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「行為によって親になる」2児のパパ小説家が考える、これからの家族の形【小説家・白岩玄】

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楽しく子育てをする幸せな家族
●写真はイメージです
maroke/gettyimages

5歳の男の子と2歳の女の子のパパである小説家の白岩玄さん。子育てと執筆に向き合いながら、現代の父親としての生き方を考えるエッセイなども人気です。家庭では妻と家事も育児も分担するという白岩さんに、パパとして子育てについて思うこと、家族のつながりなどについて話を聞きました。

「いい父親」の自分と、そうじゃない自分がいる

――2022年10月に刊行された小説『プリテンド・ファーザー』は共同生活を送ることになった恭平と章吾、2人のシングルファーザーの姿が描かれています。タイトルは「父親のふり」という意味ですが、このテーマにした理由は?

白岩さん(以下敬称略) ほかの作品を書いているときに「いい父親のふりをしているんじゃないか」というセリフが出てきて、それがすごく自分の中に引っかかっていたんです。

僕には5歳と2歳の子どもがいますが、普段子どもたちと生活していて、自分がいい父親のふりをしているんじゃないか、と思うことが実際にあります。妻に怒られないようにするために育児をやっているんじゃないか、こうした取材で父親っぽいことを言うために子どもたちと接しているんじゃないか、と思うことが以前からありました。

自分が感じているこの疑問を掘り進めていった結果、この作品が生まれた感じです。自分の中のいい父親の部分と、そうじゃない部分を分けて、章吾と恭平という2人のキャラクターを作っていきました。

――生活のどんな場面で「いい父親のふりをしているんじゃないか」と感じているのでしょうか?パートナーから指摘されたりしますか?

白岩 たくさんありますけど・・・(笑)子どもの習い事とか、子どもが病気やけがをしたとき、親が判断や決断しなければいけないさまざまなできごとがありますよね。妻が夫婦2人で考えて判断したいと思って「どうする?」と僕に相談したときに、ぼくはまるで自分ごとでないように適当な返事を返してしまうことがあったんです。仕事のことを考えていたり、何か用事をしたりしているときに聞かれたからかもしれませんが「適当でいいんじゃない」「いいようにやっておいて」と丸投げしてしまうことがあって・・・。そこに妻は不満を持って「なんで私だけが決めるの」とチクリと言われたことがあります。

たしかに判断するのって大変だし、判断するにも調べなきゃいけないことはたくさんあるし、決めた自分が責任を負わなきゃいけなくなってしまうわけだから、その責任を夫婦2人で持つべきだ、というのは当然だと思うし、理解しています。
でも僕の場合、気をつけていないと瞬間的に何も考えずに「やっておいて」って言葉がときどき出てしまうんです。親としての意識のたりなさなのか・・・それで「本当はいい父親じゃないんじゃないか」と常に自分に対して思っています。

パパも家事・育児を当たり前にする姿を、子どもに見せたい

――登場人物の1人、恭平はキャリア重視の仕事人間に描かれています。

白岩 妻を亡くしてシングルファーザーになった恭平は「なぜ俺が育児なんかしなければならないんだ」という葛藤を持っています。意外だったのは、作品発表後、女性読者から、恭平への共感の声が多く届いていることです。
僕は、女性はベビーシッターで家事も育児も上手な章吾の目線で読んでくれるんじゃないかと思い込んでいて、恭平が「いい父親のふりをしている」ように「自分もいい母親のふりをしているな」と思っている女性が結構な数いるとわかっていなかったのは、反省すべきところでした。
今は女性が仕事を持つことは当たり前ですし、恭平のような仕事と育児の板挟みの状況を自分ごととしてとらえていることを知ってすごく勉強になりました。

――「偏見を持ってる男の集まりが男社会の大枠を作っている」という表現も出てきますが、これも印象的でした。このような無意識の偏見についてどう考えますか?

