「黒い服はNG?」「水遊び中は蚊に刺されないってホント?」乳幼児の虫刺されQ&A【小児科医】
夏が本格化し、虫刺されのトラブルも気になる季節です。赤ちゃんの虫よけ対策についてママやパパたちが気になることを、帝京大学医学部附属溝口病院の小児科医、黒澤照喜先生に聞きました。
赤ちゃんを虫(蚊)刺されから守るために気をつけたいこと
夏から秋にかけての季節は、ちょっとした短時間のお散歩でも、気づかないうちに蚊に刺されてしまうこともあります。乳幼児は大人より蚊に刺されやすく、腫れやすいのだそうです。
「蚊は人が発する二酸化炭素・体温・皮膚からの水分・体の動きなどに総合的に反応します。大人より代謝がよく体も動く乳幼児は、蚊に刺されやすいのです。
蚊に刺されて腫れるのは、蚊が人の血液を吸うときに注入する麻酔薬のような成分に、人体がアレルギー反応を起こすからです。このアレルギー反応は1回目の場合はそれほど大きく現れませんが、2回目以降は体が異物と認識するため、より強い反応になります。子どもは複数カ所刺されることも多いので、アレルギー反応が起きやすくなり腫れがひどくなります」(黒澤先生)
また、日本ではそれほど心配がないものの、蚊は感染症を媒介する可能性もあるといいます。
「近年話題になったデング熱やジカ熱は蚊(ヒトスジシマカなど)が媒介する感染症です。また、日本脳炎も蚊(アカイエカなど)が媒介するウイルスによって発生します。いずれも日本で生活している分にはほとんど気にしなくていいですが、蚊に刺されないように予防するのは大切ですね。日本脳炎は、ワクチンで予防できるので必要な時期に予防接種をしておきましょう。
蚊は、風通しの悪い草むらや屋外に放置されたおもちゃや用具などの水たまりでも発生します。赤ちゃんは、そのような虫に刺されやすいところに近寄らせないことが原則です。虫に刺されそうな場合は赤ちゃんに使用できる虫よけ剤を選びましょう」(黒澤先生)
虫刺されが悪化すると…
通常虫刺されは、しばらくすると腫れや赤みが引いて、ほとんど跡は残りません。問題は、かきこわすととびひなどのトラブルになってしまうことです。
「虫刺されが悪化すると、とびひや蜂窩織炎(ほうかしきえん)が起こることがあります。とびひは皮膚表面の感染、蜂窩織炎は皮膚の中の感染で、いずれも赤く腫れて痛がります。このような症状が出たら小児科などの受診が必要です」(黒澤先生)
とびひや蜂窩織炎は、虫刺されを
[1]かゆがる
[2]皮膚をかきこわす
[3]傷に細菌が付着し増殖をする
という過程で起こるのだとか。各過程での予防について、黒澤先生に教えてもらいました。
[1]蚊に刺されたところをかゆがるとき
かゆみ止めなどの軟膏を塗りましょう。さらに、アトピー性皮膚炎や湿疹、あせもなど肌荒れの状態では皮膚が過敏になってかゆみをより強く感じます。普段のスキンケアもかゆみを減らすのに有効です。
[2]かきこわしを防ぐ
かきこわしを防ぐには、以下のような対策が有効です。
・長袖、長ズボンなどの衣服の調整をする(ただし、あせもにならないよう汗をかいたら放置せず、ふいたり着替えたりしましょう)。
・ばんそうこうなどで虫刺され部位を密閉する、
・つめを短く切り、かいても傷にならないようにする
寝ている間のひっかき防止にミトンをつける方法は、赤ちゃんが暑くて嫌がったりあせもで肌荒れが起こったりすることがあるので、夏場はあまりおすすめしません。
[3]傷についた細菌の増殖を防ぐ
虫刺され部位や手・つめを汚れたままにせず、石けんで水洗いすることが大切です。手のアルコール消毒は細菌対策として有効ですが、虫刺され部位へは刺激が強くなるので避けましょう。また、意外と盲点となるのが鼻水。鼻水には細菌がたくさん存在します。鼻をこすった手で肌をひっかくと細菌が付着して増殖する原因に。鼻水が出ていたり鼻詰まりの状態があれば、鼻水を吸引して鼻をいじるのを防いであげましょう。
服装は?時間帯は?気になる虫よけ対策Q&A
黒澤先生に、虫刺されや虫よけについて気になる質問に答えてもらいました。
Q 夏の外出時、赤ちゃんが虫に刺されないために、気をつけたほうがいいことは?
