2100年には夏の最高気温は40度超え、真夏日は2カ月以上続くと予測・・・。子どもたちの未来を守るために今できること【防災アナウンサー】
大地震や台風など災害大国ともいわれる日本ですが、近年では温暖化の影響もあり毎年、豪雨災害にも見舞われています。子どもたちを守るために、私たち親が今できることについて、3才の男の子のママであり、環境省アンバサダーも務める防災アナウンサーの奥村奈津美さんに話を聞きました。奧村さんが主催するオンライン防災講座は、2020年5月〜2022年5月の2年間で50回ほど行われ、のべ1万人ほどの参加があったそうです。
子どもを災害から守ることは、SDGsのゴールにもつながる
――近年、豪雨災害が続いています。今、私たちが住む日本にどんなことが起こっているのでしょうか?
奧村さん(以下敬称略) 豪雨日数は増加傾向にあります。記憶に新しいところでは、2014年の広島大規模土砂災害、2015年の鬼怒川水害による決壊、2016年に3つの台風が北海道に上陸、2017年は九州北部豪雨、2018年は西日本豪雨、2019年に東日本を襲った台風19号、2020年の熊本豪雨による球磨川の決壊、2021年は熱海市伊豆山土石流災害。死者・負傷者などの人的被害を伴う豪雨災害が毎年のように発生しています。今年、2022年も東北・北陸などで豪雨による浸水被害がありました。
近年、地球温暖化による気候変動でゲリラ豪雨、線状降水帯など雨の降り方が変わっているということは、みなさん気づいていると思います。気温が高くなるとなぜ雨量が増えるのかというと、気温が上昇すると、海などから水が蒸発し、空気中の水蒸気量が増えるからです。100年前と比べて、現在の日本の平均気温は約1.26度上昇していて、このままでは最悪のシナリオでは、2100年には夏の最高気温は40度を超えてしまうと予測されています。しかも 2カ月以上35度以上の真夏日が続くと予測されている地域もあります。地球温暖化を止めない限り、子どもたちが大人になるころには、災害がより激しくなると予測されています。
この状況から子どもたちを守る、つまり防災を考えるには、まず気候変動を止めること、温暖化を進める原因となっているCO2を削減することが必要だと考えられています。
――奧村さんは防災に取り組むこととSDGsのゴールとは共通すると考えているとか。そのことについて教えてください。
奧村 SDGsは17のゴールが設定されていますが、このすべてのゴールを達成することは災害に強い社会を作ることにつながると考えています。
たとえば「目標7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「目標11 住み続けられるまちづくりを」「目標13 気候変動に具体的な対策を」は、温暖化を食い止め、持続可能な暮らしができるようにするためのゴールです。
また、「目標1 貧困をなくそう」「目標2 飢餓をゼロに」では、日本でも7人に1人の子どもが貧困とされていて職業や住環境、損害保険などさまざまな面で貧困層は災害時脆弱な状態になりやす く、より貧困を進める原因にもなります。また、レジリエント(強靭)な農業を実践することは、食糧安全保障の観点からも重要です。
そのため「目標3 すべての人に健康と福祉を」のように、日常生活で心身ともに健康な状態であることは、災害関連死を防ぎ、災害時に命をつなぐ上でも重要だと考えます。
地球温暖化を止めるために私たちが今、できることは?
――気候変動を止めるために、またSDGsの目標を達成するために、各家庭でできることはどんなことがあるでしょうか?
奧村 家庭生活からの二酸化炭素排出量を減らすことを考えると、持続可能な方法や資源を用いて発電している会社に変更する「パワーシフト」を検討してほしいと思います。家庭からの二酸化炭素排出量のうち約47.6%を占めるのが電気です。そのため、石油や石炭などの化石燃料由来の電気ではなく、再生可能エネルギーで作られた電力を提供している電力会社に切り替えることで、家庭から排出されるCO2の約半分を削減できることになります。再生可能エネルギーとは、太陽光・風力・地熱・中小水力・バイオマスといった、温室効果ガスを排出しない電力のことです。どんな電力会社があるかは、NPO法人が運営する『未来を作る“でんき”のえらび方』というサイト(※1)で一覧になっているので、ぜひ参考にしてみてください。切り替え手続きもウェブサイトから申し込め、電気代もほとんど変わりません。
また、自家用車を持っている場合、家庭でのCo2排出量が電気の次に多いのが車のガソリンです。都市部ではなるべく公共交通機関を使うことをおすすめしたいです。世界的には「脱ガソリン車・ディーゼル車」を掲げて、電気自動車(EV)にシフトする動きが見られていますが、電気自動車を造るときに排出される二酸化炭素は、ガソリン車より多いといわれています。
電気自動車を充電する際にも、火力発電などの化石燃料由来の電気を使っていたらガソリンを排出することと変わらないとも考えられます。小さい子どもがいる家庭や地域によっては車は必要かもしれませんが、カーシェアにするとか、最低限の利用頻度にするという工夫も考えてもいいでしょう。
家庭では防災シミュレーションをしておこう
――では、いざライフラインが止まってしまうような災害への備えとして、家庭でどんなことを備えておくといいでしょうか。
奧村 赤ちゃんがいる家庭では、紙おむつやおしりふき、離乳食。ミルク育児の場合は調乳用の水、粉ミルク、カセットコンロ、ガスボンベなども少なくとも2週間分の備えをしておきましょう。詳しくは農林水産省のサイトにパンフレットがあります(※2)。また、最近「おうち防災キャンプ」ともいわれるようですが、水道・電気・ガスのライフラインが止まったと仮定して、シミュレーションしてみるのもいいかもしれません。ですが、今年の夏も猛烈な暑さで熱中症の危険があるので、夏にエアコンを切ってしまうのは小さい子どもがいる家庭にとっては危険です。秋や春などの過ごしやすい時期に行うのがいいと思います。
夕方から2〜3時間水道・電気・ガスを使わずに生活してみて、非常灯の電池をチェックしてみる、ベッドでなくて寝袋で寝てみる、おふろではなくウェットティッシュなどを使う、など、家族で経験しておくことは大切です。実際にシミュレーションしてみると、どういう照明器具が使いやすいか、何を買い足したほうがいいか、逆に何が不要かの気づきがあると思います。無理がない範囲でお子さんと一緒にやってみるといいでしょう。
お話・監修/奥村奈津美さん 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
「地球温暖化」「気候変動」と聞くと、遠い場所で起こっていることのように感じてしまいますが、毎年ひどくなる豪雨災害に、私たちだれもがいつ巻き込まれてもおかしくない状況です。子どもたちの命を、今そして未来も守るために、少しずつできることを始めてみてはどうでしょうか。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
奥村奈津美さん(おくむらなつみ)
PROFILE
1982年東京生まれ。防災アナウンサー×環境省アンバサダーとして、NHK「おはよう日本」「あさイチ」などテレビ・ラジオをはじめ、雑誌・新聞などさまざまなメディアに出演。著書「子どもの命と未来を守る!防災「新」常識〜パパ、ママができる!!水害、地震への備え〜」(辰巳出版))
東日本大震災を仙台で経験し、以来、防災啓発活動に取り組む。防災士、福祉防災認定コーチ、防災教育推進協会講師、防災住宅研究所理事、東京都防災コーディネーター。環境省森里川海プロジェクトアンバサダーとして「防災×気候変動」をテーマに取材、発信中。一児の母。