白岩 変えていくためには、社会的制度が変わらないと難しいところもあるし、時間がかかると思うので、いきなり大きなことができるとは思っていません。まずは自分自身が、自分たちがどれだけ偏見を持っているかを自覚することが大事だと思っています。

僕たちの世代はまだまだ凝り固まっているところがあるかもしれませんが、僕たちの子どもの世代は自分がどうなりたいか、どうありたいかをこれから決められます。だから、僕はなるべく家事育児を当たり前にする姿を子どもたちに見せるようにしたいと思っています。

あとは、社会の決まりごとを子どもたちに押しつけすぎないようにしたいとも強く感じています。一緒に遊ぶときも、家事をするときも、パパだからママだからとか、男の子だから女の子だからとは言わないし、息子が一般的に女の子が遊ぶとされているおもちゃを選んでも「それは女の子のおもちゃだよ」とは言わないようにしています。

血縁ではなく親としての行為の積み重ねが、信頼関係を作る

――最近では、既存の家族の形にとらわれない「新しい家族の形」も増えてきています。これからの家族のあり方にはどんな可能性があるでしょうか。

白岩 今回の作品の帯には「拡張家族の物語」という言葉がありますが、自分では家族の形について書こうと思っていたわけでもなく、書きながらこんな形になったというのが実際のところです。

ただ、自分の子どもと接する中で、彼らがどれだけ血とか親子関係を理解しているか?と考えると、きっと理解はしていないと思うんですよね。ずっと一緒にいて信頼できると思えたからママ・パパと呼んだりしているだけのことで、だれであれ信頼できる関係であれば家族は成り立つのかなと。

一方で、恭平と章吾のような、男性同士の連帯も、増えるべきだと思うんです。日本の家庭ではこれまで父親不在になってしまいがちで、そこに可能性が見いだされてこなかった気がしますが、父親っていうものが社会的に担えるものはもっと大きいと思います。

――男性や、父親をテーマとした作品が続いているようですが、今後はどんなテーマを考えていますか?

白岩 男性三部作となるようなテーマとして、男性のなりたちを真剣に考えてみたいな、と思っています。僕自身が男の子を育てているからなのか、とくに、この子がどのようにして自分のような大人の男性になるのだろう、と考えることがあるんです。

自分も、社会からの「男の子らしさ」というたくさんの押しつけがあって大人の男性としてできあがってきた。そのうちのどれだけを自分で選べただろう?選んできたんだろう?と思ったりしています。

男性自身も本当は傷ついたことがあってもそれには触れずに、どんなバカなことをしたかとか自慢話や笑い話にしますよね。そういった“男性”ができあがるまでのブラックボックス的な部分を解き明かしたいと思っています。

お話/白岩玄さん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

育てられた時代の価値観と、子どもに教えるべき価値観のはざまにいるのが、今の子育て世代なのでしょう。「父親(母親)らしさ」にしばられすぎず、子どもを大切に思う行為を積み重ねて、親としても成長していけるといいのかもしれません。

白岩玄さん(しらいわげん)

©Hidetaka Yamada

PROFILE
1983 年、京都府京都市生まれ。2004 年『野ブタ。をプロデュース』で第 41 回文藝賞を受賞しデビュー。同作は第 132 回芥川賞候補作となり、テレビドラマ化される。他の著書に『空に唄う』 『愛について』『未婚 30』『R30 の欲望スイッチ――欲しがらない若者の、本当の欲望』『ヒーロ ー!』『たてがみを捨てたライオンたち』、共著に『ミルクとコロナ』がある。

●記事の内容は2023年3月の情報であり、現在と異なる場合があります。

『プリテンド・ファーザー』

妻を亡くして4歳の娘を育てる36歳の恭平と、1人で1歳半の息子を育てる章吾。高校の同級生だった2人が、それぞれの娘と息子と一緒に4人暮らしを始めて・・・。シングルファーザー同士の暮らしを通して「親になること」と向き合う物語。

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