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「眠れない、働けない、孤独」…医療的ケア児を育てる親の悩み。SNSで応援の輪が広がり、「医療的ケア児支援法」の成立を後押し

(祐人さん1歳の誕生日に向けて 2020.10.25 photo by Kazuki Yasuda https://playphotostudio.com/)

特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。

今回は、2021年9月の施行で注目が集まる「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(以下「医療的ケア児支援法」)を特集。医療的ケア児とその家族が抱える悩みとは? 「医療的ケア児支援法」によって社会はどう変わっていく?

医療的ケア児である長男・祐人さん(1歳10ヵ月)を育てている医師で、「医療的ケア児支援法」成立に向けた署名活動も行った、久保ちひろさんに話を聞きました。

★SDGs WEEK|SDGs週間★
SDGs(持続可能な開発目標)が採択された9月25日(GLOBAL GOALS DAY)を含む約1週間は、SDGsへの意識を高め、行動を起こすきっかけづくりのため世界中でイベントなどが開催されます。「たまひよ」では、だれもが産み育てやすい社会と、サステナブルな子どものミライの実現をめざして、ソーシャルグッド活動を随時発信しています。

「出産後、この子は生きられるの?」…妊娠中に感じた不安

――医療的ケア児である祐人さんの異変に気づいたのは、いつ頃だったのでしょうか?

久保ちひろさん(以下敬称略):妊娠12~13週の頃です。祐人は、へその緒の中に胃や腸、肝臓といった臓器が飛び出す「臍帯(さいたい)ヘルニア」を患っていました。妊娠中のエコー検査では発見されないこともありますが、祐人の場合は、最重症にあたるケースでしたので、エコー検査ですぐわかったんです。

臍帯ヘルニアは染色体異常を合併しやすいため、生きて生まれるのか強く不安に思いました。祐人には2人の姉がいて、10歳近く年が離れています。久しぶりに新生児を抱っこできるのを楽しみにしていたのですが、「すぐにNICUに入るだろうから、抱っこできないかもしれない」「そもそも、この子は生きられるの?」という感情がうずまきました。医師として冷静に見ている自分と、母としてとても冷静ではいられない自分とが混在して、とても苦しい時期でした。

――出産後、すぐに「臍帯ヘルニア」の手術をされたんですか?

久保:はい。祐人の場合は7回手術を繰り返して、臓器をおなかの中にいれて閉じるまでに1年以上かかりました。

加えて、生まれてきたときはお腹の内臓がほとんど飛び出ていて体幹が細く、肺が育っていませんでした。呼吸の維持に難渋して、半年間は気管挿管され、NICU(新生児集中治療管理室)で絶対安静の状態に。その後GCU(新生児回復室)、一般病棟へと移り、生後10ヵ月直前でやっと退院できました。

子どもが自由に動けるのは、人工呼吸器のチューブが届く半径2メートル

(退院翌日、2番目のお姉ちゃんと 2020.8.22 自宅にて撮影)

――生後10ヵ月から、いよいよ自宅での生活がスタートしたのですね。在宅では、どのような医療的ケアが必要になりましたか。

久保:退院した直後の祐人は、気管切開チューブと人工呼吸器、酸素濃縮器を装着していて。ほぼ寝たきりでしたから、小児病棟にいる延長で、親が看護師のようにケアする日々でした。鼻の穴から十二指腸まで通した管(EDチューブ)からポンプを使ってミルクを注入し、鼻から胃に入れた胃管から薬を入れていました。

ただ、今年の4月にEDチューブ、8月に胃管も抜け、1歳10ヵ月の今、装着しているのは人工呼吸器だけです。食事も口からとれています。主治医の先生が「信じられない」とおっしゃるほど、急速に成長しています。

現在必要な医療的ケアは、気管切開した部分を清潔に保ったり、痰を吸引したりすること。長いあいだ、鼻から栄養をとっていたので、食べ物に興味が持てず、根気強くスプーンを差し出して食事をさせることもあります。

――生活の不便さを感じることはありますか?

久保:成長と共に、悩みや困りごとも変化していますね。祐人は今、座った状態でよく動くようになったのですが、人工呼吸器のチューブが2メートルしかないんです。だから、機械から離れすぎるとチューブがピーンと張って、苦しくなってしまう。「これ以上は動いちゃダメだよ」と言ってわかる年齢ではないので、私が人工呼吸器を持って、祐人を追いかけています(笑)。

最近、台車を購入しました。本来の用途は、つかまり立ちができるようになった子どもが使う手押し車なのですが、台の部分に人工呼吸器を乗せています。「手押し車を使うと追いかけやすいよ」と動ける医療的ケア児を育てるママたちに聞いて、すぐに買いました!

