育児がつらい…4人に1人の親が感じている「育児困難」のタイプは5つ。あなたはどのタイプ?【専門家】

子どもはかわいいし、子育ては楽しいけれど「うまくいかないな」「つらいな」という気持ちは親ならだれしも感じるのではないでしょうか。日常生活に支障が出てしまうほどの育児困難を抱える人には、タイプによって傾向があるのだとか。青山学院大学教授で小児精神科医の古荘純一先生に話を聞きました。
育児を困難に感じる人は4人に1人?
――子どもはとてもかわいいものですが、一方で育児をつらいと感じる親も多いのでしょうか?
古荘先生(以下敬称略) 少し前の調査にはなりますが、日本小児保健協会の2011年の調査報告(※)で、子育てに困難を感じる母親は約26%、つまり4人に1人の母親が困難を感じているとわかりました。
「育児困難」とは、「常に子どもをかわいいと思えない」「子育てがうまくいかなくて自信がない」と感じているような状態のことです。このデータだけでは専門的なサポートが必要な育児困難の程度なのかどうか、ということはわかりません。ですが、私が小児精神科医として子どもの診察にあたる中で、むしろ親の心の状態が気になることが増えてきました。
昔は祖父母と同居していたり、近所に親せきがいたり、地域のコミュニティーがあったりして、そこで相談して解決していた、または解決しないとしても、周囲が子育てをサポートしてくれる環境がありました。しかし、核家族化が進んだ現在では、相談先もなく、手伝ってくれる人もいない、子どもをちょっと預かってもらって離れる時間も取れないことで、孤立して悩んでいるママは多いと思います。さらにコロナ禍でその傾向は強まっているともいわれます。
――最近のママやパパについて、子育ての困難さがあっても相談できない人は多いのでしょうか?
古荘 親にも友だちにもネガティブなことを相談しにくいことや、あるいは相談をしても「真剣に考えてもらえなかった」「励まされただけだった」などあまりいい回答が得られないこともあります。
それでネットの情報に頼る人も多いですが、非常に断定的に書かれた情報や、自分の状況にとって役に立つ情報ではなく、かえって混乱してしまうこともあるようです。
育児困難を抱えやすい5つのタイプとは?
古荘先生によると、育児に非常に困難を抱えやすい人は5つのタイプの傾向があるそうです。
タイプごとの特徴について教えてもらいました。(参考:『「いい親」をやめるとラクになる 子どもの自己肯定感を高めるヒント』古荘純一 著/青春出版社)
【1・トラウマタイプ】自分の親との関係をひきずっているタイプ
自分の親との信頼関係が築けなかった(愛着障害)ことがトラウマ(心的外傷)となっていることや、「自分は親にこんなことをやってもらえなかった」など自分と親の関係のひずみを、自分が親になったときに子どもとの関係に投影するタイプです。パートナーとの人間関係が緊張してしまうことも。子どもにはつらい思いをさせたくないが、どう接したらいいかわからない傾向があります
【2・強迫・不安タイプ】細かいことを気にしすぎてしまうタイプ
育児とは「こうあらねばならない」という思いが強く、子どもの非常にこまかいことを確認したり、こだわりを強く持っているタイプです。危機管理などに携わりミスが許されない職業の人など、まじめできちょうめんな人に多く見られます。
【3・発達障害の傾向があるタイプ】人に合わせたコミュニケーションが苦手なタイプ
発達障害の傾向といってもさまざまな特性がありますが、自分のこだわりと外れることに対して応用がききにくかったり、子どもの行動を自分の規則性やこだわりに当てはめようとしたりして、うまくいかずに悩むことがあります。子どもの気持ちを推察するのが苦手なことも、育児の困難さを生じる要因と考えられます。親自身が自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、などの傾向を持ち合わせていると、子育てにおいても子どもとの接し方に「独特さ」が目立つこともあります。このタイプの人は、子どもを持ったことで自分の特性に気づくこともあるといわれます。
【4・心身症タイプ】体の不調によって生活リズムが乱れやすいタイプ
朝方は調子が悪く、夕方には改善するなど1日のうちで体調の変動が大きく、妊娠・出産・育児になどの変化によって、体の不調が出やすくなるタイプです。自律神経失調症や、倦怠感・偏頭痛などの心身症などの病気を持っている場合、生活習慣を他人に合わせると、身体の調子が悪くなる特徴があります。体の生理的な機能を調節するのが苦手なので、朝起きたら非常に体がだるくて、エンジンがかかるまでに時間がかかることがあります。授乳やおむつ替えなど、赤ちゃんの要求に対応しきれない面で困難さが出てくることがあります。
【5・抑うつ(うつ病)タイプ】すべてのものごとを悲観的に考えてしまうタイプ
抑うつとは、すべての状況を悲観的に感じてしまうこと。産後うつは珍しいものではありません。赤ちゃんが生まれたのに悲しい、眠れない、考えがまとまらない、子どもが泣くと自分も泣きたくなる、生きていく自信がない、などと感じます。
生涯で1度でもうつ病の状態になる人は6人に1人くらいといわれ、さらに赤ちゃんを産む年齢と、うつが表出する年齢が重なることが多いといわれています。出産はとても喜ばしいことですが、体にも大きな変化がありますし、育児という非常に大きな仕事を抱えることで、精神的な変化も起きやすい時期。だれにとってもうつ病を発症しやすい時期といるでしょう。
育児が困難になったときの支援先を探すには?
――自分がこの5つのタイプに当てはまっているかどうか、自分で気づけるものでしょうか?
古荘 インターネットなどでチェックリストがあったりしますが、私の臨床経験からいうと、自身でチェックすることはかえって混乱しかねないと思っています。
育児をしていて「つらいな」と感じることが続いたら、保健師や助産師や看護師、カウンセラーなど、状態を客観的に判断できる人に相談するほうがいいでしょう。それで必要であれば定期的にフォローを受けられたり、より専門性のある医療機関につなげてもらったりすることも可能です。
――どこに問い合わせると、相談先やサポート先を紹介してもらえますか?
古荘 各自治体で子育て世代包括支援の取り組みを行っているはずですので、保健所や市区町村の担当部署に問い合わせましょう。もしインターネットで探すなら、自治体などの公的な機関を探し、見つからなければNPO法人などを探す方法もあります。また、子どもの定期健診で小児科医に相談するのもいいでしょう。
一方で、相談できる専門家になかなかたどり着かない現状もあり、育児困難を抱えている人のニーズと、それに対応する専門家のバランスが取れていないとも感じています。
相談する専門家との相性もあることなので「話を聞いてほしいのに、一方的に話をされた」「質問に答えてほしいのに質問と関係ないことや一般論をいわれてしまった」と、自分が答えてほしいところに手が届かない経験をしている人が多いと感じます。
困難を抱えている人に対しては、「傾聴」といってじっくり話を聞くことが必要ですが、組織的なことや時間などの関係で、なかなか時間や回数をかけて傾聴することまで至らないという難しさもあります。育児困難を抱える人のサポートをするために、専門家も臨床経験を重ねることが必要だと思います。
取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
育児というのは予定通りにいかないこと、うまくいかないことが多いものです。子育てにつらさを感じることが続いたときに、5つのタイプに当てはまるかも…とわかったら、対処法のヒントになるのではないでしょうか。
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