「ダメ!」と子どもをしからずに生活習慣や社会のルールを身につけさせるには?【専門家】
子どもの成長とともに、病院やお買い物などに出かける機会やお友だちとのかかわりが増えてくると、気になるのはしつけのこと。人とのかかわり方や社会のルールは、子どもにどのように教えてあげればいいのでしょうか。子どもの年齢や発達に応じた、わかりやすい伝え方のポイントについて、玉川大学教育学部非常勤講師の大豆生田千夏先生に話を聞きました。
子どもを観察して、成長具合にあった伝え方を工夫しよう
――社会のルールやマナー、お友だちへの接し方などを教えるのは、だいたい何才からといった目安はありますか?
大豆生田先生(以下敬称略) 赤ちゃんは0才のころから、ルールやマナーについて大人とのかかわりの中で自然に学んでいると思います。ママやパパが赤ちゃんに話しかけたり、スキンシップをしたりする中で、赤ちゃんはママやパパの様子をよく見ています。
1才前の赤ちゃんも大人の顔や様子を見ながらいろんなものを触ろうとしますよね。ママの顔がダメって言っているみたいだからしちゃいけないのかな、とか、これは触ってよさそうだぞ、どうなっているのかな、とか…自然に学んでいるんです。
幼児期のしつけは、大人が「これが正しいこと」と厳しく教えてしまうと、子どもにとっては選択肢がなくて従うしかなくなってしまいます。子どもは、自分の思いや伝え方を考えながら、世の中と調整していく方法を学んでいるところです。
強制的に「しつけ」をするよりは、子どもの気持ちに寄り添ったり、選択肢を示したりしてあげる、自立のサポートをしてあげると、子どもが自分の気持ちをコントロールする力が身につくでしょう。
――では、小さな子どもにもわかりやすい伝え方のポイントを教えてください。
大豆生田 どんなふうに言えば伝わりやすいかは、その子の発達段階や個性によって違います。だからまずは、自分の子どもをよく観察することです。今の成長段階をよく見て、どんなふうに伝えればいいか考えてあげるといいでしょう。
たとえば、道を歩くときでも、ママの手を振り払って走って行ってしまうのか、走って行きながらも何度か振り向いてママのことを見るのか、振り返りもせずに信号でも飛び出してしまいそうなのか、などです。信号で止まれる子なら「歩道は手をつないで歩こうね」と言えますが、振り返らずにどんどん走ってしまうなら子ども用ハーネスなどの道具が必要かもしれません。
どの子にも同じく「危ないから止まりなさい!」としかるよりも、その子の今の状況にあった伝え方をするのが効果的だと思います。
――では、ルールを守れたときなどはほめてあげたほうが子どもの自己肯定感を伸ばすことにつながるのでしょうか?
大豆生田 ほめることを意識しすぎることはないですが、何かできたときにはちゃんと見ていたよ、と伝えてあげましょう。子どもができなかったときに「ダメじゃない」というのでなく、「こんなことができたんだね」「こうしてくれるとママはうれしいな」と伝えると、子どもはこれがママがやってほしいことなんだ、とわかり、学んでいきます。
子育ての困ったシーンごとに、かかわり方をアドバイス!
ママやパパが子どもの行動に困るシーンはいろいろあります。そのシーンごとに大豆生田先生に子どもへのかかわり方をアドバイスしてもらいました。
【お片づけ】遊んだおもちゃのお片づけを教えるにはどうすればいい?
【大豆生田先生より】
まずは片づけしやすい環境にします。おもちゃの数はできるだけ少なくして、収納はシンプルに。あまりこまかい分類はせず、大きなカゴにぬいぐるみはここ、ブロックはここ、とざっくり入れて片づけられるような、大人にも子どもにも負担のない収納にするといいでしょう。
お片づけはママやパパが「これをここに入れよう」などと声をかけながら一緒にやって、1才くらいの子どもなら1つ片づけられればいいでしょう。親が片づけるのを見せてあげて、繰り返しの中で子どももできるようになっていきます。あとは、お出かけの前やおやつの前など、次に楽しいことが待っているタイミングで一気にお片づけをするのもいいですね。音楽をかけて一緒にお片づけタイム、というのも楽しくていいでしょう。
【活発すぎて危険】カーテンにぶら下がる、テレビ台に登る…など危険なことばかりするときは?
【大豆生田先生より】
活発でエネルギーがありあまっている子の場合は、伝え方を工夫するだけではどうにもならないことも。できるだけ外に出て、体を動かして発散させてあげるといいですね。2才くらいなら、室内でお布団の山を作ってあげるなどの動ける環境を作ってあげてもいいでしょう。
雨の日などは、屋内で過ごせる場所に出かけるとか、マンションの階段で遊ぶとか、おふろで水遊びをする方法もあります。でも、親が一日中対応してもまだエネルギーがある子には、保育園の一時預かりなどを利用して、いつもと違う環境でエネルギーを発散してきてもらうことをおすすめします。
【物やお友だちに乱暴をする】テレビのリモコンを投げる、お友だちをたたいてしまう、など、乱暴で困っています。
【大豆生田先生より】
同じ行動もよく見ると理由はさまざまです。物を乱暴に扱うのは、悪気がないけれど力の加減がわからないときがあります。静かな声で「そーっと置こうね」とやって見せたり、陶器のお皿を「ゆっくりそーっと運んでね」と運ばせて、力加減を練習してみるといいかもしれません。そっと扱うことができたら「どうもありがとう」と伝えれば、「こういうふうに扱うと喜ばれるんだ」と学びます。
お友だちとのかかわりでは、ほかの子におもちゃを取られる恐れから相手を攻撃してしまうパターンもあります。そういうときは「取らないで、って思っているんだよね」「大事なんだよね」と、お友だちとの間に入って気持ちを代弁してあげるといいかもしれません。「貸してあげなさい!」としかってしまうよりは、「この子は〇〇ちゃんが持っているのを使いたいんだって」とやりとりをしながら調整できるといいですね。
【電車やバス、病院で騒ぐ】公共の場で静かに過ごすことができず、周囲の目も気になります
【大豆生田先生より】
病院はたしかに静かにするべきところですが、あまりに長い待ち時間は子どもにとってはキャパオーバーです。お出かけ用の音が出ないおもちゃを用意する、手元で遊べるようなしかけ絵本を用意する、呼ばれるまで病院の外で過ごしていいか看護師さんに相談する、などの工夫で乗り切れればいいですね。
電車で騒いでしまうなら、一度降りてみるのも方法の1つです。少し余裕のあるスケジュールを組みましょう。
公共の場は子どもにとっても難しい環境ですよね。親は周囲には「すいません」と言いながら、社会の要請との間で調整してあげるといいと思います。
取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
一方的な厳しいしつけは、とっさに危険なときには必要かもしれませんが、子どもにとってなぜダメなのかを考える機会を奪ってしまうことにも。子どもをよく観察し、自分の子どもにはどう伝えればいいか、わが家流の子育てを考えてみるといいかもしれません。
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