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【女優・加藤貴子】髪を伸ばしている息子がからかわれ、悔しい思いをしたことも。今こそ考えたい、自分らしさについて

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8才と5才の男の子のママである女優・加藤貴子さんは、子どもの成長にともなってジェンダーの考え方についてどうとらえたらいいか気になっているそうです。私たち親の世代が育てられた社会と、これからの子どもが育っていく社会では、考え方や価値観が変化しています。
加藤さんが育児にかかわる悩みや気になることについて専門家に聞く連載第9回は、元保育士で3人の男の子のパパ、現在は大阪教育大学附属天王寺小学校の校長を務める小崎恭弘先生に、「ジェンダー」や「自分らしさ」について話を聞きました。

「自分らしさ」を大切にする社会に向かっている

加藤さん(以下敬称略) 今親である私たちの世代は、幼いころから「男の子だから〜」「女の子だから〜」といった価値観を植えつけられて育ってきたと思います。「結婚して出産や子育てをしたいなら、今までと同じようには働けないよ」なんて言われたこともあって、私以外の女性もいろんな可能性をはばまれてきたんじゃないかな、と感じています。

だから、これからの社会を生きる子どもたちにはそういう価値観から解放されてほしいなと思っています。

小崎先生(以下敬称略)「男だから、女だから」 といったジェンダーは国や地域の歴史・文化によっても違いますし、常に変化をしていくものです。少し前まで日本社会に広く浸透していた「男性は社会に出て働き女性は家庭で家事育児をする」という形態が初めてできたのは、第2次世界大戦後、高度経済成長の時代といわれます。社会全体として経済成長が求められる中、そのような家庭の形態はある意味では画一的な幸せモデルでもありました。

でも近年は少しずつ、個人の生き方や思いを大事にしたいという価値観が広まり、ジェンダーフリーや自分らしさ、といったことについて意見を言いやすい時代と社会にようやく変わってきている気がします。ちょうど前の文化と新しい文化のせめぎ合いの通過点にいると感じます。

加藤 たしかに、私が学生のころは、女子が家庭科の授業を受けているときは、男子は技術科の授業を受ける、と、男女が分けられていました。

小崎 そうなんです。学校のカリキュラムとして男女が分けられている時代がありました。今では、小学校〜高校の家庭科の授業は男女一緒ですし、家庭科の中には保育の授業もあります。

加藤 今は男女の働き方も多様化していて、主夫になる男性もいますよね。家庭を持って子どもを育てる上で、どちらかが主に働いて、どちらかが家庭のことをする、もしくはどちらも同じように働くなど、いろんなスタイルがあっていいと思います。子育てや家事はお金に換算されないけど大切なことに違いないのに、主婦も主夫も社会的にあまり認められていないイメージがあることも気になります。

小崎 その根底にある価値観や文化のものさしが「経済性」だけになってしまっていたんでしょうね。「稼いでいる人間が偉い」というような。男性にも女性にも、今なおそのものさしが抜けきれていないところはありますよね。経済性は大きな軸ではあるけれど、僕は人生のすべてではないと思います。

一方で、農耕民族で集落などの共同体で生き残る必要があった日本人は、全体性を大事にする文化がありますよね。同調圧力という言い方もあって、ほかの人と違うことや目立つことに抵抗感がある。だから日本人は多様性を認めるのが苦手なのかな、と思います。

そのような文化が、戦後80年近くたって少しずつ変わり始め、「1人 1人の個性を大事にしよう」という方向になってきています。たとえば約30年前はランドセルの色は赤と黒しかなかったわけですが、最近は実にカラフルです。30年前では、男の子が赤いランドセルが欲しい、ということすら受け入れてもらえる状況ではありませんでした。
ただ、変わってきたと言ってもまだまだこれからです。
少しずつ社会の文化や価値観が変化をしていく中で子育てをするには、その変化に気づく敏感さ、感度のよさというものが、親も教育者も必要になってくると思います。

人と違う個性を認め合い、守るために

加藤 個性というと、私の息子2人は髪を長く伸ばしているんですが、公園で他校の上級生に「チンチンついた女だな」とからかわれたりしたことも。それで長男が反論して怖いめにあってしまったことがありました。また、同級生にもうまく説明できずに悔しい思いをしたこともありました。
いじめというわけではなく、子どもは見て感じたことをそのまま言っただけだと思うんです。でも長男もどうやって主張していいかわからないようだし、私もなんてアドバイスをすればいいものかと、悩んでいます。

