ほうっておいては治らない子も!乳幼児のO脚、産まれた環境にも原因が【専門家】
生理的O脚とは、くる病などの病気ではない乳幼児期特有のO脚のことです。生理的O脚は「自然に治るもの」といわれていますが、最近の研究で、なかには治りにくい子がいることがわかりました。研究を行った、順天堂大学医学部附属練馬病院 小児整形外科准教授 坂本優子先生に聞きました。坂本先生は「生理的O脚の『生理的』という表現も検討したほうがいい」と話します(写真は、1歳6カ月の子のO脚。左右とも、同じ子の写真)
ビタミンD不足だと、生理的O脚は改善しにくい傾向に
坂本先生は、2021年10月に行われた「第39回日本骨代謝学会学術集会」で、「幼児のO脚に影響する栄養学的因子および遺伝的因子の解明と幼児期の血中25(OH)Dを推定するためのアルゴリズム構築」というテーマで、乳幼児の生理的O脚は自然に改善されない場合があると発表しています。
――坂本先生が、乳幼児の生理的O脚の研究を始めたきっかけを教えてください。
坂本先生(以下敬省略) くる病の主な原因はビタミンD欠乏なのでコロナ禍の今は、外出自粛などによる日光浴不足が原因でくる病になりやすくなることが心配されています。くる病になると、骨が正常に成長しないため脚がO脚やX脚のように曲がったりします。
しかし乳幼児期特有の生理的O脚は、これまでビタミンD不足との関係は明らかになっていませんでした。そこで10年ほど前から「O脚の子は、ビタミンD不足が原因ではないのか?」と疑問を感じて研究を始めました。
――研究では、乳幼児の生理的O脚は、何もしないままだと改善しにくい子がいるという結果だったということですが、どのような子が改善しにくいのでしょうか。
坂本 乳幼児健診などで「子どものO脚が気になる」と相談すると、「自然に治るから様子を見ていて大丈夫よ」と言われることが多いと思います。しかし「自然に治る」というのは、適度にビタミンDやカルシウムを補えている場合です。
ビタミンDは、太陽の光(紫外線)を浴びることで、体内で生成されますが、今は過度な紫外線対策によってビタミンDが不足している子も多く、数百人に1人の割合で、生理的O脚が改善しない子がいます。
生理的O脚と非生理的O脚の子は、3カ月から違いが!
赤ちゃんはみんなO脚ぎみに見えますが、坂本先生の研究によると生理的O脚と非生理的O脚の子では、実は生後3カ月から脚の形に違いがあることがわかっています。
――赤ちゃんでも生理的O脚か、O脚でないかはわかるのでしょうか。
坂本 乳児の生理的O脚は、家庭ではわかりにくいと考えられますし、3~4カ月健診で指摘されることも少ないでしょう。O脚が気になり始めるのは、つかまり立ちを始めたり、あんよを始めたころからです。
しかし、生まれたときからO脚予防は意識したほうがいいです。私の研究では、生後3カ月の時点で生理的O脚の子はその兆候が出始めることがわかっています。
――O脚が気になったとき、生理的O脚か見極めるにはどうしたらいいでしょうか。
坂本 子どもが寝ているときに両足のくるぶしをぴったりつけて、ひざをしっかり伸ばした状態で両ひざの間にすき間が何cmぐらいできるか見てください。1歳~1歳半ごろでママやパパの指が3本入るぐらいすき間が開いていたら一度、小児科か整形外科を受診してください。くる病などではなく、乳幼児期特有の生理的O脚と診断された場合は、ビタミンDを意識して補ってください。
――赤ちゃんのうちからO脚を治すには、脚のマッサージは有効でしょうか。
坂本 生理的O脚の改善に脚のマッサージをしても効果はありません。生理的O脚を改善しやすくするには、ビタミンDの摂取が有効だと思っています。
過度な紫外線対策は、骨の成長の妨げに。紫外線対策を見直そう
坂本先生によると、ビタミンD不足解消には、紫外線対策とのバランスが肝心と言います。
――ビタミンDを補うには、どのようなことをするといいでしょうか。
坂本 ビタミンDを補うには、外遊びをしたりして適度に紫外線を浴びることが有効です。過度な紫外線対策は、ビタミンD不足を招く原因になっています。
