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口唇裂・口蓋裂治療はチーム医療が大切。今、子どもの成長を総合的にケアする治療法とは【専門医監修】

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※写真はイメージです
thekopmylife/gettyimages

生まれつき口唇に割れ目がある口唇裂、口の中に裂がある口蓋裂は約500人に1人の割合で発症し、日本人をはじめアジア人に多い傾向があります。口唇裂・口蓋裂というと痛々しい傷をイメージするママやパパもいるかも知れませんが、医療技術の向上などにより、今は術後、驚くほど傷口もきれいになるそうです。口唇裂・口蓋裂治療で知られている、昭和大学口唇口蓋裂センター長 大久保文雄先生に、手術のことや病院選びの基本的な考え方などについて聞きました。

口唇裂は妊娠中にわかる場合も。軽度なら1回の手術で終わる子もいます

口唇裂・口蓋裂は約500人に1人の割合で発症し、原因は遺伝的な要因と環境的な要因が複雑に影響して起こるといわれています。

――口唇裂・口蓋裂は、生まれてから初めてわかる病気なのでしょうか。

大久保先生(以下敬称略) 口唇に裂が生じる口唇裂は、妊婦健診のエコー検査でわかる場合もあります。産婦人科では口唇裂・口蓋裂の治療はできないので、産婦人科から依頼があると、専門の形成外科医が、病気の特徴や赤ちゃんが生まれたあと、どのようなケアや手術が必要なのかなどについてていねいに説明します。

――口唇裂・口蓋裂の手術について開始時期や回数などを教えてください。

大久保 口唇裂の手術は、3~5カ月で行うのが一般的です。口蓋裂は、言葉の発達に合わせて1歳~1歳半を目安に行います。手術は、口唇裂・口蓋裂の両方を伴っている場合は、口唇形成術→口蓋(こうがい)形成術→顎裂部骨移植術→タッチアップの4回行うのが基本です。

タッチアップとは、鼻を高くするなどの美容的な手術です。子どもの顔は大人の縮小版ではありません。各パーツの成長の程度も異なり、男子は18歳ころ、女子はそれより若干早めに成長が止まるので、そのころにタッチアップを行います。

また口唇裂のみで、上唇だけに裂が生じる不全唇裂の場合は、1回だけの手術で終わる子もいます。また口蓋裂のみの場合も、1回の手術で終わる子が95%です。
ただし受け口などの顎変形治療が必要なときは、18歳ごろになって顔の成長が止まってから手術を行うこともあります。

子どもの成長をトータルでサポートする“口唇口蓋裂センター”の治療とは!?

インターネットで「口唇口蓋裂センター」と検索すると、さまざまな大学病院に口唇口蓋裂センターがあることがわかります。

――大学病院にある「口唇口蓋裂センター」では、どのような治療が行われているのでしょうか。

大久保 以前は「口唇口蓋裂センター」というのはありませんでした。ひと昔前までは、口唇裂・口蓋裂は外科医が専門で診ていましたが、外科医だけでは治療に限界があることが課題でした。
「口唇口蓋裂センター」は、大学病院によって多少違いはありますが、基本的には形成外科、小児科、矯正歯科、耳鼻咽喉(いんこう)科、言語聴覚士などが一丸となって治療を進めていくチーム医療です。

――具体的には、どのようにかかわっていくのでしょうか。

大久保 口唇裂・口蓋裂があると、先天性異常を合併している子もいるため小児科の介在は不可欠です。また口蓋裂児は90%以上、中耳炎を合併します。慢性化すると難聴の原因になり、言語発達に影響をおよぼすこともあるので、耳鼻咽喉科の診療も欠かせません。
さらに口蓋裂手術が適切に行われた場合でも、約40%の子は言語訓練が必要です。歯並びに問題が生じた場合は、矯正歯科も介入します。
口蓋裂で、ミルクが上手に飲めないなどの哺乳障害がある場合は、口腔リハビリテーション科で、裂をカバーして哺乳を助ける哺乳床を作り、哺乳指導を行ったりもします。
口唇裂、口蓋裂の治療は、このようにチーム医療で進めていくことが理想です。

口唇口蓋裂センターの初診から手術までの主な流れ

昭和大学口唇口蓋裂センターでは、初診時に小児科、耳鼻咽喉科、形成外科の予約を取り、チーム医療が始まります。


――口唇裂・口蓋裂は治療方法も時代とともに、だいぶ変わっているのでしょうか。

大久保 1990年ころに顎裂部骨移植が標準治療となり、ブリッジをつける補綴(ほてつ)治療から、すべて自分の歯でかみ合わせを完成することが可能になりました。
また口蓋形成術が進化して、受け口を治す顎離断術(がくりだんじゅつ)の割合もだいぶ減っています。

口唇裂・口蓋裂治療のパイオニア。新規患者数はのべ5500名

昭和大学口唇口蓋裂センターは口唇裂・口蓋裂治療のパイオニアともいわれています。

――パイオニアといわれる理由を教えてください。

大久保 もともと昭和大学は、口唇裂の治療を得意としており、1980年から口唇裂・口蓋裂は医学部、歯学部の垣根を越えた治療が必要と考えて「昭和大学口蓋裂診療班」(SCPT)を作りました。これは日本初の試みで、前述のチーム医療の先駆けです。
昭和大学病院内にあった口唇口蓋裂センターを2017年、藤が丘病院に移しましたが、2021年9月の時点で、のべ5500名以上の新規患者さんを受け入れています。5500人と聞くと「そんなにいるの!?」と思うママやパパもいるかも知れませんが、口唇裂・口蓋裂は約500人に1人の割合で発症します。少子化でもこの割合は変わらないように思います。

――口唇裂・口蓋裂の病院選びについて教えてください。

大久保 優れた医療技術はもちろんですが、口唇裂・口蓋裂治療は何年も受診を続けるなど時間がかかるので、医師と信頼関係が築けることが大切です。

昭和大学口唇口蓋裂センターでは初診のときに、ママ・パパにわかりやすい資料を提示して、病気の原因や特徴などについて正確にわかりやすく説明し、ママの責任ではないことを伝えています。

また治療や術後についてなど、さまざまな疑問があると思うので、月1回、口唇裂・口蓋裂診療班による家族向けの説明会を行っています。形成外科だけでなく、耳鼻咽喉科、歯科、言語聴覚士なども一緒になって、治療について説明したあと、ママ・パパの質問に答える時間を設けているのですが、こうしたフォローがあると心強いと思います。

お話・監修・資料提供/大久保文雄(おおくぼふみお)先生

取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部

今はコロナ禍で、口唇口蓋裂センターがある昭和大学藤が丘病院も入院時のつき添いは基本的には禁止になっています。大久保先生は以前、つき添いをしていたママをふと見たときにママの頭に円形脱毛症があるのに気づき、親の不安やストレスは相当なものだと感じたことがあるそうです。チーム医療でママ・パパの心を救うことが、まずはこの病気を乗りきるためには必要と言います。

こどもの口唇裂・口蓋裂の治療とケア

子どもの口唇裂・口蓋裂の解説や手術の方法、入院から退院までの流れなどをイラストや写真つきでわかりやすく解説しています。大久保文雄著。(MCメディカ出版)

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