「うちの子、身長が低い?」病気が隠れていることも。低身長症を見分けるには成長曲線が重要に【専門医】
母子健康手帳に記載されている「身体発育曲線(以下発育曲線)」。子どもの成長を確認するために、このグラフに記録を残しておくことは大切です。発育曲線に描かれる帯から下回っている場合には「低身長症」の可能性も。2022年4月に行われた「低身長症オンラインセミナー」から、たなか成長クリニック 副院長 曽根田 瞬先生の話の内容をリポートします。
低身長って、病気なの?
子どもの発育はそれぞれ個性があり、ゆっくり身長が伸びる子もいます。子どもの身長が低いと気になって受診する人のうち、多くは遺伝や体質によるものだそうですが、中には病気によるものもあるのだそうです。
「低身長の原因の多くは遺伝や体質によるもので病気とは考えにくいものです。病気が原因になるものでは、ホルモンの病気(内分泌疾患)や、先天性疾患などがあり、そのほかにお母さんのおなかの中にいた期間からすると小さく生まれた赤ちゃん、虐待や栄養障害などで低身長となる場合もあります。2002〜2005年に、国立成育医療研究センター 内分泌代謝科を、低身長を心配して受診した患者さんのうち、原因の病気として最も多いのは内分泌疾患で、そのうち「成長ホルモン分泌不全性低身長症」が最多となっています(※1)。
低身長かどうかは、母子健康手帳の「発育曲線」や、日本小児内分泌学会のホームページからダウンロードできる「成長曲線」を見ると目安になります。成長曲線とは男女別にたくさんの子どもの身長や体重の記録を集めて、年齢別に身長や体重の平均値や標準偏差を曲線で示した表のことです。
このグラフにあるSDとは標準偏差(Standard Daviation)のこと。-2.0SDから+2.0SDの間に95%くらいの子どもが含まれます。身長が-2.0SD以下の場合は低身長とされ、100人のうち2〜3人くらいの割合です」(曽根田先生)
成長ホルモン分泌不全性低身長症とは?
3才〜10才ころまでの子どもの身長は、成長ホルモンの分泌によって促されますが、この成長ホルモンの分泌が弱くなり身長が伸びなくなる病気を「成長ホルモン分泌不全性低身長症」というのだそうです。
「脳の視床下部に垂れ下がる下垂体前葉から出される成長ホルモンが、肝臓を経由してインスリン様成長因子I(IGF-1)という物質を作り、骨に作用することで成長が促されます。しかし、この成長ホルモンの分泌が弱くなると、成長する勢いが低下して、病的な低身長症を引き起こすことがあります。これが『成長ホルモン分泌不全性低身長症』です。きちんと治療を行えば、身長の伸びは改善するので、見逃さないことが大事です。
『成長ホルモン分泌不全性低身長症』は、ほとんどは“特発性”といわれる原因が見つからないタイプが多く、この場合は成長曲線が持続的に-2SDを下回っていきます。注意が必要なのは、“続発性”といって、ある時点から急に身長の伸びる勢いが落ちた場合。このような場合、脳の下垂体近辺に脳腫瘍を生じるような重篤な病気があって、下垂体が圧迫されていることがあるのです。そのため、子どもの身長・体重は定期的に計測し、成長曲線を描いておくことがとても大事です」(曽根田先生)
治療が必要な場合はどのように行うの?
治療が必要かどうかは低身長の専門病院で診断を受ける必要があります。一般的には、こども病院の「内分泌代謝科」や、大学病院の小児科の「内分泌外来」といわれる診療科で、問診や身体計測などを実施した後に検査を行います。
「低身長症の診断には、採血・採尿・骨年齢の検査、成長ホルモン濃度の測定などの精密検査を行います。検査の結果、『成長ホルモン分泌不全性低身長症』と診断されれば、毎日の注射による治療が必要になります。治療薬の成長ホルモンは胃液・腸液で分解されてしまうため、飲み薬などはありません。また、作用時間が短いために毎日ペン型の注射器で必ず注射をする必要があります。
治療効果は、開始から最初の2年間が最大で、その後は平均と並行に成長していくことが多いです。期間は、診断を受けてから成長期が終わる中学〜高校生になるまで。成長ホルモンの分泌障害の程度が強いか弱いかでも異なりますが、重症の場合は3〜4才で診断がつくことも。その場合、10年以上もの治療になることもあります。また、ある程度身長が伸びたからと治療をやめてしまうと、その後の伸びは弱くなってしまいます」(曽根田先生)
治療を継続するハードルを下げるために
低身長の注射治療は、痛みがあることや、毎日続ける必要があること、薬剤の保管や準備の手間などから、継続するハードルが高い治療なのだとか。
「あるクリニックで成長ホルモン治療を行っている家族74組に調査したところ、『患者本人が治療を辞めたいと思ったことがある』と答えた人が53.3%と、半数以上いました。やめたいと思った理由は『痛い』が53.1%、『毎日するのが面倒』が50.0%という結果でした(※2)」(曽根田先生)
しかし、2022年1月、長時間作用型の成長ホルモン製剤「エヌジェンラ®」が承認され、治療の負担が軽減されることが期待されています。
「この薬剤は投与後の作用が長く続くため、1週間に1回の注射ですむのにもかかわらず、国内の治験では従来の毎日注射する製剤と同程度からやや上回る成長速度であったことがわかっています*。子どもたちの治療の負担が軽減することで、治療を継続しやすくなり、治療効果の向上も期待できると考えています」(曽根田先生)
*:エヌジェンラ® 国内第Ⅲ相試験(CP-4-009)承認時評価資料より
協力/低身長症プレスセミナー開催事務局 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
子どもの成長は人それぞれ個性があり、あまり気にしすぎる必要はありませんが、病気の可能性を調べるためにも、定期的に成長曲線を描いて記録しておくことが大切です。成長が気になったら、早めに受診して相談してみましょう。
※記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
(※2)参考文献:「成長ホルモン治療中の小児の家族における在宅自己注射に関する意識の検討」(2011年 市江和子 他)