口唇口蓋裂の息子、小5までに5回の手術。共に歩んだ母が伝えたいこと【体験談】
口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)とは、妊娠中の形成異常が原因で起こる先天的な疾患です。唇が割れる口唇裂、歯ぐきが割れる顎裂(がくれつ)、口の中が割れる口蓋裂があります。右か左のどちらか片側のこともありますが、両方同時に起こることもあります。アジア人に多く、日本人では約500人に1人という割合で発生しています。岡田紀子さん(仮名)も、次男・太郎くん(仮名)が唇、鼻の床、歯ぐきと口の中に裂が生じる「両側完全唇顎口蓋裂(りょうそくかんぜんしんがくこうがいれつ)」で生まれました。岡田さんと主治医の土佐泰祥先生に話を聞きました。
※上の写真は、1歳で手術入院したとき。腕には、傷口に手が行かないように抑制筒(よくせいとう)をつけています。
1歳で口蓋裂の手術。年中になるとお友だちに傷のことを聞かれるように
一般的に唇の割れ目をふさぐ口唇裂の手術は、生後4~5カ月ごろ。口の中の割れを閉じて筋肉を整える口蓋裂の手術は、意味のある言葉を発するようになる1歳~1歳半ごろに行います。太郎くんも口唇裂の手術は、4カ月のとき。口蓋裂の手術を1歳で行っています。
「息子の口蓋裂の手術は、2時間半ぐらいかかり、2週間ほど入院しました。口蓋裂にもいろいろなケースがあり、息子は割れ目がとても広かったようですが、言葉の発達に影響が出ることはありませんでした」(岡田さん)
口唇口蓋裂は傷の治療だけでなく、心の傷も癒やしていかなくてはいけない病気といわれています。太郎くんが通っている大学病院でも、医師による家族向けの説明会などが行われていて、子どもだけでなく家族の心の支援にも力を注いでいます。
「息子の心のサポートが必要と感じたのは、年中になってからです。クラスの友だちに“どうして、そこ光ってるの?鼻水に見えるよ”“なんで傷があるの?”と言われて、息子も初めて“あっ!僕、みんなと違うんだ。この傷があるから、僕、病院に行ってるんだ…”と意識し始めたようです。
大きくなってくれば、何気ないひと言に傷つくこともあります。それからは息子に“嫌なことがあったら、お母さんに言ってね!”と言うようになりました」(岡田さん)
小1・小2で、歯ぐきの骨が生まれつきないところに腰の骨を移植する手術
口唇口蓋裂の手術は、一般的に乳幼児期だけでは終わりません。
太郎くんもあごを整えるために、腰の骨を移植する手術を小学1年、2年生で2回行っています。手術時間は、それぞれ2時間ぐらいでした。
「骨移植のときは、麻酔が切れると口まわりよりも、骨を採取した腰のほうが痛むようで、見ていてちょっとつらかったです。
小学生になると手術は、学校の学習に影響が出ないように春休みや夏休みなどの長期休みで行うことを選びました。“お友だちは、みんな旅行に行ったりして楽しんでいるのに、僕だけ入院…”といじけることもあり、かわいそうでした」(岡田さん)
また口唇口蓋裂は、上の歯がきれいに並んで生えてこないため、むし歯になることが多いです。太郎くんも、毎月のように大学病院の小児歯科と矯正歯科に通い、あごと歯のチェックやクリーニング、むし歯治療を続けました。
「矯正歯科では、上あごを引っ張ってあごの形を整える矯正をしました。毎晩、矯正器具を装着して寝ないといけないのですが、面倒臭がって自分からつけてくれなくて…。つけ忘れて寝てしまうことも多く、毎晩、息子に声をかけたりするのが意外と大変でした。
担当の先生からも“10歳までが勝負なんだから!ちゃんとつけて”とよく言われました。
私も息子に“あごをきれいにするためには矯正が必要なんだよ”ともっと説得していれば、さらによくなっていたのかも…と、反省しています」(岡田さん)
小5になると鏡を見て、傷を気にするように。でも親には何も言わない
太郎くんは今、小学5年生。2021年の春休みに5回目の手術を受けました。再び腰の骨を削って、あごを整える手術です。
「今回は病室で、クラスの友だちとオンラインゲームをしていたので“友だちと会えなくて寂しい”“僕だけ、遊びに行けなくてつまらない”という思いはやわらいだようです。
でも最近は、自分の顔を鏡でじっと見ていることがあります。手術の傷などについて気にしているけれど、それを家族に言えないのかもしれません」(岡田さん)
また上の子には、成長記録となるアルバムがありますが、太郎くんにはアルバムがありません。
「太郎の写真はずっと撮っていたのですが、本人が赤ちゃんのころの写真を見たらきっとショックを受けるだろうと思って、写真は引き出しの奥にしまっていました。でも偶然、写真を見つけてしまい、かなりショックを受けていました。
そうしたこともあり、太郎の心のケアが本格的に必要になってくると感じています。思春期になったらもっと何か壁があるかな!?とも思います。
でも、ここまで治療できたのですから…。先生方にとても感謝しています」(岡田さん)
口唇口蓋裂はチームで戦う病気。1人で悩みを抱え込まないで
太郎くんの主治医である、土佐先生によると、口唇口蓋裂は、傷の治療だけでなく心のケアも必要な病気と言います。
「もし発育・発達や親子のかかわり方、友だち関係などで悩んだときは、ママやパパだけで悩みを抱え込まないでください。口唇口蓋裂は、形成外科だけでなく、耳鼻咽喉(いんこう)科、歯科、小児科、言語など診療科が多いため主治医をはじめ、力になってくれる医師や看護師がたくさんいます。患者さんとその家族、医師、看護師などがチームとなって乗り越えて行くことが大切です」(土佐先生)
お話・写真提供/岡田紀子さん、取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
岡田さんは、赤ちゃん関係の仕事をしています。太郎くんが生まれたときは、「ごめんね、ごめんね」と自分を責めましたが、今では「スペシャルな子が生まれてきた」と思えるそうです。「太郎が生まれて来てくれたから、私は体験者として口唇口蓋裂の情報をこうして発信できています。また太郎がいたからこそ、人とのつながりが広がった」と言います。岡田さんは「私と同じ悩みを抱えているママ・パパには、安易に大丈夫!なんて言えないけれど、悪いことばかりではないよ」と言います。
編集部より:先天形態異常をお子さんに持つご両親、特にお母さんはお子さんに対する贖罪の気持ちを持ってしまうこともあるかと思います。お子さんに先天異常が生じたのは誰のせいでもありません。主治医および診療チームを信じて、愛情を注いで育ててください。
※2021/7/14 一部修正しました。(たまひよONLINE編集部)