粉ミルクの正しい使い方とNG行動。乳幼児(1歳未満)が感染すると危険なサカザキ菌に注意を【小児科医】
日本国内で市販されている粉ミルクは安全基準をクリアしたものではありますが、ごくわずかにサカザキ菌などの有害な細菌が含まれる可能性もあるそうです。赤ちゃんを細菌感染のリスクから守るために気をつけるべきことについて、小児科医の工藤紀子先生と、粉ミルクのメーカーである明治の管理栄養士・林美有紀さんに話を聞きました。
乳幼児の感染リスクが高いサカザキ菌とは?
2022年2月、アメリカで販売された粉ミルクに「サカザキ菌」の混入があり、4名の赤ちゃんが細菌感染症にかかり、そのうち2名が亡くなってしまった事故がありました。この「サカザキ菌(Enterobacter sakazakii)」とは、2007年、WHO(世界保健機構)とFAO(国連食糧農業機関)が乳児用調製粉乳における最も懸念される微生物として勧告をした、注意すべき細菌です。
「サカザキ菌は、ヒトや動物の腸管内、土壌、汚水など自然環境に広く存在する細菌で、健康なヒトに病気を起こすことはほとんどありません。この細菌は、とくに乳幼児の髄膜炎や腸炎の発生に関係しているとされ、感染した乳幼児の20~50%が死亡したという事例の報告もあります。また、死亡に至らなかった場合も、神経障害等の重篤な合併症が継続するとされています。
WHOに報告された感染事例の年齢分布から、乳幼児(1才未満)がとくにリスクが高いと考えられています。また、乳幼児の中でも、サカザキ菌による感染症に対して最もリスクが高いのは、生後28日未満の新生児、とくに低出生体重児、免疫障害を持つ乳幼児です」(工藤先生)
日本で販売されている粉ミルクにも、自然環境に広く存在するサカザキ菌や、サルモネラ菌が含まれている可能性がないとは言えません。
「厚生労働省科学班によると 2005 年から国内の市販乳児用調製粉乳の汚染実態調査では、各年度 2〜4%の検体からサカザキ菌が分離されていて、2006年と2007年の汚染菌数はいずれも 333g 中に 1 個でした」(工藤先生)
また、日本国内で粉ミルクに混入したサカザキ菌による発症例も報告されているそうです。
「2009年に脳膿瘍(のうのうよう)と敗血症、2例の発症例の報告はありますが、いずれも低出生体重児のケースで、抗菌薬投与にて改善しています」(工藤先生)
以前は調乳に適したお湯の温度は40~50度とされていたようですが、サカザキ菌への感染を防ぐため、WHO(世界保健機構)とFAO(国連食糧農業機関)により2007年に「乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存および取扱いに関するガイドライン」が公表され、日本でも同年6月に厚生労働省の指導のもと、「サカザキ菌を死滅させるだけの温度である70度以上」に改訂されました。
「ガイドラインにあるとおり、サカザキ菌は70度以上のお湯で死滅します。市販の粉ミルクのサカザキ菌の混入リスクはゼロではありませんが、70度以上のお湯で調乳すれば、感染のリスクを大幅に減少させることができます」(工藤先生)
調乳したミルクの保管のポイント3つ
WHO /FAOの調乳ガイドラインでは、サカザキ菌などへの感染リスクを下げるために、ミルクの保管方法や温め直すときのことについても注意喚起がされています。そのうちの3つのポイントについて工藤先生に解説してもらいました。
【1】ミルクは作り置きしない
「70度以上のお湯で調乳したミルクであっても、常温に置いておくと有害細菌が繁殖するリスクがあるため、必ず2時間以内に使用する必要があります。ミルクは作り置きせず、その都度新しく作りましょう」(工藤先生)
【2】調乳したミルクは5度以下で保管し24時間内に使用を
「どうしても事前に粉ミルクを調乳する必要があるときは、哺乳びんやふたつきの容器に調乳したら、すぐに流水や冷水を張ったボールに浸して5度以下に冷やしてから、ふたをして5度以下に設定された冷蔵庫で保管し、24時間以内に使用しましょう」(工藤先生)
【3】15分以上の加熱はNG
「5度以上の温度では有害細菌を増殖させてしまう可能性があるため、保管は5度以下に設定した冷蔵庫で。そのミルクを温め直す場合は、冷蔵庫から出したらすぐに湯せんをしてよく混ざるように振りながら人肌の温度まで温めます。熱の不均衡ができることがあるので電子レンジは絶対に使用しないでください。
また、温め直す場合は15 分を越えて加熱し続けることがないように注意。長時間再加熱をすると、有害細菌が増殖するリスクがあります。ボトルウォーマーという商品もありますが、感染リスクを増やす原因になることも。冷えたミルクを15分以内に速やかに温めなおすことを考えると、都度作ったがほうが早く安全かもしれませんね。夜間授乳時にミルクを作るのは大変ですが、感染リスクの面から考えるとその都度作ってあげたほうが安全です」(工藤先生)
ミルク缶の保管は冷蔵庫に入れないで
サカザキ菌などの細菌は、製造・販売過程で混入しなかったとしても、家庭での保管方法によって混入することもあるため、正しい保管方法を守ることが大切です。
「粉ミルクは冷蔵庫に入れると湿気を帯びて、ミルクが中で固まってしまったり細菌が増えやすくなる可能性があるため、常温保管が基本です。直射日光を避け、開缶後は1カ月以内に使ってください。
また、ミルクを計量するスプーンは、調乳する際に湿気がついてしまうことと、手の細菌がつく可能性もあることから、調乳後に缶の中に戻すのはNGです。戻してしまうと湿気によりミルクが固まったり細菌が増える原因になりかねません。使用後のスプーンは洗って別の容器で保管しましょう。
外出などでミルカーを使用する場合は、その日に使用する分だけ入れて、目的が済んだらミルカーも洗って消毒してください」(林さん)
お話・監修/株式会社明治 林美有紀さん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
安全な粉ミルクの調乳方法や保管方法は、各メーカーの粉ミルクのパッケージに明記されています。消化機能が未熟な赤ちゃんを感染症から守るためにも、必ず方法を守って調乳・保管するようにしましょう。
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