小崎 人と少し違う見た目のことを、なかなかまわりに理解されていないんですね。そのようなトラブルがあったときには、学校の先生の子どもの個性に対する敏感さが必要ですし、どうしてトラブルになったのかの原因を理解する姿勢が大事です。ただ、学校のシステムはまだまだ、子どもが個性を主張することや、1人1人の個性を守ることに対して、弱い部分があるかもしれません。

多様性を認め、個性を守るしくみを築こうとしている先生や、取り組みも始まってはいます。すぐ急激に大きな変化はないにしても、時間はかかるけど社会を確実に変えられるのが教育の力ではないかなと思っています。
また、人と違う個性を持つ子どもにとって、そのような学校での経験は周囲とどうやって折り合いをつけるかを、試行錯誤しながら学ぶことができる面もあると思います。


加藤 保育園や学校の先生に理解してほしい場合や、お友だちとのトラブルのときにサポートしてほしい場合はどうすればいいですか?

小崎 子どもはこういう個性がある、こういうことに配慮してほしい、と伝えましょう。園や学校や先生自体が多様性についてよくわからない、理解していない場合は、保護者が説明するとか、おすすめの本を共有するのもいいと思います。親はその子の専門家ですから。

教育においても、男女混合名簿の使用など、固定的な性別役割分業に対しての改善が見られるようになってきました。法律や社会の制度で通知されていても、現場では気づかれていないこともあるでしょう。保育者や小学校の先生などでも、自分の中の刷り込みが強く、自分の思い込みや考えの偏りに気づいていないことがあります。これをアンコンシャスバイアスと言います。「無意識の思い込み」ですね。

「男らしい」や「女らしい」とする行動や、「男の子は青」「女の子はピンク」など色のイメージ、また、年齢・学歴・職業等の属性で人を判断することや、血液型を聞いて、相手の性格を想像することもアンコンシャスバイアスです。だから、子どもの個性について、親が教師に訴えることで、先生への気づきの機会のきっかけにしてもらうことはすごく大事なことです。

乳幼児期にかかわる保育者の大切さ

加藤 保育園の先生方に子どもの個性について配慮をお願いするにしても、先生方も忙しすぎるんじゃないかな、と心配になってしまいます。

小崎 そうですね、やはり保育士や幼稚園教諭の忙しすぎる現状では、1人1人を大切にする保育の基本が十分にできていない問題はあります。また、取り入れるべきジェンダーの話を、先生方が多忙がゆえに学ぶ機会が少ない問題もあります。

加藤 子どもの人間形成でも、いちばんの基礎にあたる時期が、保育士さんや園の先生と過ごす時間なのでは、と思います。先生方の忙しさに対して、評価や報酬が見合っていないようにも思えます。

小崎 保育士の給与は6年前くらいと比べると13%ほど上昇していますし、国も努力してくれてはいます。ただ、子育て・保育が社会の中で価値が低いとされているとは感じます。それは政策の決定権を持っているのが、子育てを経験していない世代の男性が多いからではないでしょうか。子どもへの向き合いがないままでは、ジェンダーの負の再生産が起きてしまいます。

だから、変わり目である今、ジェンダー教育の大切さに気づいている人たちや、子どもたち自身がこれから成長していく中でも、おかしいことはおかしいと周囲に発信することが大切です。それによって自分自身の人生をより豊かにしてほしいですし、少しずつ時代を変えていかれるんじゃないかなと思います。

お話/加藤貴子さん、小崎恭弘先生 撮影/アベユキヘ 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

監修/小崎恭弘先生

子どもが自分もお友だちも、それぞれの個性を認め合い、子どもたちが生きやすい社会にするために親の私たちが今できることは、社会の変化に敏感になり、親である自分自身の考え方を見つめ直すことかもしれません。


●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

加藤貴子さん(かとうたかこ)

PROFILE
1970年生まれ。1990年に芸能界デビューして以降、数々の作品に出演。代表作として『温泉へ行こう』シリーズ(TBS系)、『新・科捜研の女』シリーズ(テレビ朝日系)、『花より男子』(TBS系)などがある。

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