<注目!>海外で急増する子どもの急性肝炎、の原因は?日本での現状は?この症状に要注意【専門家】
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イギリス、アメリカなど海外で、原因不明の子どもの急性肝炎の報告が相次いでおり、肝臓移植が必要だった症例や死亡例も報告されています。
こうした状況を受けて2022年5月5日、日本小児肝臓研究会と日本小児栄養消化器肝臓学会は連名で「小児の原因不明の急性肝炎について」と題した緊急声明を発表しました。小児の肝臓の病気に詳しい、国立成育医療研究センターの福田晃也先生に、2022年5月28日現在でわかっていることを聞きました。
⽇本では、子どもの急性肝炎が急に増えているわけではない
2022年5月27日、厚生労働省は国内の小児の原因不明の急性肝炎の入院症例(2021年10月~2022年5月26日10時まで)は累積31件と発表しました。しかし小児の肝臓の病気に詳しい、福田先生はけして驚く数字ではないと言います。
――原因不明の子どもの急性肝炎が海外で急増しています。日本でも入院した子がいるようですが、専門家として、先生はこの状況をどのように見ていますか。
福田先生(以下敬称略) 英国健康安全保障局によると、イギリスでは2022年5月25日時点で222人の小児急性肝炎症状が報告され、ウイルス検査をした170人中116人にアデノウイルスが検出されています。また11人が肝臓移植を受けています。
アメリカ疾病対策センター(CDC)の報告では、2022年5月18日時点、180人の小児急性肝炎症状を報告。半数近くにアデノウイルスが認められました。
ともにアデノウイルスが検出された中には、感染性胃腸炎の原因となるアデノウイルスの41型が検出された子もいます。アデノウイルスには50種類以上の型があり、41型は、乳幼児下痢症、胃腸炎の原因になるとされています.
前述の厚生労働省の発表によると31件のうち2例においてアデノウイルスが検出されていますが、それは41型ではなく、呼吸器感染症を引き起こす1型、2型です。そのため現段階では、日本と海外の発生状況は違うものと見ています。
――アデノウイルス41型が検出されていなくても、日本も諸外国のように子どもの急性肝炎は増えているのでしょうか。
福田 特別増えているとはとらえていません。5月27日の厚生労働省の発表では累計31件ですが、なかには血液検査で肝機能の異常が判明しただけの子も含まれていて、すべてが重症ではありません。肝臓移植はゼロです。
⽇本では以前から年間20例前後の小児の重症急性肝炎症例が発生しているので、国内においては急激に増えているとは言えません。
子どもの急性肝炎は、以前から原因不明が40%以上
今回の欧米での子どもの急性肝炎は、アデノウイルス説などもありますが、現段階では原因不明といわれています。
――子どもの急性肝炎の主な原因を教えてください。
福田 一般的に、急性肝炎は感染症のほか、薬、アルコールなどの過剰摂取によって起きます。大人の急性肝炎は、A~E型のウイルス性が約半数です。とくに多いのはB型肝炎です。
しかし子どもの急性肝炎は、以前から原因不明が40%以上を占めます。ウイルス性は約20%です。そのため原因不明という言葉に、必要以上におびえる必要はありません。
――アデノウイルスは、プール熱(咽頭結膜熱)の原因となるウイルスですが、今年の夏は、急性肝炎を警戒してプールなどは控えたほうがいいのでしょうか。
福田 アデノウイルスには50ぐらいの型があり、プール熱の原因となるのは多くは3型です。ほかには4型、7型、2型、11型などもありますが、これらの型が急性肝炎を引き起こすとは考えにくいです。
大切なのは早めの受診。黄疸、白色便、尿の色が濃いときは至急、医療機関へ
急性肝炎で注意が必要なのは、急変です。そのため「おかしいな」と思ったときは、診察時間外でも受診することが必要です。
――原因不明だと、どのようにして子どもを急性肝炎から守るといいのでしょうか。
福田 急性肝炎自体の発症を予防する方法というのはありませんが、アデノウイルスを始めとする感染症の予防は、手洗いとうがいが基本です。外から帰って来たり、食事をする前にはていねいに手を洗いましょう。赤ちゃんでも外から帰って来たら、抱っこして流水で手を洗ってください。清潔なおしぼりで手をふくだけでも構いません。
また急性肝炎は急変することがあるので、受診の見極めが大切になります。
――受診の見極め方について教えてください。
福田 急性肝炎を疑う場合は、夜間でもすぐに受診が必要です。とくに黄疸(おうだん)や白色便、おしっこの色がいつもより濃いときは急いで受診してください。なかには1日ほどで急変する子もいます。いちばんわかりやすいのは「白目の部分が黄色みを帯びてくること」だと思います。いつもと様子が違うと思ったら、白目部分の観察もするようにしましょう。
【受診の目安】
1.発熱、嘔吐、下痢、けんたい感、食欲低下
2.黄疸(皮膚がいつもより黄色っぽく見える、白目がクリーム色っぽくなっている)
3.白色便(母子健康手帳にある便色カードの1~3の色が目安)
4.おしっこが麦茶やウーロン茶の色のように濃い
――診察時間内のときは、かかりつけの小児科を受診していいのでしょうか。
福田 かかりつけの小児科で構いません。5月5日、日本小児肝臓研究会と日本小児栄養消化器肝臓学会が連名で出した声明の中では「嘔吐や下痢、発熱といった胃腸炎症状や感染症の症状がみられる小児に肝機能異常、黄疸、血液凝固能異常が認められる場合は、小児の肝臓疾患診療に詳しい医療機関を早めに受診するようご留意下さい」と医療関係者にお願いをしています。小児科クリニックの先生方にも、欧米で小児の急性肝炎が流行っているということを念頭に診療をしてほしいと思っています。
――万一、急性肝炎と診断されて入院となった場合は、どのような治療が行われるのでしょうか。
福田 重篤でなければ、2~4週間ぐらい入院しステロイド薬を使った治療を行うことがあります。重篤な急性肝炎になると、肝臓が止血に必要な成分を作れなくなるので出血しやすくなります。血液をかためる成分を補充したり、血液を体外できれいな血液にして体に戻す血液ろ過透析などの治療を行います。これらの治療を行っても,肝機能が改善しない場合には肝臓移植が必要になります。
取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
福田先生によると、連日、報じられているように子どもの急性肝炎が欧米で急増しているようなことは、今までになかったそうです。原因不明と言われると不安になりますが、福田先生は過剰に恐怖心を抱くのではなく、正しい情報を得て国内の状況を見極めてほしいと言います。
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