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「初めて“子育てをしてる”って感じられた」心に残る医療的ケア児の母親の言葉。6月に可決された法律で変化の兆しが

出典:認定NPO法人フローレンス

本特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。

今回は2021年6月に参議院本会議で可決され、9月より施行予定の「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(以下「医療的ケア児支援法」)について取りあげます。

日本には、胃ろうやたんの吸引、人工呼吸器といった医療的なサポートを受けながら生活している「医療的ケア児」が約2万人いるといわれています。
その医療的ケア児を明確に法律上で定義し、国や地方自治体が、医療的ケア児とその家族を支援する責務を負うことを明文化した法律が「医療的ケア児支援法」です。

日本における医療的ケア児とその家族をとりまく現状や課題とは? 法律の施行で社会はどう変わるのか。「医療的ケア児支援法」の制定に向けた活動を行い、医療的ケア児保育・支援の最前線で環境改善に取り組んできた、認定NPO法人フローレンス 障害児保育園ヘレン事業部の森下倫朗さんに話を聞きました。

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SDGs(持続可能な開発目標)が採択された9月25日(GLOBAL GOALS DAY)を含む約1週間は、SDGsへの意識を高め、行動を起こすきっかけづくりのため世界中でイベントなどが開催されます。「たまひよ」では、だれもが産み育てやすい社会と、サステナブルな子どものミライの実現をめざして、ソーシャルグッド活動を随時発信しています。

東京に医療的ケア児を預かる保育園が、ない…!?

認定NPO法人フローレンス 障害児保育園ヘレン事業部の森下倫朗さん

―― まずは、日本における医療的ケア児とその家族をとりまく現状についてお聞きします。フローレンスは2014年、日本で初めて医療的ケアを必要とする子どもや障害児を専門に長時間保育を提供する「障害児保育園ヘレン」を開設しました。立ち上げには、どんなきっかけがあったのでしょうか。
森下倫朗さん(以下敬称略):たしか2012年だったと記憶していますが、世田谷区にお住まいの親御さんから連絡をいただいたんです。「医療的ケアが必要な子を保育園に通わせたいが、どこも受け入れてくれない。医療的ケア児を預かってくれる施設を知りませんか」と。
しかし、私たちは障害児が通える保育園や施設についてまったく知りませんでした。そもそも「医療的ケアが必要なことで保育園に入れない子どもたちがいる」ということを理解していなかった。親子の笑顔をさまたげる社会問題を解決すると標榜しておきながら、「そんなことも知らなかったのか」と、私たち自身もショックを受けました。
東京都23区中の保育課に問い合わせましたが、結局、一カ所も見つからず。探しに探して、最終的に見つけたのが、神奈川県の鶴見区にある認証保育園。NICUの看護師をされていた方々が立ち上げたという特殊な背景を持つ園でした。結局、ご家族は、その保育園に通うために世田谷区から横浜市に引っ越されました。

――23区内に、医療的ケア児を受け入れる保育園が一カ所もなかったんですか…?

森下:そうなんです。約900万人が暮らす東京23区で、たった一人の障害児も救えない。そのことに僕らは、ものすごい衝撃と深い痛みを感じて。そういう現状があるのであれば、フローレンスがつくろうと決意しました。医療的ケアを必要とする子も、重い障害がある子も、普通の保育園と同じように毎日通え、長時間預かれる施設を。

そこから準備を始め、2014年に杉並区の荻窪で、日本初の障害児の長時間保育施設として「障害児保育園ヘレン」を開設します。2015年には自宅でマンツーマン保育する「障害児訪問保育アニー」を、2019年には18歳までを対象とする訪問支援「医療的ケアシッター ナンシー」をスタート。「障害児保育園ヘレン」も現状では都内で5園まで増えています。

また、今年4月には東京都品川区に、障害の有無にかかわらず親子が交流・相談できる「インクルーシブひろば ベル」を開設しました。

医療的ケア児の居場所が増えない理由

認定NPO法人フローレンス 障害児保育園ヘレン事業部の森下倫朗さん

――新生児医療の発達により、医療的ケア児は増加傾向にあり、全国に約2万人いるといわれています。にもかかわらず、医療的ケア児が通える保育園や施設が極端に少ないのはなぜなのでしょう?

