小児救命救急センター24時【無呼吸発作(むこきゅうほっさ)】
4、5日前から軽い鼻水とせきが出始め、風邪かな?と思っていたら…
ある日の早朝、「数日前からせきや鼻水が出ていたという3カ月の女の子が"一瞬、息を止めてしまう"という救急コールがあり、搬送を許可してほしい」とホットラインからの要請があった。せき込みはひどく、せきが連続する様子で顔が真っ赤になり、そのあとで呼吸を止める感じがあるという。また、せき込まないときも呼吸が止まる感じがあるとして、詳しく報告してくれた。
ほどなくして搬送された女の子はケロッとしているように見えたが、診察を始めてのどの奥を診るために舌圧子(ぜつあつし)で舌を押さえると、刺激されたのか激しくせき込み始めた。せきの感じから百日(ひゃくにち)ぜきが最も疑わしいと考えられたので、検査の指示をして、母親から話を聞いた。母親は、4、5日前から女の子に軽い鼻水とせきが出始めて、風邪かなと思っていたが、熱はなく機嫌もよかったので様子を見ていたという。
「日に日にせきがひどくなり、激しくせき込むようになったため、一昨日かかりつけ医を受診すると、風邪だろうとのことで鼻水とせき止めの薬をもらって飲ませていました」
薬が苦いのかうまく飲めず、昨夜からせきが止まらなくなったようだ。
「せきがコンコンと10回以上続くようになり、"これはおかしい"と思って。今日の午前中にかかりつけ医を再受診しようと思っていたのですが、朝から呼吸がおかしく、しかも息を止めるようになったので、怖くなって救急車を呼びました」と説明してくれた。
無呼吸発作は中枢神経系の異常で起こることも
「家族でせきをしている人はいませんでしたか?」の質問に、「3才の兄が2週間前にせきと鼻水の症状がありましたが、かかりつけ医で薬をもらってすぐに治まりました。うつらないようにと気をつけていたのですが、兄の風邪がうつったのですか?」、「(百日ぜきを予防する)四種混合ワクチンはまだ接種していないですか?」の問いには、「ヒブと小児用肺炎球菌ワクチンは1回ずつ接種しましたが、四種混合は来週を予定していました」と答えてくれた。
研修医から、「頭部X線検査は異常ないが、白血球数が2万8000と高値で、リンパ球が85%もあります」と連絡が入った。百日ぜきの抗体価(こうたいか(体内の抗体を検出してウイルス感染を調べる))の提出を指示して酸素投与とモニタリングを準備し、個室をとってすぐに抗生剤を使用するよう指示した。「無呼吸発作は中枢神経系の異常でも起こりますが、頭部X線検査は問題ありませんでした。せき込みがひどくて白血球が異常高値ですので、百日ぜきが最も疑わしいでしょう。百日ぜき脳症(のうしょう)などにならないよう、直ちに入院して治療しましょう」との説明に、母親は納得してくれた。入院後もせき込みは4〜5日間続いたが、処方薬に反応して、無呼吸発作とせき込みは徐々に減少してきた。10日間の治療で、せきは少し残るものの、せき込みと無呼吸発作は出なくなったので退院とした。
母親は「少しでも早く予防接種をしておけばよかった」と反省していたが、「今回は防ぎようのないケースですよ」との説明に、ほっとした表情になった
【無呼吸発作の原因とは?】
乳幼児に無呼吸発作を起こす代表的な感染症は、百日ぜきとRSウイルス感染症で、ともに鼻水、せきがひどく、せきが悪化する前に無呼吸発作を起こすことも。百日ぜきは家族からの感染がほとんど。四種混合ワクチンを早めに受けて防いで。大人もせきが長引く場合、早期の受診が必要です。
■監修:(故)市川光太郎先生
北九州市立八幡病院救命救急センター・小児救急センター院長。小児科専門医。日本小児救急医学会名誉理事長。長年、救急医療の現場に携わり、子どもたちの成長を見守っていらっしゃいます。
【市川先生から…】
無呼吸発作は放置すると重篤な障害につながりやすいので、顔色が変わる(青白くなる)ような無呼吸発作が現れた場合、中枢神経系の異常や感染症などを詳しく調べる必要があります。すぐに医療機関を受診しましょう。
イラスト/にしださとこ
【お知らせ】
市川先生が、赤ちゃんがかかりやすい病気や起きやすい事故、けがの予防法の提案と治療法の解説、現代の家族が抱える問題点についてアドバイスしてくださった「救命救急センター24時」は、雑誌『ひよこクラブ』で17年間212回続いた人気連載でした。2018年10月市川光太郎先生がご逝去され、連載は終了となりました。市川先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます(構成・ひよこクラブ編集部)。
※この記事は「たまひよコラム」で過去に公開されたものです。