「笑っていても笑い声が聞こえない。寝ないで泣いてばかり」わが子が診断がつきにくい難病・アンジェルマン症候群とわかるまで【体験談】
アンジェルマン症候群は、1万5000人に1人の割合で見られるという難病で、重度の発達の遅れや知的障害などが特徴です。日本に住む5歳のアップルビー・リッキーくんも、1歳11カ月のときにアンジェルマン症候群と診断されました。診断がつくまでは「なぜ言葉が出ないのか?」「なぜ歩けないのか?」検査をしてもわからなかったと言います。ママの沙織さんに、リッキーくんの発達の様子やアンジェルマン症候群を疑うきっかけについて話を聞きました。
(写真は1歳の誕生日。1歳でおすわりができました)
ウーウーなどの喃語が出ず、寝ないので3カ月のときに受診
リッキーくんは、生まれたときから吸てつ反射が弱く、生後7日目ごろは30mlのミルクを飲むのに45分ぐらいかかっていました。体重もなかなか増えませんでした。そのため退院後、すぐに乳首を変えたと言います。
「私はリッキーが生まれる前まで、大学病院の小児科やGCU(新生児回復室)で、看護師として働いていました。ミルクが飲めないならば医療用乳首を使おうと思い、心臓病などで哺乳力が弱い赤ちゃんにも飲みやすい乳首をネットで購入しました。乳首を変えてから、体重も順調に増えて1カ月健診のときは2880gでしたが、2カ月のときに3510g、3カ月のときは4245gになりました。
リッキーは泣いてばかりで、体もつっぱって、棒のようにかたくまっすぐだったのですが、3カ月を過ぎたころにはウソのように泣かなくなり、ニコニコ容易に笑うようになりました。体のつっぱりもなくなりやわらかくなっていきました。後から知ったのですが、容易に笑うというのはアンジェルマン症候群の特徴の1つです」(沙織さん)
またリッキーくんは、生後10日ごろから眠りがすごく浅くなり、まとめて寝ません。3カ月ごろには、昼夜問わず「やっと寝た」と思っても10分もたたず目を覚ましていました。そして目を覚ました途端、ニコニコ笑います。
「寝ないことも悩みでしたが、ウーウーなどの喃語(なんご)がまったく出ず、笑っても笑い声が聞こえません。3カ月のときに神奈川県立こども医療センターで診てもらいました。その時は身長、体重、頭囲の発達の遅れを指摘されました。また声が出ないことや呼吸状態など気になることはありつつも、明らかな発達の遅れは指摘されませんでした。
また私は、リッキーはその時には首がすわっていると思っていたのですが、筋肉がつっぱりすぎて、そう感じただけであろうと後から言われました」(沙織さん)
4カ月のとき、抱っこひものすき間から落下。頭蓋骨骨折で、自分を責める日々
当時子育てをしていて、沙織さんが体力的に最もつらかったのが、リッキーくんが寝てくれないことでした。昼夜問わず、数分で目を覚ますため、沙織さん自身も寝不足で疲れもあったのでしょう。4カ月のとき、大きな事故が起きました。
「外に行くときは、2歳の上の子をベビーカーに乗せて、リッキーのことはいつも抱っこひもで抱っこしていました。ある日、抱っこひもが緩んでいたことに気がつかず、すき間からリッキーがすべり落ち、頭からコンクリートに落下してしまったんです。バキーンという、まるで魔法びんでも割れるようなすごい音がしました。急いで病院に連れて行き、レントゲンを撮ったところ頭蓋(ずがい)骨骨折でした。頭蓋骨が真ん中ではっきり割れていました。
頭蓋内出血や脳への異常などは認められなかったため、入院はしなかったのですが、アンジェルマン症候群と診断がつく前は、事あるごとに“リッキーの発達が遅れているのは、私が抱っこひもから落としたせいだ”と自分を責めていました」(沙織さん)
耳の治療をしても言葉は出ず、セカンドオピニオンでも異常なし
リッキーくんは、生まれたときから呼吸がゼーゼーして苦しそうでした。発達の遅れについては、神奈川県立こども医療センターで診てもらっていたのですが、担当医から「一度、耳鼻科も受診したほうがいい」と言われたそうです。