森下:たんの吸引や経管栄養、気管切開部の衛生管理などは、医療行為にあたるため、医療従事者でなければ行うことができません。ですから、医療的ケア児を預かるためには看護師さんなどを雇う必要があります。
医療的ケア児が通える保育園を増やすためには、「認可保育園」で預かれるようにするのが一番はやいのですが、認可保育園で看護師さんを新たに雇ったり、環境整備をしたりするには自治体からの補助が十分でなく、赤字になってしまいます。経営リスクを負ってまで預かる園がないので、医療的ケア児の居場所が一向に増えない、というのが現状です。

――看護師さんを配置するための十分な補助がないため、保育園事業者の自助努力に委ねられているわけですよね。これまで行政側の支援が薄かったのは、「障害児は家庭で見るもの」という考え方が根底にあるからでしょうか。

森下:残念ながら、その傾向はあると思います。私たちが「障害児保育園ヘレン」を立ち上げようとしたとき、いろいろな自治体に「一緒にやりませんか?」と提案しました。
そうすると、「そんなの必要ないでしょう?」と言われるんです。「お子さんは、お母さんが自宅で見ればいいじゃないですか?」って、平然と。「障害児に保育は必要ない」と思いこんでいる行政の方って、実は多いんだなと感じて、愕然としました。
障害児に保育が必要かどうかは、自治体が決めることではなく、保護者が決めることですよね。障害のある子を育てている親が働くというのは何らおかしいことではありませんし、あたりまえにあるべき選択肢です。

健常児の親が働けて、障害児の親が働けないという不公平は絶対にあってはならないこと。それを是正していくのが行政の役割だと思います。

「初めて“子育てをしてる”って感じられた」 医療的ケア児を育てる母がこぼした言葉

――医療的ケア児を育てている親御さんが「子どもの預け先がなく、働けない」というのは大きな課題ですね。

森下:はい。医療的ケア児を育てている親御さんが働く選択肢を持ちづらいのは大きな課題です。加えて、そもそもお母さん、お父さんたちは休息がとれていません。

たとえば、たんの吸引など、深夜であっても15分に1回とか30分に1回、対応しなければならなかったりします。まとまった睡眠、深い睡眠がとれないわけです。長年にわたって積み重なっている疲労は計り知れないと感じます。
保育園に預けられないことで、乳幼児期は日中、母子や父子の2人っきりで過ごさなければならないストレスもあると思います。金銭的な負担はもちろん、精神的にも社会から隔離されたような不安感を持っている方も少なくありません。

――「障害児保育園ヘレン」は、医療的ケア児を育てている親御さんにとって待望の場所だったと思います。
森下:あるお母さんが話してくださったことで胸に残っている言葉があります。「私はこれまでずっと“介護”をしてきました。でも子どもがヘレンに通うようになって、初めて私は“子育て”をしているって、感じられるようになったんです」と。
これまでは子どもの成長に一喜一憂したりする、そんな余裕さえなかったということだと思います。

実はそのお子さんは、ヘレンに通うようになって、めざましく成長しました。最終的には医療的ケアが必要なくなり、一般の認可保育園に転園することができたんですよ。

――それは療育が適切に行われたということでしょうか。

森下:当然、療育が適切に行われたという側面や、体が成長したということもありますが、僕自身は、それだけではないと思っています。

このお子さんは経口摂取できない、つまり口から食べられずに、鼻から胃に通した管で栄養をとっている状況で入園しました。口で食べる練習をしたいのですが、本人も、苦手だから、かたくなに拒否していて。親御さんや保育士がいくら「食べてみようよ」「おいしいよ」と言ってもダメでした。
でもヘレンに来ると、仲のいい友達が、目の前で「おいしい~!」と言いながら毎日食べているわけです。その姿を見ているうちに、僕も食べてみようかなという気持ちが芽生えていった。徐々に口で食べられるようになり、最終的には医療的ケアを必要としなくなるまでになったんです。
これは食事の事例ですが、保育をしていると、こういうことってよく起こるんですね。「子どもは子どものなかで育つ」とあらためて感じます。子ども同士が関わり合うことでお互いに刺激を受け、こちらが想像しなかったような成長を見せてくれるんです。

いよいよ「医療的ケア児支援法」が施行、今後の課題は…?