手押し車を使っている様子

(台車を自分で引っ張って移動することも 2021.9.24 自宅にて撮影)

子どもの預け場所がない 親たちを苦しめる、弱い命を守り育てる重圧と孤独

――医療的ケア児を育てているご家族は、どんな悩みを抱えているのでしょうか。

久保:医療的ケア児を育てているママやパパからよく聞くのは、深夜にも、たんの吸引などをする必要があったりして、「寝られない」「まとまった睡眠がとれない」という声。たとえばママ自身が体調を崩しても、子どもを一人にしたり、抱っこ紐で連れていったりすることができませんから、病院にも行けない。医療的ケア児の世話でいっぱいいっぱいになり、“自分の心と体を守ること”さえできずに苦しんでいるママ、パパが全国にいます。

そして、最も根深い悩みは「孤独」ではないでしょうか。ずっと家にいる生活で、気軽に友だちと会えないのもありますし、まわりにわかってくれる人がいない。ふだんの生活で、医療的ケア児を育てているママやパパに出会えるのは皆無ですから。たとえ症状が違っても、「今、こういうことが大変でさ~」「わかる!わかる!うちも、こういう時期があって…」と言い合えたら、気持ちが軽くなりますよね? そういう関わり合いをなかなか持てないんです。

ただ、私の場合は、SNSに救われました。Twitterを始めて、全国にいる、医療的ケア児を育てているママやパパとつながれたんです。SNSがなかったら、私も、相当孤独を感じていたんじゃないかなと思います。

私は放射線診断が専門の医師ですが、今年5月に、クリニックを開業しました。患者さんが自宅から気軽に受診できるようにしたいと、オンライン診療も始めたんです。医療的ケア児を育てているお母さんが「ちょっと気になることがあって…」と受診してくださることもあり、「始めて良かった」と感じています。オンラインでも、顔を見てお話することで、誰かとつながっている安心感を得られますから。

――医療的ケア児を育てる家族の悩みとして「共働きができない」という声もあります。久保さんは、いかがですか。

久保:そうですね。長女や次女のときと同じように、祐人の妊娠中にも、一応「保活」をしたんです。祐人の症状が軽ければ、保育園に入れられるかもしれないと思って。

長女や次女のときは、「自宅から通える距離か」「何時から何時まで預かってもらえるか」など親の都合を優先に考えていましたが、祐人の場合は、彼の健康や体調が最優先になります。結局、0歳から保育園に預けられる状態ではありませんでしたから、それ以上の積極的な保活はしませんでした。

ただ、同じように医療的ケア児を育てているママに話を聞くと、一般の保育園で預かってもらうのは、やはり難しいようです。医療的ケアがあることで保育園や学校に通えなかったり、保育園や学校への常時付添を余儀なくされたりして、仕事を辞めざるを得ない親御さんもいます。

私自身も、祐人が在宅ケアに移行してから、障害児を受け入れている保育園に申し込みましたが、定員が埋まっていて、2年待ちの状態でした。医療的ケア児を預かってくれる場所がまったく足りていないのだと思います。

病院のメディカルソーシャルワーカーさんや、相談支援専門員さんに相談して、無理のない範囲で児童発達支援施設のデイサービスを利用してみようということになり、祐人が1歳5ヵ月になった今年度から通っています。私は開業したクリニックや在宅で働けるため、デイサービスを利用しつつ、ときには家で子どもを見つつ、夫と協力しながら、自分のペースで働いている状態です。

賛同・応援の声に背中を押され、スタートした署名活動

署名活動のきっかけとなった久保さんのツイート

――久保さんは「医療的ケア児支援法」の成立を呼びかける署名活動を行われました。どのような思いで活動されていたのでしょうか。

久保:実は、ここまで「医療的ケア児支援法」の成立に向けた活動をするとは、私自身まったく思っていませんでした。

きっかけはSNSでの投稿です。私が所属している、医療的ケア児などのがんばる子どもと家族を支える会「Wings」で知り合ったママが、「医療的ケア児支援法」の成立を応援したいからと、法律の内容をわかりやすくまとめたスライドをつくりました。そのスライドをTwitterでシェアしたら、想像以上に反響があって。Twitterでつながっている仲間が拡散し、応援してくれたのはもちろん、医療的ケア児についてご存知ない方からも、「とても必要な制度だと思う」「賛同します!」と、あたたかいコメントをたくさんいただいたんです。すると次々に「署名活動しないんですか?」という声が寄せられるようになって…。

正直「えっ?署名?…私が署名活動するの?」と戸惑っていたのですが、声援に背中を押されるように話が進んでいき、「医療的ケア児支援法」の内容を広く周知しようと活動をされていた方たちを紹介いただいて、仲間に加えてもらいました。

