【女優・加藤貴子】新連載 教えて!気になる育児悩み〜高齢出産と産後うつ病について〜
女優・加藤貴子さんの新連載がスタート。44才で第1子、46才で第2子を出産し2人の男の子のママである加藤さんが、気になっていたり、育児関連の悩みや気がかりについて、専門家に聞きます。第1回目のテーマは“産後うつ病”について。加藤さん自身も「私って産後うつ?」と感じたこともあるそうです。産後うつ病の症状や原因などについて、精神科医の蟹江絢子先生に聞きました。
どんな症状があると産後うつ病なの?
加藤さん(以下敬称略) 私は不妊治療をして、高齢出産で2人の男の子の母になりました。子育ては大変だと覚悟していたけれど、実際は想像以上にハード。でも、覚悟の上で決めた道だし、弱音を吐いたら自分が崩れてしまうような気がして、まわりに相談しにくかったんです。
このような産後の精神面での大変さはあまり語られていない気がします。「私って産後うつ病なんだろか?」と思ったこともあります。
気分的にどんな症状があると産後うつ病が疑われるのでしょうか。
蟹江先生(以下敬称略) 産後うつ病の症状は、通常のうつ病とあまり変わりません。ただ、産後から始まり2週間以内に改善すればマタニティブルーズの可能性があります。以下の9つの症状のうち【1】または【2】を含む5つ以上の症状があり、それが2週間以上続くと「うつ病」と診断されます。
【1】ほとんど毎日、1日中ずっと気分が落ち込んでいる
【2】ほとんど毎日、1日中ずっと何に対する興味もなく、喜びを感じない
【3】ほとんど毎日、食欲が低下(増加)し、体重の減少(増加)が著しい
【4】ほとんど毎日、眠れない、もしくは寝すぎている
【5】ほとんど毎日、話し方や動作が鈍くなったり、イライラしたり、落ち着きがなくなったりする
【6】ほとんど毎日、疲れやすかったり、やる気が出なかったりする
【7】ほとんど毎日、自分に価値がないと感じたり、自分を責めるような気持ちになる
【8】ほとんど毎日、考えがまとまらず集中力が低下して、決断できない
【9】自分を傷つけたり、死ぬことを考えたり、その計画を立てる
うつ病は、産後女性の1〜2割ほどがかかるといわれ、通常は産後1年以内に発症すれば産後うつ病となりますが、厳密な定義があるわけではありません。産後うつ病にかかった女性の3分の1は妊娠中に症状が始まるので注意が必要です。
高齢出産や不妊治療をすると産後うつ病になりやすいの?
加藤 では、産後うつ病の原因になるのはどんなことですか?
蟹江 産後うつ病は必ずしも明確な原因があるわけではありません。赤ちゃんが生まれることを楽しみにしていたはずなのに、出産してみると心苦しく感じ、またそう感じてしまうことに罪悪感を抱くこともあります。ですが、精神疾患の既往、妊娠中の不安、ソーシャルサポート(シングルマザー、両親や夫に頼れない)不足、家庭内暴力、望まない妊娠などは産後うつ病のリスクを上げるといわれています。
加藤 よく産後はホルモンバランスの変化で不安定になりやすいと聞きますが、授乳や断乳などは産後うつ病には関係しないんでしょうか。
蟹江 産後のホルモンの変動に体が適応できない時に起きる可能性はありますが、ホルモンの変化だけのせいでうつ病になるわけではありません。
性格的にまじめだったり完璧主義だったりすることが要因の場合もあります。子育てはこうするべきとか、ママだからこうしなきゃと考える理想と現実のギャップに落ち込んだり、自分を責めすぎてしまうことなどです。
そして、産休中に仕事のキャリアが止まってしまうと感じたり、孤独を感じたり、いい女性・いい母親だと見られたくて頑張りすぎてしまったりすることが要因になることも。
このように産後うつ病は「生物学的なホルモンの影響」、「性格や考え方などの心理的な影響」、「社会との関係性」などの相互作用で起こるといわれます。
加藤 高齢出産で初産の人や不妊治療をした人は産後うつ病になりやすいと聞いたこともあり、気になっています。
蟹江 高齢出産だからとか、不妊治療をしていたから産後うつ病になりやすいというわけではないです。
ただ、高齢出産と不妊治療は、精神的な負担の面で重なる部分はあると思います。赤ちゃんが小さく生まれる、多胎児が生まれやすい、などお世話が大変だったり、身体的に産後の体力の回復が少し遅くなることや、周囲のプレッシャーを感じて困りごとを相談しにくいことなどが産後うつ病のリスクを高める要因になりやすいといわれます。あとは、不妊治療中に、妊娠しないことで自尊心が低くなってしまうこともあります。
息抜きをするのが当たり前の社会になってほしい
蟹江 日本って、自分の責任で産んだんだから自分でなんとかしなさいという風潮がありますよね…だから弱音を吐きにくいというのもうつになる一つの要因かもしれません。
加藤 たしかに。私の場合は、産休中に子育てしかやっていないのに、ほかの人がうまくやれていることがなんでできないんだろう、と思ってしまうことがあったんです。子どもを預かるから息抜きしていいよ、少し寝ていいよ、と言ってもらっても、罪悪感を持ってしまって…。
蟹江 ご自分に厳しいんですね。仕事も子育ても同じように大変だけれど、なぜか子育ては普通にできて当たり前というプレッシャーを感じてしまい、疲れたとか大変だとか言いにくいですよね。
だけど、ママが赤ちゃんを預けて息抜きに出かけることや、休息を取ることは、メンテナンスとしてやるべき行為だと思ってほしいです。長期的に見て、家族みんなが元気で健康でいるために必要なこと。ママがリフレッシュして元気でいること、パパと一緒に過ごすこと、子どもにとってはどちらも大切なことです。産後うつ病の予防のために周囲がママをサポートすることも必要です。
加藤 高齢出産や不妊治療が産後うつ病を起こしやすいのかな、と考えていたんですが、先生のお話を聞いて考えが変わりました。産後うつ病はだれにでも起こりうるという気持ちで、妊活中からうつになった場合の対処を視野に入れるというのがすごく大事なんですね。
蟹江 そうですね。産後うつ病の予防のためにもぜひ息抜きはしてほしいですし、もし産後うつ病になっても早めに対処することがすごく大事だと思います。
お話/加藤貴子さん 撮影/アベユキヘ 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
「産後うつ病は身体的・精神的・社会的なさまざま要因の相互作用で起こる」と蟹江先生は言います。明確な原因はわからないぶん、事前にサポートなどの情報を知っておくことや、育児疲れをためないようにすることも大切です。
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加藤貴子さん(かとうたかこ)
PROFILE
1970年生まれ。1990年に芸能界デビューして以降、数々の作品に出演。代表作として『温泉へ行こう』シリーズ(TBS系)、『新・科捜研の女』シリーズ(テレビ朝日系)、『花より男子』(TBS系)などがある。