【黒澤先生より】
日ざしが強く気温が高い時間帯は蚊の活動も鈍ります。くもりの日や、夕方から夜、朝など気温が25~30度の状況はお散歩もしやすいですが、蚊も最も活動するとされています。その時間帯は注意をしましょう。
また、水辺や植物が生い茂っているところなど蚊に刺されそうな場所に近づかないことも大切です。自宅では蚊の発生を防ぐことも心がけましょう。庭やベランダのおもちゃやじょうろ、植木鉢などに水をためたままにしないことが、蚊の発生を防ぐのに有効です。
Q 虫刺されが赤く腫れたら、市販の塗り薬を使用していいの?
【黒澤先生より】
虫刺され用の市販薬は、かゆみを抑える成分とスッと感じる成分(メントール)が入っています。いずれも害はないですが、メントールがきつそうな場合は市販の塗り薬は避けましょう。赤ちゃんに使用していいと表示があるものは使って構いません。なお、受診をすればかゆみ止め・ステロイドなど、適切なものを処方してもらえます。
Q 外遊びが大好き。夏でも長袖・長ズボンにしたほうがいいですか?
【黒澤先生より】
肌を隠すことで蚊に刺されづらくなりますので、長袖・長ズボンは有効です。しかし、真昼に長袖だと熱がこもって熱中症のリスクも高まるため注意が必要です。また、蚊は、二酸化炭素・体温・汗・体動などに反応するとされていますが、黒い服に集まるという習性もあるようです。熱中症対策の面からも、黒は避けたほうがいい色かもしれません。
Q ベランダや庭でのプール遊びではこまめに虫よけ剤を塗ったほうがいい?
【黒澤先生より】
水遊び中に皮膚に水がついていると蚊には刺されにくくなりますので、蚊取り線香などを併用するだけでもいいかもしれません。蚊取り線香の煙は害虫に対してのみ効果があり、通常の使い方であれば赤ちゃんが吸い込んでも影響はありません。
使用の際はやけどをしないよう、子どもが触らない場所に設置しましょう。また、ベランダや庭で蚊が発生しないように、水たまりを放置しないことも大切です。
Q スプレータイプの虫よけは何才ころから使えますか?
【黒澤先生より】
虫よけの成分や濃度によって使用できる年齢や回数が異なります。イカリジンという有効成分はどの年齢に使用してもいいですが、ディートという有効成分は生後6カ月以降の使用とされているので、説明書を確認しましょう。ミストタイプやスプレータイプの虫よけ剤を吸い込んでしまう恐れがある小さな子どもには、大人が手のひらに出してつけてあげるといいでしょう。また、子どもがいたずらしないような場所に保管することも大切です。
Q 足の裏をアルコール除菌すると蚊に刺されにくくなるの?
【黒澤先生より】
そのような研究もあるとされています。アルコールにかぶれなければ足の裏をふいてもいいですし、水でふくことでも一定の効果はあるかもしれません。ただ、これだけで完全に虫刺されを予防できるわけではないため、ほかの対策も忘れずに行ってください。
Q マダニの害が増えていると聞きます。気をつけたほうがいいことは?
【黒澤先生より】
マダニは最近は山の中だけではなく、草地や山の近くに住む乳幼児が刺されたという報告があります。マダニに刺されて起きる日本しょう紅熱という病気の場合は、発熱・発疹・刺し傷が特徴的ですが、乳幼児の場合は刺し傷がはっきりしない場合もあります。受診する際には、マダニに刺されそうな場所に行ったことを伝えるようにしてください。また、予防としては草むらに入らない、ダニに刺されないような服装にすることが最も大切です。さらに、虫よけ剤はマダニが寄らなくなり、帰宅後の入浴はマダニを見つけたり流したりできるため効果があります。
取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
服装や虫よけ剤だけでなく、家のまわりに蚊が発生しないようにするのも対策の一つです。夕方など、蚊の活動が活発になる時間帯に外遊びやお散歩をするときには、虫よけ対策をしっかりしてあげましょう。