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脳科学的に考えると、「しかる」ことは子どもの成長には結びつかない。子どもの脳を刺激するメカニズムとは?【専門家】

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子ども子育てのイメージ
●写真はイメージです
maroke/gettyimages

「きちんとしからないと子どもは理解できない」「しからずにほめて育てることが大切」。どちらもよく言われるため、しかり方について悩むママ・パパも多いのではないでしょうか。しかし『叱る依存がとまらない』の著者で、臨床心理士・公認心理師の村中直人先生は、「多くの人はしかることを『過大評価』している」と言います。しかることをどう考えればいいのか、脳科学と心理学の見地から聞きました。

しかる背景には「相手の行動をコントロールしたい」という強い欲求がある

――そもそも「しかる」とはどのような行為なのでしょうか。

村中先生(以下敬称略)「言葉を用いて恐怖、不安、苦痛、苦しみなどのネガティブな感情体験を与えることで、相手の行動や認識の変化を引き起こし、思うようにコントロールする行為」と、私は定義しています。国語辞典で「しかる」をひいても、しかる側に攻撃的なニュアンスがある説明が書かれています。

――相手に攻撃的な言葉を投げかける行為というと、「怒る」が思い浮かびます。「しかる」と「怒る」には、どのような違いがありますか。

村中 しかられる・怒られる側(子ども)が受けるネガティブな感情体験は変わりません。異なるのは、しかる・怒る側(ママ・パパ)の「相手をコントロールしたい」という欲求の強さです。

たとえば、私がテレビのスポーツ中継を集中して見ているとき、息子が私にまとわりついてきたら、「今いいところなんだからやめてよ!」と、ちょっと強い口調で息子に伝えると思います。息子は一瞬ビクッとして、「怖い」というネガティブな感情を持つでしょう。でも、私から離れてくれたら問題は解決するので、その後、私は息子に普段通り接します。これは「怒る」です。

一方、おもちゃを出しっぱなしにして片づけない子どもに対して、「早く片づけなさい!」と強い口調でいうのは「しかる」です。なぜなら、この言葉を発する背景には、「子どもにおもちゃを片づけさせたい=子どもの行為をコントロールしたい」という強い欲求があるからです。そして、自分が思い描くように子どもが行動しないと、コントロール欲求がさらに強くなり、何度もしかってしまいます。つまり、「しかる」は「怒る」より長引きやすく、負のループに陥りやすい行為なのです。

――「怒るのはダメだけどしかるのは必要」と言われることがありますが、それは間違いなのでしょうか。

村中 そうです。そもそも子どもにとっては「しかる」も「怒る」も大差ありません。むしろ先ほどの例のように短時間で終わることで、怒るほうが子どもへのダメージが少ないことすら起こり得るでしょう。

子どもの脳内では防御システムが作動。その場を逃れるためにいうことを聞く

――ママやパパは子どものためを考えてしかっていると思うのですが、実は子どものためになっていないのでしょうか。

村中 世間一般には、「しかることには大きな効果があり、子どもを育てる上で必要なこと」という認識があります。でも実際のところは、しかったときに効果があるように感じているだけで、期待するような効果はなく、しかられた子どもの学びや成長にはつながっていないことが多々あります。つまり、「しかる」は過大評価されているのです。
「しかっちゃダメ」というのも、「しかることは効果があるけれど、しかられる子どもがかわいそうだから、ほかの方法を考えよう」ということで、「しかる」を過大評価しているのは同じです。

――「使い終わったらおもちゃは片づけようね」と、優しく話しかけても無視して遊び続けていた子どもに、「片づけなさいっ!!」と強い口調でしかったら片づけ始めた…ということがよくあります。これはしかった効果ではない、ということですか。

村中 しかったことでおもちゃを片づけ始める子どもの様子を見て、ママ・パパは「しかったから理解できたんだ」と考えますよね。でも、脳科学的に見ると、それは間違った理解です。

最初にお話ししたように、しかられると子どもはネガティブな感情を抱きます。脳の内側の奥深くには「扁桃体(へんとうたい)」というアーモンド(扁桃)に形が似た部位があり、扁桃体は恐怖や不安などのネガティブな感情に強く反応することが知られています。そして、扁桃体を中心とした脳の回路の働きは「防御システム」といわれ、ネガティブな感情を刺激されたときに「戦うか、逃げるか」の反応を引き起こすと考えられています。これを、片づけのシーンに当てはめて考えてみましょう。

強い口調でしかられた子どもの脳内では扁桃体が反応して、防御システムが作動します。低年齢の時期は暴れたり、ママ・パパをたたいたりするなど「戦う」ほうを選ぶこともありますが、年齢が上がるにつれ、「このイヤな場面から逃げるには、いうことを聞くしかない」と考えるようになります。そのため、ママ・パパの言葉通りに片づけ始めます。
ママ・パパ側から見ると、「片づけをさせたい」という欲求通りの行動を子どもが取るので、しかった効果が表れたと考えるわけですが、防御システムは学びや成長につながるものではないので、子どもはなぜ片づける必要があるのかを理解して、行動しているわけではありません。そのため、「しからないと片づけない」「何度しかっても同じことをやる」という状況が生まれてしまうのです。

危機回避には「しかる」ことが効果を発揮。ただし、切り上げ方が重要

――しかっても子どもの学びにつながらないとのこと。しかることは意味がないと考えるべきでしょうか。

村中 「しかる」には目の前の行動を変える力があるので、危険なことをやめさせるなど、子どもの行動を即座に止める必要がある場面では非常に効果的です。ただし、切り上げ方が重要になります。

たとえば、はさみを剣のように持って戦いごっこをしていたら、「危ないからやめなさい!」と、強い口調で「しかる」ことが必要な場合もあるでしょう。けれど子どもがその行動をやめたら、そこでしかることをやめなくてはいけません。さらには「けがをしたら痛いからね」と、普通の口調で話しかけ、子どものネガティブ感情をクールダウンさせてください。その後、はさみの正しい使い方を教える、という段階を踏むと、子どもの学びにつながります。

しかることが子どもの脳に及ぼすメカニズムを理解し、「しかる」とうまくつきえるようになると、「本当はしかりたくないのに、しからないとやらないから、どんどん口調がきつくなる」という悩みから抜け出せるのではないかと思います。

取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

お話・監修/村中直人先生

子どものためにしかっているつもりだったのに、実は「子どもにこう行動させたい」という自分の欲求からしかっていることがあるようです。どんなときにしかっていて、そのとき子どもはどのような行動を取るか、振り返ってみるといいかもしれません。

●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

「<叱る依存>がとまらない」

しかり始めると止まらなくなってしまうはどうして? 何度しかっても同じことをするのはなぜ? 多くのママ・パパが抱く、「しかる」ことへの疑問や悩みの解決策を、脳科学の視点と心理学の知見によって示している。村中直人著/1760円(紀伊國屋書店)

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