「耳鼻科を受診したところ、鼻の奥が腫れるアデノイド肥大と慢性的な両耳の中耳炎が見つかりました。“中耳炎が慢性化していて、耳が聞こえていないかもしれない”とも言われ、アデノイド肥大の切除と鼓膜チューブ挿入術を受けました。“リッキーの言葉が出ないのは、耳の問題だったかもしれない。耳が聞こえるようになれば話せるようになるのかも…”と思ったのですが、その後の聴力検査で聴力が回復していると言われても、言葉は一向に出ませんでした」(沙織さん)
リッキーくんの発達の遅れは、月齢が進むにつれて目立つようになっていきます。
「いつまでたってもウーウーなどの喃語(なんご)は出ないし、寝返りもしません。私は3カ月半ごろで寝返りをした! と思っていたのですが、神奈川県立こども医療センターの担当医には、体の筋肉がつっぱっているために反動でたまたま寝返りしただけですと言われました。
セカンドオピニオンも受けたほうがいいと思い、1歳3カ月のときに別の病院でも診てもらいました。一般的な血液検査や脳波、MRI検査をしたのですが、検査結果は異状なし。ただ1歳半までに歩かなければ、何かあると思ってくださいと言われました」(沙織さん)
アンジェルマン症候群は、一般的な血液検査や脳のMRI検査では見つからない病気です。
「1歳半のとき、リッキーができるのはおすわりでした。つかまり立ちなど歩く気配はありません。ママ、パパ、まんまなどの一語文も出ないというよりは、声がまったく出ないのです。1歳ごろまでは笑い声も出ませんでした。うれしいことや楽しいことがあると、ニコニコ笑って手をタコのように動かします。私たち家族は、その動きがかわいくて、よく“リッキー、たこちゃんしているの?”と声をかけていました。この手の動きや言葉が出ないのも、実はアンジェルマン症候群の特徴です。ただこのときは診断がついていないので、なぜ言葉が出ないのか? 歩いたりできないのか? わかりませんでした」(沙織さん)
パパがネット動画で「リッキーくんと同じ子」を見つける
何の進展もないまま時だけが過ぎていきましたが、ある日、リッキーくんの発達の診療中、担当医に言われた言葉をきっかけに事態は動き出します。
「担当医から“言語理解は乳児期レベルで止まっています。今の時点では病名はわからないけれど、重いダウン症候群の子を授かったと思って育ててはどうでしょうか?”と言われました。
私は“もうリッキーの病名はわからないんだ…”と打ちのめされたような気分でした。家に帰って、泣きながらパパに伝えたところ、パパが“ダウン症なら染色体が原因の病気かな?”と言い出し、インターネットで調べ始めました。
ある日、パパがYouTubeにアンジェルマン症候群と診断された、アメリカの女の子・Everちゃんの成長を追った動画を見つけました。パパの第一声は“ママ、リッキーがいるよ”でした。Everちゃんの成長の様子がリッキーと似ていて、パパが“リッキーはアンジェルマン症候群ではないかな?”と言い出しました」(沙織さん)
沙織さんは、前述のとおりリッキーくんを授かり、産休に入るまで大学病院の小児科やGCU(新生児回復室)で、看護師として働いていました。重い病気の子たちをたくさん見てきましたが、アンジェルマン症候群という病名は初めて聞いたと言います。
アンジェルマン症候群は、遺伝子に何らかのトラブルが生じて起きる病気です。沙織さんはパパと話し合い、神奈川県立こども医療センターで、遺伝子検査を受けることを決意しました。
お話・写真提供/アップルビー・沙織さん 監修/露崎悠先生(神奈川県立こども医療センター 神経内科医長、小児科医) 取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
アンジェルマン症候群は診断がつきにくい難病です。重度の発達の遅れのほか、てんかんなどの症状がそろって初めてアンジェルマン症候群が疑われると言います。リッキーくんの場合は、この時点ではてんかんがなかったため、診断がつかなかったようです。
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