先生)
「乾性溺水」ってどういうもの?
肺の中に水が入っていないのに、呼吸困難の状態になることを「乾性溺水」といいます。「おぼれる」といわれて、私たちがすぐに思い浮かべる、肺の中に水が入って呼吸困難の状態になることは「湿性溺水(しっせいできすい)」といい、溺水の症例の大半を占めます。
肺に水が入っていないのに溺水ってどういうこと?
乾性溺水は、冷たい水などを急に吸い込んだ刺激で、空気の通り道である喉頭部(こうとうぶ)がけいれんを起こしてしまい、声門が閉じて窒息、低酸素状態に陥ることをいいます。
「肺に水は入っていないのですが、乾性溺水を起こして意識を失ったあとにおぼれてしまうことから、溺水の一種とされています。乾性溺水であるかを診断するためには、肺の中に水が入っていないかをレントゲンで確認する必要があります。ただ、乾性溺水が溺水のうちに占める割合は非常に少ないです」(山中先生)
どんな状況で乾性溺水は起こるの?
「たとえば、いきなりプールに飛び込んだところ、冷たい水を一瞬吸い込んでしまい、その刺激で声門が閉じて窒息状態になる、というような状況が考えられます。乾性溺水による窒息状態が続くと、脳に酸素が回らなくなり、そのまま意識を失ってプールの中に沈んでいってしまい、結果的におぼれてしまいます」(山中先生)
どんなことに注意すればいいの?
乾性溺水の主な症状は、呼吸困難、けいれんです。水の中にいる子どもの様子がおかしいと思ったら、すぐに水から引き上げてください。
「症状が出始めると、無呼吸状態が8~10分ほど継続するので、すぐに救急車を呼びます。救急車が来るまでは心肺蘇生(しんぱいそせい)術を行うことで、90%近くが蘇生します。今の時代、心肺蘇生術は生活するための基本的な技術ですので、ぜひ知っておいてください。おぼれた子どもをかたいところに寝かせ、胸骨圧迫を行います。
乾性溺水を起こすことは非常にまれなことですが、そういうことも起こりうるんだと、頭の片隅に入れておくことが大切です」(山中先生)
溺水事故を防ぐには
日本における溺水事故のうち、二次溺水や乾性溺水の割合は、わずか2~5%といわれています。
「溺水のなかでも非常にまれなケースであり、二次溺水や乾性溺水であるかは、医師の診察を受けない限りは判断できませんので、それほど神経質に気にする必要はないでしょう。親としてできることは、プールやおふろでの子どもの様子をしっかりと見守り、おぼれかけたり、水を吸い込んでしまったりしたあとには、子どもに異変がないか、より注意を向けておくことが大切です」(山中先生)
とにかく子どもをおぼれさせないことが大切
「ほかの国に比べて日本では、家の中での水の事故が多く発生しています。乳幼児は、水深が5cmもあればおぼれてしまうというデータがあります。鼻と口が水でふさがれ、5分でも呼吸ができなくなれば、重大な状況となってしまうからです」(山中先生)
ほんのわずかの水しかない場所であってもおぼれる危険があると考えて、赤ちゃんや子どもだけで、水のある場所には絶対に近づかせない、また、水遊びや入浴の際には目を離さないようにしましょう。
家の中での水の事故を防ぐために、以下の点に注意をしましょう。
【おふろ】
5cmの水深でもおぼれるので、残し湯はNG。浴槽のまわりに踏み台になるものを置かないようにする。
(※最近は災害対策の視点から浴槽に水をためておく考えもありますが、その場合は浴室に確実にカギをかけ、子どもが入れないようにする必要があります)
【洗面所】
洗濯機をのぞき込んで転落し、おぼれることも。洗濯機のまわりに踏み台になるものを置かないようにする。
【ビニールプール】
5cmの水深でもおぼれることがあるので、遊ぶときは1人にせず、必ず大人が見守る。大人の目が届く範囲ではなく、大人の手が届く範囲で泳がせる。
【首輪型浮輪】
水遊びやスイミングの練習用として、大人が見守りながら使う。入浴中は使わないようにする
お話・監修/山中龍宏先生 取材・文/ひよこクラブ編集部
「おぼれる」「溺水」といっても、さまざまな状態があることがわかりました。二次溺水のように、いったんは大丈夫だと思っていたのに状態が悪化したり、乾性溺水のように、それほど水を吸い込んでいないのに窒息状態になってしまったりすると聞くと、恐ろしく思いますが、とにかく子どもをおぼれさせないことに越したものはないと心得て、対策をしていきたいものです。