こどもたち自身のリアルな声をオンラインアンケートやSNSで集め、政策にいかす「こども家庭庁」
2023年4月から開設される「こども家庭庁」。児童虐待や深刻な少子化などこどもをめぐる幅広い問題に取り組むための、国のこども政策の司令塔となるそうです。改めて創設の理由やめざすことなどについて、内閣官房こども家庭庁設立準備室 井上泰輔さん、加藤朱明子さんに話を聞きました。
こどもや子育て当事者の声を反映した政策を進めるために
――乳幼児やこどもを育てるママやパパにとって、身近なニュースでもある「こども家庭庁」の発足。これまでと何が変わるのか、どんなことをめざすのか、「こども家庭庁」が創設される理由を教えてください。
井上さん 新型コロナの中で、少子化はさらに深刻化し、また、児童虐待、いじめ、こどもの貧困など、こどもを巡る課題は一段と複雑化しています。そのような中で、こども政策をわが国社会のど真ん中にすえ、こうしたさまざまな課題に、こども目線に立って適切に対応し、たて割りを排した行政を進めていくための司令塔として「こども家庭庁」は創設されました。こども家庭庁が強い司令塔機能を発揮することで、たて割り行政の中で進まなかった、こどもを巡るさまざまな課題に取り組んでいきます。
――準備の初期には「こども庁」という名称で進んでいたかと思いますが、「こども家庭庁」となったのはどうしてでしょうか。
井上さん 1989年に国連総会で採択され、日本は1994年に批准した『児童の権利に関する条約(※)』の前文の考え方において、こどもは、家庭環境の下で、幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべきとされています。こどもは家庭を基盤としており、こどもの健やかな成長にとって、家庭における子育てを社会全体でしっかりと支えることがこどもの幸せにつながるとの考えから、新たな組織の名称を「こども家庭庁」としました。ただ、さまざまな事情で家庭での養育が困難なこどももいます。すべてのこどもにできる限り家庭と同じような養育環境を確保することも、こども基本法における基本理念の一つとして掲げられています。
――何歳から何歳までをこどもと捉えるのでしょうか?定義はありますか?
井上さん 年齢での区切りはありません。こども家庭庁の設置法や『こども基本法』において、こどもの定義は「心身の発達の過程にある者」です。こどもが大人として円滑な社会生活を送るまでの成長過程は、環境にも左右されますし、またこどもによって個人差もあります。そのため、それぞれのこどもや若者の状況に応じて必要な支援が18歳や20歳といった特定の年齢で途切れることなく行われて、円滑な社会生活を送ることができるようになるまでを社会全体で支えていくことが必要であるという思いから、年齢を区切った形にはしていません。
大人の想像した政策だけでは必要なこどもに支援が届かない
――「こどもまんなか社会」をめざすこども家庭庁。こどもの政策は大人の想像の範囲で作られ、こどもの声を聞くことがほとんどなかったことも問題とされていますか。
井上さん 2022年の9月から2023年の1月まで、小倉將信こども政策担当大臣が直接こどもや若者、子育て当事者や支援団体などから話を聞く『こどもまんなかフォーラム(※)』を6回にわたり実施してきました。
その中でのこどもからの意見の中に「外遊びの場が減っている」というものがありました。大人が危ないと判断し、こどもの安全を守ろうと公園の遊具を撤去したけれど、こどもにとっては楽しめる遊具がないとつまらないし、外遊びの場が減ってしまった結果になっていました。
このケースは一例ですが、国や社会を「こどもまんなか」に考えていくために、当事者であるこどもや若者、子育て当事者のみなさんの意見を聞いて政策に反映したいと思います。
こどもの意見をどのように取り入れるのかについて、『こどもまんなかフォーラム』のようなこどもたちの意見交換の場を定期的に設ける予定です。
こどもの意見はSNSなども活用して取り入れたい
――これまでの準備段階でそのほかにも行ってきたことはありますか。
加藤さん(以下敬称略) 2022年度中には、どのようにこどもの意見を聞いたらいいか、オンラインでのアンケートやSNSなどさまざまな方法を組み合わせて実際にこどもの声を聞くなどの調査研究を行なってきました。
2000人以上の規模でこどもや若者から意見を聞きましたが、たとえばSNSのオープンチャット機能を使い、人数や年齢層別にグループ分けをして意見を聞いてみたところ、顔を出したり直接話したりするよりも、オープンチャットで自分の都合のいいタイミングのほうが意見を言いやすいという声がありました。
こども家庭庁が発足後には、政府の取り組みに対するこどもたちの意見を集める方法の1つとして、小学生から20代までの1万人規模のこども・若者から意見を聴く仕組み『こども若者★いけんぷらす』を開始します。登録してくれた人には、意見交換会やアンケートに参加してもらいます。
また、こどもの意見を聞く方法は、会議室でリアルに集まり意見交換をする、オンラインでアンケートに答える、などのほかに、SNSを活用する方法も組み合わせ、こどもが意見を伝えやすい方法を選んでもらえるようにしたいと考えています。
――では乳幼児期から就学前ころのこどもたちのことはどのように考えていますか。
井上 『こども若者★いけんぷらす』には、小学校入学前までのこどもは対象には入っていません。幼児期のこどもたちの意見をどのように聴いていくべきかは、引き続き調査研究を進めていく予定です。
低年齢のこどもの意見をどう聞くかは難しいところです。私も2人目のこどもが生まれたばかりなんですが、赤ちゃんは「おなかがすいた」「おしりが気持ち悪い」と泣くことで大人に要求を知らせてくれます。その様子を見ると、生まれたばかりの子であっても人として意見を持っていると感じます。
意見を言語化することが難しい年齢のこどもたちも、表情や声、態度などで気持ちや意思を伝えてくれています。そうした気持ちや思いが日常生活の中で周囲に受け止められ、尊重される体験をこどもたちが積み重ねていくことが、こどもの声を聴く社会をつくるスタートであり、大切なのだと思います。
お話・監修/内閣官房こども家庭庁設立準備室 井上泰輔さん、加藤朱明子さん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
井上さんは「こども家庭庁がこどもの意見を反映する姿勢を示すことで、ほかの省庁や地方自治体にも、こどもや子育て当事者の意見を反映する流れを作っていきたい」と話します。
●この記事の中では「子ども」を「こども」と記しました。
●記事の内容は2023年3月の情報であり、現在と異なる場合があります。