出典:認定NPO法人フローレンス

――医療的ケア児への支援に関心の高い超党派の議員が「障害児保育園ヘレン」を視察したことをきっかけに「永田町子ども未来会議」が発足し、2021年6月11日の「医療的ケア児支援法」可決へとつながっていきます。「医療的ケア児支援法」の中身について教えてください。

森下:「医療的ケア児支援法」は、医療的ケア児を明確に定義した法律で、施行されることにより、これまで各省庁や地方自治体の「努力義務」とされてきた医療的ケア児への支援が、「責務」に変わります。
また、地方交付税として医療的ケア児支援のための予算が各自治体に配分される点もポイントです。これまで地域によって格差のあった支援体制の是正が期待されています。

――医療的ケア児への支援が「努力義務」から「責務」に変わったことで、医療的ケア児をとりまく環境も着実に変化していくでしょうか。

森下:この法律が可決されて、まだ3カ月しか経っていませんが、自治体窓口の対応があきらかに変化しています。「医療的ケア児への支援をするのは責務である」と法律で明文化されたのは、やはりとても大きいです。
自治体の中には調査を始めているところもあります。実は、自分たちが管轄しているエリアにどれだけ医療的ケア児がいて、その保護者は仕事をしたいと思っているのかどうかを把握できている自治体自体が少なかったんですね。調査をしたうえで具体的な政策を打っていこうという機運が高まっています。法律の力は、やはり偉大です。

――それでは、これから医療的ケア児が通える保育園や施設がどんどん増えていくと期待できますね?

森下:5年、10年という長いスパンで見ると、そうだと思います。ただこの医療的ケア児支援法は「理念法」といわれていて、あくまでもビジョンや方向性を示しているだけなんです。具体的な施策は、各自治体が自分たちの役所のなかで議論して、決定していく必要があります。

早期に議論し、具体的な施策をどんどん実行に移していく自治体もあれば、そう熱心ではなく、なかなかエンジンがかからない自治体もあるのが現実でしょう。自分が住んでいる地域の役所や議会が医療的ケア児への支援についてしっかりと検討しているか、いち市民としてチェックする必要があります。

――「医療的ケア児支援法」が施行されればすべての問題が解決するわけではないと。

森下:はい。ようやく障害児保育の問題を解決するスタートラインに立ったという感覚に近いです。
「ヘレン」が開設されたことで、東京23区のごく一部の地域では問題が解消されました。でも、私たちは7年をかけて5園をつくっただけです。法律ができたことで、勢いが加速し、次の10年では全国のいろんな地域で100単位の施設ができたり、既存の認可保育園で受け入れが進むことを期待しています。

医療的ケア児や障害児を育てている親御さんが希望すれば保育園に入園できる。障害児保育園に入園するために引っ越しをしなくてもいい……そんな社会になることを願っています。

――フローレンスをはじめ医療的ケア児を支援する方々や親御さんの粘り強い活動が実を結び、「医療的ケア児支援法」が可決されました。このように社会を変えていく活動をするうえで大切になることは何でしょうか。

森下:子育てにかかわる社会問題であれば、当事者である「お母さん、お父さんの声」が、結局はいちばん大切で、役所が動くきっかけになります。
もしも苦しんでいることがあれば、まずは役所に行って、「こういうことで困っています」と伝えてほしい。改善提案とともに具体的に伝えることで、役所側も困り事として認知し、動いてくれることがあります。

福祉事業所や私たちのような支援事業者に問い合わせて、同じ悩みを持つ人や、同様の社会問題の解決に向けて動いている仲間とつないでもらうのも一つの手です。また、その課題に興味を持ちそうな地方議員を探して、相談してみるのもいいと思います。

議員さんって怖いイメージがあるかもしれませんが、この町を良くするためにとか、子育て世帯のために、障害がある方のためになど、テーマをもって熱心に活動されている方がたくさんいます。議員さんの公式ページを見ると、どの分野に興味がある方なのかがわかるので、ぜひチェックしてみてください。

いずれにしても大切なのは、アンテナを広げ、外に向けて自分の思いを伝えていくこと。
子どもにかかわることは、つらくても家庭の問題だと、どうしても内にこもってしまいがちですが、一歩外に出て、仲間を見つけていくことで、劇的に変わる可能性もあります。最初の一歩をふみだすことが、なによりも大切なのかなと思います。

取材・文/猪俣奈央子

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