私は紫外線が弱い冬は、UVクリームを塗ったりするのは不要だと考えています。子どもにUVクリームを塗るのは、春や夏の紫外線が強い時期に山、海、プールなどに行ったり、長時間屋外にいるときだけでいいと思っています。
冬は紫外線量が少なく、長袖などを着ていて肌の露出が少ないので、ベビーカーでお散歩中などまぶしくないときは日よけのほろを上げて、適度に日ざしを浴びさせることが大切です。
――太陽の光を浴びるというと皮膚がんを心配するママやパパもいると思いますが…。
坂本 1980年代半ばから、オゾン層の破棄による皮膚がんへの影響が心配されるようになりました。オーストラリアでは、確かに皮膚がんの発症率も上がりました。
しかし1987年にモントリオール議定書が採択されて、先進国ではオゾン層を破壊する特定フロンが全廃されました。
最近の研究では、日本ではオゾン層の破壊による皮膚がんの影響は少ないということが明らかになっています。
過度な紫外線対策をしてビタミンD不足が続けば、O脚だけでなく、くる病や骨が弱くなったり、将来、骨粗しょう症になるリスクも高まります。ビタミンD不足が招くリスクを、ママやパパには知ってほしいと思います。
完全母乳や冬生まれの赤ちゃんも、ビタミンD不足になりやすい傾向が
乳幼児期は、骨の成長を促すのに大切な時期ですが、なかにはビタミンD不足になりやすい子もいます。
――ビタミンD不足になりやすい赤ちゃんには、どんな要因がありますか。
坂本 ママが妊娠中から外出不足だったり、完全母乳育児であったり、お散歩や外出時は直接日光に当たらないようにしている、冬生まれであるなどの場合です。
――冬生まれの子(11~3月ごろ)が、ビタミンDが不足しやすいのはどうしてでしょうか。
坂本 体内でビタミンDを生成するためには、適度に紫外線を浴びる必要があります。しかし冬生まれの子(11~3月ごろ)は、ほかの季節に生まれた子よりも寒くてお散歩に行く機会が少なかったり、外に行くときも防寒をして肌を露出していなかったりして、紫外線を浴びる機会が少ないということがあります。冬は紫外線量そのものが少ないのも大きく影響しています。
――乳幼児の場合、食事からビタミンDはとれますか。
坂本 鮭、いわし、さんま、まいたけ、干ししいたけなどにビタミンDは、多く含まれているので、意識して与えるといいでしょう。また骨の成長を促すにはカルシウムも不可欠です。
ビタミンDは、ママやパパが意識しないととりにくいので、食事と生活環境の両面から見直すことが大切です。
――食事と生活環境を見直しても、ビタミンDが不足しやすい場合は、どうしたらいいのでしょうか。
坂本 私は、完全母乳で過度にビタミンD不足の場合は、市販の乳幼児向けのビタミンDのサプリメントをすすめるときもあります。ただしビタミンDは、脂溶性で体内に蓄積されるので、サプリメントの用量は必ず守ってください。
――ビタミンDのサプリメントをとると生理的O脚は改善するのでしょうか。
坂本 もちろん、とらなくても改善する例がほとんどなのですが、私の研究では、生理的O脚の1~4歳児、30例にビタミンDサプリメント(医療機関用)を毎日投与したところ、O脚の改善が全例に見られました。取りこぼしなく改善したということが大切かと思っています。ただし脚がまっすぐになるまで、1年以上はかかるので長い目で見ることが大切です。
取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
ビタミンD生成に必要な日光浴の時間は、冬はとくに地域によって差があります。「何時間ぐらい外遊びをするといいの?」と悩んだときは、国立環境研究所 地球環境研究センター「ビタミンD生成・紅斑紫外線量情報サイト」を参考にしてみてはいかがでしょうか。
ビタミンD生成・紅斑紫外線量情報モバイル版|国立研究開発法人 国立環境研究所 地球環境研究センター (nies.go.jp)
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