――結果、2万6578人もの署名が集まり、「医療的ケア児支援法」の成立に向けた“追い風”となりました。

久保:すごいことですよね。医療的ケア児が増えているとはいえ、私たちはマイノリティです。それなのに「こんなにも応援していただけるの?」と驚きました。ずっとドキドキしていたのですが、一度も炎上しなかったんです。あたたかい支援の輪がどんどん広がっていったのは、本当にありがたいことでした。

2021年6月に、参議院本会議で「医療的ケア児支援法」が無事可決され、9月に施行されました。「医療的ケア児」という言葉を社会に知ってもらう機会になったのは、とても大きなことだったと思います。

長い間、障害児は、「歩けるか」「言葉がどのぐらいわかるか」によって分類されてきました。ただ、医療的ケア児のうち、およそ6割が歩けず言葉もわからない一方、およそ3割は歩ける子どもだということを示した調査報告(※)があります。
歩ける医療的ケア児は、従来の心身障害児の分類に当てはまらないため、既存の公的サービスや制度だけでは支援が不十分でした。

今回制定された「医療的ケア児支援法」では、従来の制度で取りこぼされていた子どもたちも適切な支援を受けられる、学校などで学ぶ権利を守れる、意味ある法律だと捉えています。


※引用元:厚生労働省「「医療的ケア児に対する実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関する研究」の中間報告 (平成28年度厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業)」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000147259.pdf

病気や事故など後天的な理由で医療的ケア児になることも 「医療的ケア児支援法」は、すべての子どもに関係し得ること

(お姉ちゃんたちとタブレットで遊ぶ 2021.9.13 自宅にて撮影)

――「医療的ケア児支援法」への期待や、これからの社会に望むことについて教えてください。

久保:学校でも、会社でも、社会でも、医療的ケアを必要とする人を、もっと見慣れてほしいという気持ちがあります。

私自身、医療的ケア児を育てる親になって初めて、顔にチューブのついた息子を外に連れていくと、こんなふうに物珍しそうにジロジロと見られるんだなと知りました。こっそり見ているつもりでも、こちらはすぐわかります(笑)。以前は、そういうときに、自分の心の置きどころがわからなくて戸惑いましたし、落ち込んだ日もたくさんありました。

ただ、それはみなさんが、医療的ケア児を見慣れていないからだと思うんです。初めて出会う人には拒否反応を起こしやすいとも感じます。だからこそ、学校でも会社でも、必要以上に分離せず、あたりまえに居ることで、お互いに知り合い、慣れていくことができたらと願っています。

医療的ケア児への支援を何十年にもわたって続けている自治体もありますから、先駆者である地域や行政から情報をシェアしてもらい、医療的ケア児の支援に柔軟に取り組んでくれる学校や施設が増えることを期待しています。「あの子は、こういう理由でチューブが必要なんだね」「ここに気をつければ、あとは他の子と同じだね」という感覚が広まったら、うれしいです。

医療的ケア児というと、先天性の疾患により生まれつき障害を持っている子をイメージされるかもしれませんが、病気や事故などの後天的な理由で医療的ケアが必要になる子もいます。たとえば転んだ拍子に食べ物をのどに詰まらせたり、風邪やインフルエンザがきっかけになったり。実は、誰にとっても、そうなる可能性があることなんです。もしも医療的ケアが必要になったとき、通い慣れた学校をやめずにすむ。親が仕事をあきらめずにすむ。そういう社会を実現させる一歩が、「医療的ケア児支援法」なんです。

――最後に、現在妊娠中のプレママ・プレパパ、また乳幼児を育てている親御さんへのメッセージをお願いします。

妊娠中も生まれた後も、「この子はすくすく元気に育ってくれるかな」と不安を覚えることがあると思います。なかには、生まれつき病気を患っていたり、育っていく中で医療的ケアが必要になったりする子もいるでしょう。孤独になりがちな育児ですが、「一人じゃないよ」「私も医療的ケア児を育てているよ」「あなたも、きっと誰かとつながれるよ」と伝えたいです。

子どもが病気になったり、障害を持ったりすることは、親にとって、ときにこれ以上ないほどの悲しみやショックを受ける出来事かもしれません。でも、どんな子も、本当にかわいいです。医療的ケアが必要でも障害があっても、病気になっても、胸を張って「私の子どもはかわいい」と言いたいし、自信を持って育てていけるような社会になってほしい。そして安心して子どもが羽ばたき溶けこんでいけるような世の中になってほしいと思います。少しずつ社会は良くなっていると私は信じています。同じ時代に子どもを育てているママパパとして、一緒に子育てしていきましょう。

取材・文/猪俣奈央子

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